メカデミア(MECHADEMIA)国際学術会議が2018年5月25日(金)~27日(日)に京都国際マンガミュージアムで開催された。メカデミア・京都国際マンガミュージアム・京都精華大学国際マンガ研究センターの共催で、「Manga Nexus: Movement, Stillness, Media(マンガ・ネクサス:運動・静止・メディア)」というテーマが掲げられた。3日間の会議期間中、北米・欧州・アジアなど、15カ国以上から訪れた59名の発表者と4名のゲストスピーカーの講演が行われた。

2~3の会場でテーマごとに発表が行われた。「メディアミックスの文脈におけるビジュアルノベルへのアプローチ:翻案、動き、コントラスト(Approaching Visual Novels in a Media Mix Context: Transfers, Movements, Contrasts)」のパネルの様子。左より、向江駿佑、レティシア・アンデロー(Leticia Andlauer)、ヨーリン・ブロム(Joleen Blom)、ファニー・ベルナベ(Fanny Barnabé)

メカデミアとは?

メカデミアは、マンガ・アニメ・ゲームなど、アジアのポピュラーカルチャー全般を扱う国際学術ジャーナル(University of Minnesota Press)であり、これまで日本や韓国、アメリカなどで国際会議を開催してきた団体である。グローバルな規模で普及している日本のマンガ・アニメ・ゲームなどをめぐる多様な現象や文化的実践を中心に、その文化かつ制作と関わる歴史、美学、記号学、理論などの研究を議論する場である。2006年から始まり、年次にデジタルと紙媒体でジャーナルが発刊され、当時は日本・アジアのポピュラーカルチャーを中心とする唯一の英語ジャーナルであり、海外におけるこの研究分野の発展に寄与した。現在は「メカデミア―セコンドアーク(Mechademia Second Arc)」というタイトルで年2回出版される。これまでのジャーナルや会議では、大塚英志、東浩紀、トーマス・ラマール、マーク・スタインバーグなどの日本国内外で有名な研究者・評論家および佐藤大などの制作者が参加している。
今回は、メカデミア創立者のフレンチー・ランニング(Frenchy Lunning/Minneapolis College of Art and Design)、名古屋の世界コスプレサミットイベントオーガナイザー、エドマンド・ホフ(Edmund Hoff/青山学院大学)、京都精華大学国際マンガ研究センターのユー・スギョン(Sookyung Yoo/京都国際マンガミュージアム)、アニメ研究に携わる筆者(Stevie Suan/当時は京都精華大学、2019年度から法政大学)、の4人が大会をオーガナイズした。

個人研究者の発表

日本国内外から招聘された幅広い研究分野をもつ発表者による発表が行われ、すべてにおいて英語が使用された。テーマが定められたパネルごとに、2~4人が発表するという形式だ。プログラムはメカデミアのサイト内に掲載されている。ここでは、発表内容を簡単にまとめよう。
まず、多くは地域研究と関わる発表であった。例えば、東アジアの諸メディアの状況である。BL(ボーイズ・ラブ)マンガについて、台湾と中国それぞれの国の市場を社会学的に分析した研究が報告された。また文化人類学者からは、韓国のゲーム会社でマンガ業界に憧れつつイラストの仕事をするゲームクリエイターについて紹介され、ゲームとマンガ業界の複雑な関係について説明された。さらに東南アジアについては、タイのポピュラーカルチャーであるコミックスと映画、インドネシアとタイにおけるBL同人誌活動の研究も発表された。
日本国内外で人気のあるビジュアルノベルとして「乙女ゲーム(女性向け美男子ゲーム)」をテーマとしたパネルも2つあり、ゲームについてだけでなく、プレーヤーとキャラクターの役割の分析とキャラクター・タイプの歴史的な展開について議論した。

「ボーイズラブのメディア交流I―東アジアを中心に (Boys Love (BL) Media on the Move I: East Asia)」のパネルの様子。左より、チャオ・ティエンイ(Chao Tienyi)、ヤオ・ジョウ(Yao Zhao)、長池一美

