ファンワークスが制作し、2018年にNetflixで配信された、ラレコ監督による『アグレッシブ烈子(英語タイトルはAggretsuko)』が世界中で大ヒット。2019年にシーズン2が配信され、シーズン3の制作も決定した。同じNetflix配信ながら、日本発のアニメーションらしい湯浅政明監督の『DEVILMAN crybaby』(2018)や、Production I.G制作の『B:The Beginning』(2018)とはまったく違ったテイストの作品ながら、世界で人気が出たことに驚きの声があがった。そのラレコ監督とファンワークスは、2005年の設立当初から『やわらか戦車』(2005〜11)をはじめ、いくつもの作品でタッグを組んできた。クリエイターと長く付き合い、ヒット作を生み出し続けるファンワークスのプロデュース力と、これからの展開について尋ねた。

『アグレッシブ烈子』キービジュアル
©2015, 2020 SANRIO サンリオ/TBS・ファンワークス

OLあるあるを描いたショートアニメが世界で高評価

『アグレッシブ烈子』(以下、『烈子』)がこれほどまでに人気となった理由をどう分析していますか?

高山氏(以下、敬称略):ひとつには、メディアの力の大きさを感じました。『烈子』が配信されたとき、ニューヨーク・タイムズ、BBC、VOGUE、ELLE、HuffPostといった、世界の名だたるメディアが記事にしてくれました。それらはすべて署名記事なんですよね。例えばVOGUEが『烈子』の記事を書いてくれた時は、「なぜVOGUEがこのアニメを記事にしたか」というスタンスが明確に打ち出されていました。そこには署名で記事を書いているライターがそのメディアを背負っているというプライドのようなものがあるのでしょう。ファッションの分野で歴史のあるメディアのライターが、どうしてこのアニメーションを取り上げるのかを明らかにしているところに品格を感じます。

作品を見て、これは紹介しなければといった考えをしっかり持って記者が記事を書いているということですね。

高山:個人の記者が影響力のある記事を書いて世のなかを動かすところは、極めてインデペンデントな日本のチームがつくった『烈子』が世界で見られていることと重なりますね。あとは、やはりMeToo運動と重ねられて、女性の生き方に言及したアニメーションだと捉えられているように感じました。女性の生き方が注目され、ハリウッドの大物プロデューサーがセクハラで訴えられたりもして、そうしたところに『烈子』が出て、これは女性の新しい生き方を体現したアニメーションなんだと、いわば女性の新しいヒーローとして捉えられたことが大きかったと思います。

『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』(以下、『映画 すみっコぐらし』)では、予想以上にヒットしたとのことですが、『烈子』のそうした広がり方は意図していたことですか?

高山:そこまで考えていませんでした。最初はTBSの『王様のブランチ』向けに日本の若い女性をターゲットにしたアニメをつくっていました。1分のショートアニメーションをどういったお話にするかをみんなでいろいろ考えながら制作していたんです。それはNetflix向けになったときも同じです。このキャラクターで女性の新しい生き方を体現しようといった大義は本当になくて。たまたま、時代がちょっと合ったということです。世に出ると、以外と予期していないことが起こるものですね。

それが世界で大ヒット。Netflixで3期目まで決まったからには、『烈子』は今や世界が認めたキャラクターということになります。

高山:3期が決まったのは、キャラクターが定着したことがありますし、あとは大作のアニメと比べ『烈子』が比較的リーズナブルだからなんじゃないですか。次が決まりやすい(笑)。

『アグレッシブ烈子』作中カット
©2015, 2020 SANRIO サンリオ/TBS・ファンワークス

『やわらか戦車』から始まったラレコ監督との制作

『烈子』を手掛けたラレコ監督は、それこそファンワークスが設立された当初の『やわらか戦車』の頃からの付き合いになります。最初の出会いは、同じようにネットで発表されていた『くわがたツマミ』(2005〜11)の頃ですか?

高山:そうですね。大阪のFlashアニメのイベントで作品を見て声をかけました。イベントには『秘密結社 鷹の爪』のFROGMANさんも出ていて、会いに行こうと思っていたんです。新海誠さんの『ほしのこえ』(2002)があって真島理一郎さんの『スキージャンプ・ラージヒル・ペア』(2002)も出てきて、これからは個人クリエイターによるアニメーションがおもしろくなると感じていました。フランスでメビウスのFlashアニメも見て、かっこいいなあと感じキャラクタービジネスをやりたいと思ったんです。ネットでアニメーションでキャラクタービジネスというキーワードがおぼろげにありました。

ラレコ監督にはすぐに声をかけたんですか?

