9月23日(木)から10月3日(日)にかけて「第24回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が開催され、会期中にはトークセッションなどの関連イベントが行われた。9月26日(日)には、エンターテインメント部門の大賞受賞作品である『音楽』の岩井澤健治氏と、一部シーンのアニメーション制作を担当した、上甲トモヨシ氏と一のせ皓コ氏によるユニット・デコボーカルによるワークショップ「岩井澤健治とデコボーカルのロトスコープ道場〜入門編〜」が開催。本稿ではこのワークショップの様子をレポートする。

参加者の作品をコマ撮りして、簡単なアニメーションとして再生する

『音楽』をつくりあげたロトスコープ

「第24回文化庁メディア芸術祭」のエンターテインメント部門で大賞を受賞した、岩井澤健治監督の長編アニメーション作品『音楽』。同作は、7年の歳月をかけ、実写映像を基に作画を行うロトスコープによって全編が制作されている。

監督を務めた岩井澤氏は1981年生まれ。高校を卒業後、石井輝男監督に師事しながらも、独学でアニメーション制作を行い、2008年には『福来町、トンネル路地の男』を発表した。『音楽』は脚本、絵コンテ、作画監督までを一人で手掛けた、初の長編作品となっている。

今回のワークショップは、『音楽』の一部シーンを担当したユニット「デコボーカル」が、初歩的なロトスコープによるアニメーションを参加者に教えるものだ。

ロトスコープはアメリカのマックス・フライシャーによって発明され、実写の映像をフレームごとにトレースし、連続的に撮影してシーケンスをつくることで動きをつくるアニメーションの技法のひとつだ。実際の人や物の動きをトレースするので、現実感を与えるアニメーションができる一方で、手で描かない(創造的でない)という点でアニメーションの手法としてはその価値が正当に評価されない時代も長かった。しかし、長濱博史監督のテレビアニメ『惡の華』(2013年)や、岩井俊二監督『花とアリス殺人事件』(2015年)などでは、人間の動きをトレースするからこそ可能な演出や表現を求めて採用されており、近年でも『かぐや様は告らせたい』(2019年)第3話の中山直哉が原画を手掛けたエンディングアニメーションが注目を集めるなど、テレビアニメーションのなかでもスポット的な演出手法として使われることも多い。3DCGによるモーションキャプチャーによって、実写の動きのシーケンスの取り込みが容易となった現在において、1フレームごとに手描きでトレースを行うからこそ生まれるロトスコープならではの実存感あふれる表現は評価を高めている。

今回のワークショップをモデレートしたデコボーカルは上甲トモヨシ氏と一のせ皓コ氏によるクリエイティブユニットだ。東京都小金井市を拠点に、アニメーション、イラストレーション、ワークショップ、パフォーマンスなど、子ども向けから大人向けまで幅広くさまざまなコンテンツを制作。上甲氏は『雲の人 雨の人』(2007年)、『BUILDINGS』(2008年)、『Lizard Planet』(2009年)といった作品を手掛けており、一のせ氏も『かなしい朝ごはん』(2006年)、『ウシニチ』(2007年)、『ハピー』(2008年)、『TWO TEA TWO』(2010年)といった代表作を持つ。

デコボーカルの上甲氏
デコボーカルの一のせ氏

ワークショップは『音楽』で監督を務めた岩井澤氏も参加し、子どもたちを中心とした参加者をオンラインでつないで開催された。

オンラインならではの手法でロトスコープを制作

デコボーカルはまず、オンライン上で参加している子どもたちの姿をスクリーンショットで撮影。少しずつポーズを変えて撮影し、それを連続して切り替えることで動いているように見えるという、アニメーションの基本的なコマ撮りの仕組みを説明した。

薄く印刷された実写の像に、デフォルメを加えてキャラクターに動きをつける

次に子どもたちは、事前に配られていた15枚のプリントを用意。これは、人物がボールを投げたり、しゃがんだ状態からジャンプをするといった動きを連続撮影したモノクロプリントだ。参加者は、プリントされた人物の輪郭にあわせて、それぞれデフォルメを加えながらキャラクターを描きこんだ。小道具を描き加えたり、効果線を加えたりと、各自の自由なアレンジが見られた。

動き出すオリジナルキャラクター

できあがった絵は、デコボーカルによって1秒に5枚の絵が見える速度で再生され、それぞれがアレンジをしたキャラクターが、なめらかに動く様子を参加者全員で楽しんだ。ここで制作されたそれぞれのアニメーションはデコボーカルの手によって編集され、YouTubeで公開されている。

最後に、参加者それぞれからの感想をデコボーカルが尋ねた。「とても楽しく、もっと自分でつくりたい」「またやってみようと思う」「自分のオリジナルキャラクターを人間の動きに合わせるのが難しかった」「いろいろな動きを加えることができて楽しかった」といった声が寄せられた。また、岩井澤氏は「初めてのワークショップだが上手くいってよかった」と感想を述べた。

岩井澤氏

最後に上甲氏は、今後自身でアニメーションをつくりたいときは、ウェブアプリケーション「KOMA KOMA×日文」を使用して絵を撮影することを推薦。今後も参加者に気軽にアニメーション制作をしてみてほしいと呼びかけた。


(information)
第24回文化庁メディア芸術祭 ワークショップ
「岩井澤健治とデコボーカルのロトスコープ道場〜入門編〜」
日時:2021年9月26日(日)13:30~15:00
会場:オンライン
講師:岩井澤健治(エンターテイメント部門大賞『音楽』)
デコボーカル[上甲トモヨシ/一のせ皓コ]
定員:10名
対象:小学校高学年以上(保護者同席可)
主催:第24回文化庁メディア芸術祭実行委員会
https://j-mediaarts.jp/

※URLは2021年10月30日にリンクを確認済み