「第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が2022年9月16日(金)から9月26日(月)にかけて、日本科学未来館を中心に開催された。本稿では、開幕前日の15日(木)に行われた日本科学未来館での報道関係者向けの内覧会をもとに、展示の様子をレポートする。

マンガ部門大賞を受賞した『ゴールデンラズベリー』は多数のイラストや原画が並んだ
以下の会場写真すべて、撮影:小野博史

勢いのある未完作品が多数受賞。今後の展開にも期待が高まる

1階企画展示ゾーンの最後に並ぶのはマンガ部門。大賞を受賞したのは、壁面に美麗なカラー原画11点、ケース内に第1話の原画を配した持田あきによる『ゴールデンラズベリー』。「仕事が続かない男」と「恋愛が続かない女」が、互いの存在に可能性を見出し芸能界での成功を目指す本作。未完(既刊3巻)ながら、読者を勢いよく引き込む絵とストーリー展開が評価された。各モノクロ原稿の上には同ページにセリフが組み込まれた複製原稿も配置。作者愛用の画材や主人公をイメージしたコスメ、衣服も並ぶなど、作品同様、密度の高い展示で来場者を引き込んだ。

『ゴールデンラズベリー』展示風景。原画とセリフ入り複製原画が並び、制作プロセスがわかりやすい

ソーシャル・インパクト賞を受賞したのは、女子校で担任を持つ教師、星先生の回りで起こるちょっとしたエピソードを淡々と描くギャグマンガ『女の園の星』(和山やま)。こちらも未完(既刊2巻)ながらすでにさまざまな賞を席巻、そんな勢いも納得の魅力を持つ作品だ。デジタル作画に移る手前の、線画のみの手描き原稿が並んだ。

『女の園の星』展示風景。デジタル作画に移る前の線画のみの直筆原画が並ぶ

生物化学研究によって生まれた「ヒューマンジー」(人間とチンパンジーの交雑種)の高校生チャーリーと、彼に巻き起こる事件を描く、哲学的視点を多分に含むサスペンスアクションマンガ『ダーウィン事変』(うめざわしゅん)は優秀賞を受賞。単行本表紙のカラー原画複製パネル、複製モノクロ原稿に加え、翻訳された海外版も展示された。

アメリカを舞台にした『ダーウィン事変』。ケースには翻訳版も並び、海外での反応も気になるところだ

続く優秀賞『私たちにできたこと――難民になったベトナムの少女とその家族の物語』(ティー・ブイ)は、ベトナム系アメリカ人の作者による自伝的グラフィックノベル。オーラル・ヒストリーの研究において両親の人生に向き合ったことを機に着手された。ベトナム戦争を経験した両親の人生と、出産をはじめとする作者自身の体験が交差し描かれる。約10年という長い歳月を経て完成したという本作。展示には原画のほか、作者が家族とともにかつて住んでいたベトナムの地を再訪した際の写真も添えられた。

『私たちにできたこと――難民になったベトナムの少女とその家族の物語』。原画が並ぶケースには、研究旅行の写真も

同じく優秀賞『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(浅野いにお)は、上空に巨大宇宙船が浮かぶ景色が日常化した東京を舞台に、上空に巨大宇宙船が浮かぶ景色が日常化した東京を舞台に、宇宙からの侵略者、世界滅亡の危機、パラレルワールドなどの要素が展開する壮大で重層的な世界観が描かれる。コロナ禍を経てフルデジタル作画となったという本作。在宅作業するスタッフへの作画プロセスの共有を兼ねて行われたライブ配信動画の一部を上映、そのモニターを複製原画の数々が囲んだ。

コロナ禍を経てフルデジタル作画に移行した『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』展示風景。壁面には作家直筆のイラストとサインも

『北極百貨店のコンシェルジュさん』(西村ツチカ)も優秀賞を受賞。北極百貨店を訪れる絶滅種を含む多様な動物たちと、彼らに真摯に対応する新人コンシェルジュ(人間)の奮闘を描く1話完結型マンガだ。ケースに並ぶ手描き原稿からは、更紙(わら半紙)ならではのインクの滲みが、絵本を思わせる幻想的なグラフィックに効果的に作用していることが見て取れる()。

『北極百貨店のコンシェルジュさん』。ケースを覗くと、原画は更紙に描かれていることがわかる

新人賞『ロスト・ラッド・ロンドン』(シマ・シンヤ)は、ロンドン市長殺害の濡れ衣を着せられた大学生と、過去の冤罪事件を引きずる刑事がタッグを組み真相に迫る、クライム・サスペンス作品。物語やその舞台にマッチした、シンプルかつスタイリッシュな画風はデジタルで作画されており、本展には単行本表紙のカラーイラストやモノクロ原稿などの複製を展示。

『ロスト・ラッド・ロンドン』展示風景。スタイリッシュな画風の表紙イラストは展示にも映える

同じく新人賞を受賞したのは、親の再婚で姉弟になった2人と、2人を取り巻く日常を描くホームコメディ作品『転がる姉弟』(森つぶみ)。親の再婚をはじめ、孤食や独居老人など現代的なテーマにもその柔らかな雰囲気の中で触れていく。1話、2話全ページのネームと、同話からセレクトされた手描き原画が展示されたほか、弟・光志郎(のイラスト)は、遊び回るかのようにその姿を本作エリアの外へも覗かせた。

『転がる姉弟』展示風景。ケース内には1話と2話全編のネームが

1階の展示ゾーンを締めくくるのは、こちらも新人賞の『きつねとたぬきといいなずけ』(トキワセイイチ)。アパート暮らしの青年のもとへ高尾山から電車で通う、言葉を話す子ぎつねと子だぬき。不可思議な世界観ながら、無邪気な2匹と青年とのやりとりにいつの間にか安らぎを覚える作品。カラーページ、モノクロページの複製原画に加え、同人版冊子も展示された。

同人誌版も展示された『きつねとたぬきといいなずけ』

1階では主に原画や関連資料を展示したマンガ部門。ほとんどの作家が自身の展示エリア壁面に記念のサインを残したのは、マンガ部門ならではといえよう。加えて7階コンファレンスルーム木星に設置されたマンガライブラリーには受賞作のみならず審査委員会推薦作品も加わり、実際に手にとって読むことができた。


脚注)
受賞作品展の会期中には、西村ツチカがラッパーのオノマトペ大臣と制作している冊子を、受賞記念として各日100部ずつ配布。のちに作家自身のホームページ(下記)にて公開された。
https://tsuchika.com/2022/10/01/2022-10-01/


(information)
第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展
会期:2022年9月16日(金)~26日(月)10:00~17:00
   ※9月20日(火)は休館
会場:日本科学未来館
サテライト会場:CINEMA Chupki TABATA、池袋HUMAXシネマズ、クロス新宿ビジョン、不均質な自然と人の美術館
入場料:無料
主催:第25回文化庁メディア芸術祭実行委員会
https://j-mediaarts.jp/

※URLは2022年11月30日にリンクを確認済み