概要

国際的にも注目されてきた日本のメディアアートを、その黎明期からの興盛を支えたのが民間企業のメセナ(文化貢献)活動だ。企業による文化プログラムは1985〜2005年の間に多く生まれたが、現在も継続しているものはわずかしかなく、作品や資料については企業の方針次第で廃棄・放置されているものもある。本事業は、作品の行方や存在の有無を調査するとともに、残された作品記録、関連資料をプロジェクト単位で収集し、デジタル化し保存することを目的とする。
実施体制は、愛知県立芸術大学の関口敦仁(総合ディレクション)、阿部一直(ディレクション、企業交渉調査)、明貫紘子(歴史的考察、資料整理)、水野響(事象整理、資料整理)四方幸子(ディレクション、原稿執筆作業)というメンバーである。一次・二次資料の収集と目録作成、年表作成、インタビューを行う予定だ。

中間報告会レポート

報告者:愛知県立芸術大学 美術学部 非常勤研究員 明貫紘子

調査の主な対象は、特定の場を持たずに年1~2回アーティストと共同でコミッションワークを実施した「キヤノンアートラボ」(1991-2001、キヤノン株式会社)、「生活とアートの融合」をコンセプトに活動する複合文化施設「スパイラル」(1985-、株式会社ワコールアートセンター)、ネットアートのプラットホームとして機能したインターネット上のアートスペース「CyGnet」(1998-2003、株式会社資生堂)である。
資料が残っていない、または社内でも活動が周知されていないケースも多く、想定よりも調査対象も広いため、調査が難航している。会場からは、調査対象となるプロジェクトや時代の絞り込み、メディアアートに詳しい個人への取材、メディアアートの問題点を明らかにすることなどの提案がなされた。

明貫紘子

最終報告会レポート

報告者:愛知県立芸術大学 美術学部 非常勤研究員/映像ワークショップ代表 明貫紘子

「スパイラル」(1985-、株式会社ワコールアートセンター)、「キヤノンアートラボ」(1991-2001、キヤノン株式会社)、「CyGnet」(1998-2003、株式会社資生堂)の3つの企業メセナについて、作品史料調査・収集業務、各事業に関わった7名に対してのインタビュー調査業務、デジタルデータ化業務、調査史料目録作成業務、作品プログラム最適化業務を行った。
「スパイラル」では、プレスリリースは合本としてまとめられているほか、広報誌の「SPIRAL PAPER」がPDF化されている。2004年以降のプレスリリースと「SPIRAL PAPER」のNo.130以降は、ウェブサイトで公開されている。「キヤノンアートラボ」は当時の関係者によって組織資料が多く残されているほか、紙、写真、映像やデジタルデータなど多様なフォーマットの史料が残されていた。とりわけ、社内広報用につくられていた記録映像の資料価値が高い。また、海外へ巡回展示した作品に関する史料の一部がメセナ協議会で保管されていたが、さらに収集することが望ましい。一方「CyGnet」は、インターネット上で展開されたこともあり、開設時のプレスリリースやポストカード、事業が取り上げられた新聞記事が残されていた程度であった。アーティストからネットアート作品のソースの提供も受けた。
企業側は社内でメセナ事業の関連資料を保管しないケースが多く、当時の関係者の個人資料に当たる必要がある。これからメセナ事業が活発化した際の指標となるよう、事業開始時の資料、社内の評価やなぜ廃止に至ったかの経緯などを明らかにすることも本調査研究事業の大きな意義となろう。
デジタルデータ化業務では、展覧会風景や作品を写したリバーサルフィルム54枚をTIFFやJPEGデータに、約740点の書類をPDFに、記録映像43件をMOVファイルに変換した。調査史料目録は、複数の出所の資料をイベントベースで資料形態別の分類を中心にして記述した。多様な資料形態を記述できる目録のメタデータ・スキーマの定義や、作品/作家に関する資料、技術に関する資料といった目的別分類に関する情報の記述方法は今後の課題である。作品プログラム最適化業務では、「キヤノンアートラボ」で発表された江渡浩一郎《Sound Creatures》(1998)、関口敦仁《分離する身体》(1999)の作品プログラミングを現行のコンピュータを使って稼働できるか検証を行った。
本調査研究において平行して行った他のメセナ事業の調査では、1985年~2005年にメディアアートやデジタル表現を駆使したアートワークに対して、エレクトロニクス/コンピュータ/通信系企業が技術提供、機材提供、スペース提供などさまざまな支援を行ってきたことが確認され、企業メセナとメディアアートが密接だった時代の特徴とその位置付けが明確になった。
今後も、資料収集とデジタル化(特に個人資料の調査)を継続して行い、多面的なメディアアートの文脈形成を行っていく予定である。また、メセナ事業による資料の保管場所と公開方法、作品保存ではない作品の継承方法についても模索していきたい。

実施報告書(PDF 約2.5MB)

※敬称略