2022年9月16日(金)から26日(月)にかけて「第25回文化庁メディア芸術祭受賞作品展」が開催され、会期中にはトークセッション、ワークショップなどの関連イベントが行われた。公式サイトでは、『PUI PUI モルカー』でアニメーション部門ソーシャル・インパクト賞を受賞した見里朝希氏、ゲストとして小野ハナ氏(短編アニメーション作家/画家/UchuPeople合同会社/アニメーション部門選考委員)、司会として大山慶氏(プロデューサー/株式会社カーフ代表取締役/アニメーション部門審査委員)を迎え、「アニメーション部門ソーシャル・インパクト賞『PUI PUI モルカー』トークセッション」が期間限定で配信された(現在は閲覧不可)。本稿ではその様子をレポートする。

左から、見里氏、小野氏。司会の大山氏は声のみでの出演となった

いかにして『PUI PUI モルカー』は始まったのか

まずは見里朝希氏から本作の概要や注力した点が述べられた。特に力を入れたのが、ストップモーションながら多彩なカメラワークによって臨場感あふれるシーンづくりだという。また、極力ナレーションや字幕に頼らず視聴者に委ねる画面づくりを意識し、さらにモルカーたちが巻き起こす騒動も、ただかわいらしいのみならず、社会的なメッセージを込めるようにしたそうだ。結果として『PUI PUI モルカー』は、YouTubeなどを通じて幅広い層に受け入れられることになったが、子どもだけではなく大人にも刺さるものがつくりたいという思いからではないかと話が盛り上がった。

ストップモーションでテレビシリーズをつくるという挑戦についても質問が及んだ。そもそも見里氏は、学生時代に国内外の映画祭に自身の制作した作品を応募しており、東京藝術大学大学院アニメーション専攻の修了制作であるフェルト人形のアニメーション『マイリトルゴート』が、第22回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の審査委員会推薦作品となるなど、注目を集めた作家である。このモルカーについても見里氏が大学院生のときに、自身が飼っていたモルモットから感じる癒やしと、自動車のテーマを組み合わせて考案したキャラクターだった。

このような流れのなかで、『PUI PUI モルカー』も最初は一人でつくっていたが、やはり限界を感じ、制作できる人材を集めたそうだ。そのなかの一人が今回トークセッションに参加した小野ハナ氏だ。小野氏は見里氏の大学院の先輩で、手描きアニメーションからストップモーションアニメーションまでを幅広く手掛け、エンターテインメントとアートの融合をうまくできる作家ということで見里氏が声をかけたという。

見里氏
小野氏

『PUI PUI モルカー』のつくり方

制作の手順は、まず人形や美術のセットを一挙につくり上げ、同時に見里氏や小野氏らが絵コンテを仕上げていくというものだった。美術と絵コンテが完成すると、各アニメーターが話数ごとにアニメーションの撮影を実施。1秒24コマの撮影を積み重ねることで完成した力作だ。

全編にわたって多くの労力が払われた本作だが、とくに苦労したのはどこなのか。見里氏は第8話「モルミッション」のヘリコプターの墜落シーンを例に挙げる。このカットは、懐中電灯や綿を使い爆発を表現した。また、自身で気に入っているのが第2話「銀行強盗をつかまえろ!」のカーチェイス・シーンだという。カメラを動かして迫力を出す映像作品が好きだったという見里氏は、ストップモーションでそれに挑戦した。

また、モルカーたちの声にもこだわりがあった。モルモットの声は人間には絶対に表現できないという考え方から、実在のモルモットの鳴き声を収録したものを使用したという。

多くの人に訴えかけるストップモーションの底力

社会現象といえるほど広い視聴者を獲得した本作だが、視聴者の反応について制作者としてはどのように考えているのだろうか。テレビ放送に加えてYouTubeでの配信も行われ、人気を獲得したことで、見里氏は「予想外にも家族による多くのファンアートが生まれた。見た人の創作意欲を掻き立ててくれる作品になってくれたことが嬉しい」と語る。また、小野氏も「マイナーなイメージがあったストップモーションでも、作品がおもしろければ多くの人々に届き、作品として成功することができる」と話した。

最後に、見里氏がスーパーバイザー、監督を小野氏が務めることになった『PUI PUI モルカー』の新シリーズの紹介となった。本イベントは新シリーズの放映前だったため、ドライビングスクールを舞台とした学園ものであること、モルカーと人間の関係に新たな視点を与えるものであることなどが予告として語られた。また、見里氏もアニメーション制作会社WIT STUDIOとともに新たなストップモーションスタジオを立ち上げ、新作『Candy Caries』の制作に挑んでいることについても触れられた。

2022年10月から放送のテレビアニメ『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』キービジュアル

子ども向けのストップモーションアニメながらも幅広い人気を獲得し、まさに「ソーシャル・インパクト賞」にふさわしい作品となった『PUI PUI モルカー』。同作がいかにつくられ、どういった創意工夫がなされてきたのかが監督自らの口から語られる機会となった。


(information)
第25回文化庁メディア芸術祭
アニメーション部門ソーシャル・インパクト賞『PUI PUI モルカー』トークセッション
配信URL:https://j-mediaarts.jp/festival/talk-session/
      ※2022年9月16日(金)~10月7日(金)のみの期間限定公開
登壇者:見里朝希(アニメーション部門ソーシャル・インパクト賞『PUI PUI モルカー』)
    小野ハナ(短編アニメーション作家/画家/UchuPeople合同会社/アニメーション部門選考委員)
    大山慶(プロデューサー/株式会社カーフ代表取締役/アニメーション部門審査委員)
https://j-mediaarts.jp/

※URLは2023年1月6日にリンクを確認済み