アヌシー国際アニメーション映画祭2018のテレビ部門で、グランプリのクリスタル賞を獲得したエリック・オー監督『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』。1話あたり約5分、全10話の短い作品であるが、その中にはアニメーションならではの表現が濃密に詰まっている。それは、3DCGのアニメーションスタジオから独立した作家が、手描きの魅力を追求した結果だった。

『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』より

『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』を制作したトンコハウスは、堤大介とロバート・コンドウの2人によって2014年に設立されたアニメーション制作スタジオだ。ともにアニメーションスタジオの雄であるピクサー出身であり、堤はアートディレクターとして、コンドウは背景美術として、リー・アンクリッチ監督『トイ・ストーリー3』(2010)やダン・スカンロン監督『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013)に参加している。

トンコハウスの初作品、手描きによりつくられた短編アニメーション映画『ダム・キーパー』(2014)は2015年米国アカデミー賞短編アニメーション部門にノミネートされた。『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』は、この『ダム・キーパー』の世界や登場人物を引き継ぎ、総監督を堤とコンドウ、そして2人と同様にピクサーからトンコハウスへ移ってきたエリック・オーが監督を務めた作品だ。

描かれた線が喚起する想像力

『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』は、触れるとあらゆるものが枯れて死んでしまう黒い雲が押し寄せてくる丘で、その雲を風で押し戻す風車型の「ダム」を管理する豚のピッグが主人公だ。黒い雲の正体を探りに旅立った父を思いながらも、友人であるキツネのフォックスやカバのヒッポを始め、町の住人を雲から守る責務についている。

本作の登場キャラクターは言葉を発しない。時に複雑な感情や状況を、すべて動きで表現している。総監督の堤大介は本作を十編の詩のように考えており、あえて説明せずにできるだけ見ている人に委ねることを意識していると語っている(註1)。必然的に作品の動きの部分が重要になってくるわけだが、映画の『ダム・キーパー』がパステル調の映像処理をされているのに対して、本作ははっきりとした輪郭線によってキャラクターたちが表現されており、シンプルな線の動きによる表現が意識されている。かつて本作のスタッフが働いていたピクサーの作品とは異なり、キャラクターの表情や仕草に大仰な振る舞いはない。しかしながら、一挙手一投足がはっきりと表現されているため、その動作の理由を視聴者は追い、豊かに想像することになる。また、平面で描かれているキャラクターながら、線が動くと丸みを帯び、奥行きまで感じさせるなど、3DCGの経験豊かなスタッフだからこそ可能な手描き表現が本作からは感じられる。

本作は、ストーリーボードを描き、ラフアニメーションをつくり、動きや感情表現を確認し、クリーンナップで絵を整え、色をつけるという、昔ながらの手描きアニメーションの手法によってつくられている。監督のエリック・オーによれば、本作は日米合作といっても良いくらいに多くの日本人アニメーターが参加しており(註2)、自身も影響を受けてきたという日本のアニメーションの文脈も、演出に役立っていると言えるだろう。

3DCGに比べて多大な労力と時間を要する手描きアニメーションをあえて選択するには、昨今それなりの目的や理由が必要になっているが、それを高いレベルで証明していると言っていいだろう。

『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』より。やわらかなタッチで描かれたさまざまなキャラクターが登場する

手描きだからこそできること

世界を席巻する3DCGアニメーションの総本山とでも言うべきピクサーであるが、そこから独立し、自分たちのつくりたいものを第一義に考えてきたという堤、コンドウ、オーが、本作で手描きアニメーションの手法を選択した事実は注目に値する。

一方で『ダム・キーパー』は3DCGの長編アニメーション化の企画が進行中だ。さらに2018年10月には熊本県のPRキャラクター「くまモン」のアニメーション化が発表され、企画・構成・デザインをトンコハウスが担当したが、こちらも3DCGだ。

これらのプロジェクトに手描きのクリエイティブがどれほど関与するのかはわからないが、『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』の高いレベルで結実した手描きアニメーションの表現を見ると、何かしらの形でトンコハウスならではの手描き技術が作中で引き継がれていくことを期待したくなる。


(脚注)
*1
Hulu傑作シアター「ダム・キーパー」特集
http://www.happyon.jp/watch/100023368

*2
logmi Hulu presentsトンコハウスの旅 2017 #2/3
http://logmi.jp/business/articles/215156

※註のURLは2018年11月7日にリンクを確認済み


(作品情報)
『ピッグ 丘の上のダム・キーパー』
Huluオリジナルアニメーション
脚本・監督:エリック・オー
総監督:ロバート・コンドウ、堤大介
音楽:ザック・ジョンストン、マテオ・ロバーツ

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