歴史に関連した研究も多数発表され、例えば、日本の少女マンガを語るうえで欠かせない60年代の少女マンガの変遷についての報告や、日本のマンガ・アニメにおける戦争の描写についてのパネルもあった。教育の面では、授業で活用される日本のポピュラーカルチャーのコンテンツの方法論的なメリット・デメリットや、保育園における日本アニメの絵本版や、玩具を通した母子関係の成長について論じた発表者もいた。
さらにメディア研究の発表も数多くあった。メディア媒体としてほとんど研究されていない、マンガ・アニメにおける音楽・音声との機能について、3人の専門家がこの独特な視点を探求した。哲学とメディア論を通じて日本のマンガ・アニメの表現について論じるパネルでは、マンガの記号学的な分析や、現在ブームになっている「異世界」というジャンルと社会論の関係性、そして日本のテレビアニメの特定の動きにより生成されるキャラクターの「自己」とその研究方法の可能性について細かく検討した。
メディアとしてのマンガ・アニメ・ゲームの研究に限らず、そのメディアと関わる文化的実践についての発表も数多くあった。コスプレ活動の国際化やコスプレとキャラクターの関係性と諸メディアのあいだの相互関係についての報告がおこなわれたほか、ここ数年で急速に増えてきた2.5次元ミュージカルのパネルにおいては、マンガ研究、アフェクト(情動)理論、ファン研究といったさまざまな観点からこの現象が分析された。
これらの発表は、マンガ・アニメ・ゲーム研究分野における新たな視点を提供し、その領域を広げたといえるのではないだろうか。

「戦争をめぐるメディアと物語 (Narratives of War across Media)」のパネルの様子。左より、石毛弓、アルバロ・エルナンデス(Alvaro Hernandez)、アンドレア・ホルビンスキ(Andrea Horbinski)、水島新太郎

4名のゲストスピーカーによる講演

初日の25日には、2人の発表者と参加者による本会議(Plenary Sessions)が行われた。デボラー・シャムーン(Deborah Shamoon/シンガポール国立大学)のレクチャーでは、内面的・感情的なことを表現する仕組みがあふれている日本の少女マンガとアメリカのスーパーヒーローコミックスを比較し、それぞれのコマ、吹き出し、絵、言葉などの使い方を分析して、それぞれの内面的な表現のメカニズムと歴史的な展開について論じた。次にパトリック・ガルバレス(Patrick Galbraith/東京大学)は、「ロリータ」という言葉の歴史の研究成果を報告。コミックマーケット、マンガや同人誌を調べあげ、その意外な起源、言葉の意味合いの変遷について詳細に述べた。
26、27日にはそれぞれ伊藤剛(東京工業大学)と竹宮惠子(京都精華大学国際マンガ研究センター)が基調講演を行った。伊藤は今までの研究と同様に日本マンガの表現論を展開させ、新たな概念である「多段階フレーム」について解説した。多段階フレームとは、マンガにおける入れ子的なフレームの構造のことを指し、具体的にはキャラクターの目にある「ひかり」のフレームから、目というフレーム、さらにコマや紙面へと、どんどんフレームが展開されていくことだという。竹宮は少女マンガの歴史をたどり、自身のキャリアの発展について述べた。また、ほかのマンガ家の作品を具体例として挙げながら、線やコマ割りの流行と、そこから脱却していった理由とその仕組みを丁寧に説明した。

マンガ・アニメ・ゲーム研究の国際的な展開

3日間の会議期間中、発表者に加え、合計約300人以上の参加者による各発表者の発表後の質疑応答などで熱い議論が続いた。この刺激的なイベントを振り返ると、概ね現在のマンガ・アニメ・ゲーム研究の最先端においては2点が明確になった。(1)これらの諸メディアに対するグローバル化された現状と、(2)それぞれのメディア/メディウム・スペシフィシティ(メディアの特性)についての研究は、この研究分野を発展させるために重要であるということである。今回の会議により、メカデミア・京都国際マンガミュージアム・京都精華大学国際マンガ研究センターとのパートナーシップはより深まり、国際的なマンガ・アニメ・ゲーム研究に新たな道を開いたのではないだろうか。
次回のメカデミア国際学術会議は、2020年5月に再び京都国際マンガミュージアムで行う予定である。ちょうど東京オリンピック開催目前の時期、日本をはじめとするアジアのマンガ・アニメ・ゲームを、世界に向けて発信する好機となるであろう。


(information)
メカデミア国際学術会議
Manga Nexus: Movement, Stillness, Media(マンガ・ネクサス:運動・静止・メディア)
日時:2018年5月25日(金)~27日(日)
会場:京都国際マンガミュージアム
主催:メカデミア(MECHADEMIA)、京都国際マンガミュージアム、京都精華大学国際マンガ研究センター
参加費:4,000円(マンガミュージアム入場料込み)
京都国際マンガミュージアムホームページより
http://www.kyotomm.jp/event/eve_mechademia2018/
メカデミアホームページより
http://www.mechademia.net/2018/05/21/mechademia-kyoto-conference-schedule-now-online/

※URLは2018年12月26日にリンクを確認済み