2019年に公開した「メディア芸術データベース(ベータ版)」のデータの利活用促進を目的とした会議「令和3年度メディア芸術連携基盤等整備推進事業 事務局調査事業 利活用分科会 第四回データセット利活用ワーキング」が2021年7月26日(月)にウェブ会議システム Zoomにて開催された。利活用分科会は、メディア芸術データベースの利活用を目的に、「コミュニティ形成」「利活用の促進」「アーカイブの充実」「パイロットモデルの試行」をミッションに掲げ、本会議のほか、2020年度には「メディア芸術データベースアイディアソン」「メディア芸術データベース活用コンテスト 2021」を行った。今回は、是住久美子氏、東修作氏をゲストに迎え、市民セクターにおけるオープンデータ・LODの活用、作成事例について知見を共有した。

京都府立図書館「ししょまろはん」からの広がり

是住久美子
田原市中央図書館 館長、愛知大学 非常勤講師

是住氏は2013年6月、京都府立図書館にて同館の司書による学習グループ「ししょまろはん」を結成、オープンデータの作成・公開、京都まち歩きオープンデータソンへの協力等の活動を開始した。

「京都が出てくる本のデータ」では、京都が登場する小説やマンガ、ライトノベル等の書誌情報、内容紹介、作中に登場するスポットの位置データ(緯度経度)、Web NDL Authoritiesの著者名の典拠URLに加え、「京都度」「おススメ度」といった独自の項目とともにオープンデータとして作成。登録数は2014年2月時点では30タイトルだったが、現在は437タイトルにも及ぶ。これらは、LinkDataのウェブサイトにRDF形式にてクリエイティブ・コモンズCC-BYで公開され、過去にはスマートフォンアプリ「ご当地なび」にて地図情報と関連づけて利用された。2016年からは、本に登場する京都の食べ物を実際に食べにいき、その調査結果を公開する「たべまろはん」という活動にも派生した。こちらも書誌情報や位置データとともに食べた感想が記され、画像データはWikimedia Commonsにオープンデータとして提供している。また同年、京都にゆかりのある著者の没年を調査する参加型イベント「没年調査ソン」も開始された。是住氏によると、著者の没年は著作権の保護期間を決定するために国立国会図書館が調査に当たるが、郷土にゆかりのある著者の場合、地域の公共図書館のほうがより資料や調査手段に恵まれている場合もあるという。

メディア芸術データベースに向けては、2つの提言をいただいた。地域とメディア芸術の観点では、その地域が舞台となる映画や小説、ゆかりの人物が関わったコンテンツは、地域振興やシビックプライドの醸成につながる。教育とメディア芸術の観点では、特定のテーマや歴史などを理解するには、マンガやアニメは子どもや障害者にもわかりやすく、学びにつながりやすいと是住氏は述べた。また図書館司書の立場から、作品が扱うテーマ別の検索ができると便利なのではと助言があった。

是住久美子氏
京都が登場する書籍の例
スマートフォンアプリ「ご当地なび」では、作品情報とともに経路案内も表示され、聖地巡礼に役立つ利活用がなされた
「没年調査ソン」は図書館職員以外だけでなく一般の方も参加可能

「OpenStreetMap」「Wikidata」を中心としたデータ連携

東修作
合同会社Georepublic Japan

東氏は地理空間情報系のソフトウェア開発企業に勤務する傍ら、個人としてオープンデータの普及活動に取り組んでいる。主にオープンデータベースライセンス(ODbL)のGISデータを扱っており、家族に車椅子利用者がいることから、車椅子で利用できる店舗などを落とし込んだ「Wheelmap」の日本語化など、バリアフリーやユニバーサルデザインの視点を加えたプロジェクトにも関わっている。

「OpenStreetMap」(OSM)は、基本的に地図作成を行う市民(マッパー)が自分の足で調査した地理情報を登録したものだ。それ以外にも、地理院地図や国土交通省のProject Plateau()といった既存のオープンデータのうち、ライセンス互換性のあるものも転記している。登録データは、市民、企業、自治体によるウェブサイトやアプリなどで幅広く利用されているという。「Wikidata」は、Googleのデータベース「Freebase」を初期データとし、Wikipediaの情報を転記、ウィキデータンと呼ばれる市民が情報を追加するかたちで発展させていく。事実情報には著作権は発生しないという前提で、オープンデータとして作成している。OSMもWikidataも情報の充実度にばらつきがあるため、利用者はそれを理解したうえでデータを活用、場合によってはコミュニティで情報交換しながら、利用者自身で情報の追記や編集を行う。データ作成の指針については、標準化に向けた議論が進められると同時に実情も変化していくため、情報件数をまずは増やすことを目指しながらデファクト化していくという。両者は数年前から連携を行い、共通のIDを介してスポットの基本データと地図データが関連づけらようになった。他にもOSMは「Wikimedia Commons」と、Wikidataは音声に関わるメタデータを登録するフランス発のLOD「LinguaLibre」とも連携し、ひとつの項目に対して文字・地図・画像・音声といった、多角的な視点からの利活用が可能だ。

最後に、データを扱うコミュニティのモチベーションについて、市民セクターは「興味があり、得意であり、そして社会の役に立つこと=生き甲斐」として、オープンデータ作成に関わっているのではないかと東氏は語った。

東修作氏
共通IDを介したOpenStreetMapとWikidataの連携
OpenStreetMapとWikimedia Commonsの連携
東氏によるコミュニティ活動のモチベーションについての知見

(脚注)
第三回データセット利活用ワーキングの際に、発表者の瀬戸寿一氏も本プロジェクトを紹介している。詳しくは下記レポートを参照。
https://mediag.bunka.go.jp/article/article-17901/

※URLは2021年8月5日にリンクを確認済み