高山:『くわがたツマミ』を見て、すごいと思いました。秀逸なキャラクターと中毒性のある音に感動して、すぐにラレコさんに連絡をとり北千住のスタバで会いました。ファンワークスをつくったのが2005年の8月8日で、ラレコさんに出会ったのが9月くらいですか。そして12月から『やわらか戦車』の配信ですから、速かったですねえ。

『やわらか戦車』は1作で終わりませんでした。

高山:このキャラクターで当てるぜ、ということではなく、このアニメーションをどう動かすか、その問題をどう解決するかといった地道なことをずっとやってきたからでしょう。ラレコさんはすごくクリエイティブかつ職人肌の人。サンリオさんとコラボするとしたらサンリオさんのキャラクターに徹底的に入り込んでつくっていきます。

『やわらか戦車』キービジュアル
Ⓒラレコ/ファンワークス

そして15年が経ちました。ラレコ監督とは本当に長い付き合いになりましたね。

高山:そうですね。ラレコさんの作品をIPとして展開するのを『やわらか戦車』で始めて、それを『ちーすい丸』(2010、11)でテレビメディアに持って行き、『ガッ活!』(2012、13)をEテレでやり、『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』(2014)、『英国一家、日本を食べる』(2015)をNHK総合でやるようになりました。

ラレコ監督は一人で作業をされているんですか?

高山:最初はほとんど一人でやっていたんですが、長い作品を長期間つくるとなるとそれが難しくなってきたので、手伝いに入ってもらうようになりました。そこでラインを組んでアニメをつくるようになり、その流れを踏んで『王様のブランチ』版の『烈子』ができました。ラレコさんが一人でつくる場合もあれば、別のクリエイターがつくる場合もありました。Netflix版も15分×10本を1年未満でつくるとなると、ラレコさん一人では無理でしょうという話になり、いろいろなクリエイターと制作しています。

会社創立以来、ラレコさんとの関係が続いているのがとても興味深いです。

高山:今も次の『烈子』を進めていますが、お互いにずっと目標が持てたことがよかったのでしょう。何となく、次にはこれをやろうというのがあって続けて来ました。ラレコさんはあまり積極的にやりたいことを言う人ではないんですが、言われればちゃんと答えてくれる。そこがすごい人です。ラレコさんのためにチームを組んでずっと動いているので、このメンバーを変えたらできないというのがお互いにあるんだとも思います。新海誠監督とコミックス・ウェーブ・フィルムの関係のようなものですか。チーム間で言いたいことが言い合えるフラットな関係が続いていると思います。ラレコさんが汗をかいているところ、我々が汗をかいているところがお互いにわかり合えるかも大切です。この人と一緒だから頑張ってやっている、みたいな感覚を持ちながらやれているんじゃないでしょうか。僕自身、そんな話を彼としたことはないですが(笑)。

『烈子』がラレコ監督になったのはサンリオ側の指名だったのですか?

高山:『烈子』をアニメ化する相談があり、クリエイターを誰にするかといった相談があって、こちらからラレコさんを提案しました。『烈子』をデザインしたYetiさんもラレコさんが好きだったので彼が監督をやることになりました。

ファンワークスにとってはエースの投入です。

高山:なんですかね、たまたま次の仕事をどうしようかというタイミングだったのだと思います。サンリオさんとTBSさんとの仕事だったので我々も気合が入っていましたし、ラレコを出すという意味で相手にとって不足がなかったこともあります。ラレコさんがサンリオさんのキャラクターをやるというのもおもしろかった。それでよいならがっつりやろうという感じでした。

そして海外で大ヒット。アメリカのイベントではその人気からグッズも数多く出ています。日本でもさまざまな企業とコラボレーションが行われるようになりましたが、ハローキティなどに比べて、まだまだ知られているとは言えないキャラクターです。

高山:ストレスがたまると個室のカラオケボックスでデスメタルを歌うというキャラクターの設定なんですが、特にデスメタルというところなんかがアメリカ向きなんだろうなあとは思いました。アメリカや南米で特に受けているらしいです。それがNetflixオリジナルで展開されるというのもラッキーな話です。今は相当にヒットしたキャラクターや制作チームでないとアニメ化できませんから。『烈子』のアニメができたのはつくづくラッキーでした。

国内だけでなく海外にも目を向けて展開

『烈子』のヒットの影響はファンワークスの仕事につながっています?

高山:ちょこちょこと海外からの相談が来ていたりはします。最近はフランスのゲームキャラで「ラビッツ」のショートアニメーション『RABBITS SHORT STORIES』(2019)を世界各国のアニメーション制作会社とつくりました。いろいろとオファーはいただいていますが、きちん形として発表できているものはありません。カートゥーン・ネットワークで『アドベンチャー・タイム』(2010~18)のようなものができればといった野望は持ちこそすれ、実現させるのはハードルが高いです。中国向けに日本のチームで『破裂蛋蛋君(Mr.Egg)』(2019)をつくったりとか、ちょこちょことやっています。

海外に目を向けているのは将来性を見越してのことですか?

高山:普通に考えると、このまま日本でやっても頭打ちになると思うことがありますね。日本でつくったとしても、海外で売れるものをつくらなくてはといった発想になります。『兄に付ける薬はない!-快把我哥帯走-』(2017)は、イマジニアさんからお話しをいただき、中国のネット関連企業でアニメ事業にも力を入れているテンセント向けにつくりました。「中国に向けてアグレッシブに作品をつくってますね!」という意見も聞きますが、中国へ3時間とか5時間とかかけて行くのは気になりませんし、日本の地方都市に行くなら上海に行った方が新しい出会いがあるかもしれない、といった感覚もあります。世界で1番活況を呈しているマーケットがこれほど近くにあるなら、そこに対して興味を持たないという選択肢はどうかなと。

日本のアニメーション制作会社は、ハイクオリティのものを赤字体質でつくり続けるビジネスが多くて、行き詰まって破綻する会社も出ています。改善が進んでいるとはいえ、クリエイターの待遇の低さも指摘され続けています。ファンワークスの場合はいかがでしょう。

高山:赤字はよくないと思っています。例えば100人のチームでやっていたことを80人でできれば工数は下がり、予算の膨大化に歯止めをかけることができます。だから、うちはあまり大きくないチームで作品をつくっていけるように、クリエイターのネットワークを広げていくことで、多様なセクションを兼ねることのできる優秀なスタッフを増やして、工数を下げようと考えています。ところが、工数を下げるのではなく、クオリティを追求することを優先するのが、一般的なアニメーション制作会社の考え方になっているのではないでしょうか。そして、たいていのアニメーションは、クオリティを追求するために、予算の壁と戦いながら、気合でつくられていると思います。例えば、たくさんアニメをつくっている有名なスタジオが、赤字だというので、どういうことですかと聞いた際に、「やり過ぎてしまうんです」と言われました。それをどうにかするのがマネジメントではあるんですが、トップがそういう考え方だからこそよい作品ができるということもある。そこまでうちは努力してないとうことなのかも(笑)。

手掛けた作品の制作現場の様子から、経営方針まで話してくれた高山氏

ファンワークスの経営ポリシーは違うということですね?

高山:設立以来、会社を赤字にしたことはないです。絶対、黒字にしています。個人で会社をやっているので、赤字になったら金融機関などが面倒になります。ただ、個人ですから業績を右肩上がりにしなくてもいい。一応は黒字にしておけば誰にも口出しされません。

制作費以外の収入源も持たれるようになっているのですか?

高山:収入面では、ライツ事業の部分が増えていますね。『がんばれ!ルルロロ TINY☆TWIN☆BEARS』(2013、14、16)では幹事をやっていますし、二次利用をこちらにまかされている作品もあり、作品によっては出資もするようになっています。今後は出資比率を上げるようなこともできるのではないでしょうか。

アニメーション業界の将来をどう見ていますか?

高山:アニメ業界を背負ってないのでわからないですね(笑)。僕らの方もあえていうと、中心に行かないようにしてやっている感じなんです。手掛けた映画が「大ヒットした」と言われるようになると、いろんなコンテンツ系の会社の方が相談にいらしゃいますが、それぞれの会社のよさがあるから、うちと同列にはやらない方がよいのではないかと。同じことはやれないし、同じことをやってもつまらない。その会社にはその会社のカラーがありますから。

これからのファンワークスの目標はありますか?

高山:あまりないかなあ。上昇志向がないので(笑)。何を目標にしたらよいんだろう。今やっていることを続けていくのが目標と言えば目標です。『烈子』や『映画 すみっコぐらし』のように、想定外のことが多くて(笑)、それは狙ってできることでもないですから、あまり考えずにやることです。有名な作品の実績が増えてくると、この座組で僕たちがやってよいの? と思うような仕事が増えてきます。世のなかの見え方が変わってくるとは思いますが、会社として急拡大しようというつもりはないです。1個ずつ球を打ち返すこと。そんな感じです。

アニメ制作以外の面はどうですか?

高山:あとは、ブランディングに興味がありますね。キャラクターの業界の人と仕事をして、スヌーピーってどうしてこんなに続いているんだろうかと思います。あるキャラクターのアニメをつくったとして、わっと人が来て、逆に大丈夫かな? 長く続いたキャラクターがヒットしてしまったことが、そのキャラクターにとってよいことなのかな? とか考えてしまいます。でも、せっかくアニメーションをつくらせてもらったキャラクターだから、そこをどう続けていくかを考えるところにいたいです。毎年つくりましょうという気負いもあまりありません。続けていくことがキャラクターに対する責任! そんなことをぐるぐる考えながら仕事してます(笑)。


株式会社ファンワークス
2005年設立。同年公開したウェブアニメ『やわらか戦車』を皮切りに『がんばれ!ルルロロ TINY☆TWIN☆BEARS』(2013、14、16)、『英国一家、日本を食べる』(2015)、『ざんねんないきもの事典』(2018)等のNHKでのテレビアニメシリーズ、映画、広告、インバウンドなど多数のアニメ制作&プロデュースに関わる。2018年、サンリオ原作『アグレッシブ烈子(英語名:Aggretsuko)』がNetflixオリジナル作品として全世界配信。世界的なヒットとなり2020年第3期の配信が決定。2019年11月、劇場版『すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』が興行収入10億円を突破し、ロングラン作品として上映中。
https://fanworks.co.jp

※URLは2020年4月6日にリンクを確認済み

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