2014年3月7日から9日まで、神戸コンベンションセンターにて国際会議Augmented Human ’14(The 5th Augmented Human International Conference)が開催された。近年普及してきた考え方として、Augmented Reality(AR、拡張現実感)というものがある。これはデジタル世界の特性を物理世界の中に組み込み、実世界の環境を拡張・変容させていこうとするもので、例えばマーカーをスマートフォンのカメラで撮影すると、画面の中に映る実世界の映像に文字や画像など付加的なデジタル情報が重ねられるといった技術がある。こうしたAR技術は、研究ベースから商業ベースまで数々のシステム/アプリケーションが提案されている。今回の会議で扱われる「Augmented Human」と呼ばれる研究領域は、(デジタル)テクノロジーによって、環境のみならず人間の身体や思考の機能をも拡張しようとする注目の分野である。
今年で5回目を迎えるAugmented Human International Conferenceは、毎年世界各地で場所を変えて開催されており、今回は2011年に続いて2回目の日本での開催となった。会議はシングルトラックで、登壇発表に加えてデモ・ポスター発表の形式での議論で行われた。会議で発表された内容の中から、いくつかピックアップして紹介したい。特に今回はAugmented Humanの一つの有力な応用先としてスポーツに関連したものを挙げる。東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴い、日本でも未来のスポーツの有り様に関して様々なところで議論が展開されているが、まさにこの会議の中で示されていたのはその可能性の一端である。
今回Best Paper Awardを受賞した富永順也氏らの研究「Around Me」は、ジョギングをするランナーの前をロボットが伴走する形で進み、常にランナーに見える形で、画面にランナーの走る様子や付加情報を表示するというものである。ランナーはリアルタイムで自らの姿勢や状態を意識・修正したり、モチベーションを高めるなどの効果が期待される。太田智也氏らの研究グループは、空中でボールの内部から空気を噴射することにより、投げられたボールの軌道を制御するという研究「TAMA」を発表。また、新田慧氏らグループは、クアッドコプターを内蔵したボール「HoverBall」を発表。重力の制約にとらわれないボールの動きを可能にすると共に、インタラクティブなコントロールを実現した。
会議ではこの他にも、スポーツに留まらず、コミュニケーション支援やファッションなど、様々な文脈や用途での人間の拡張についての提案がなされた。テクノロジーによる機能拡張は、人間の営みにどのような恩恵をもたらしてくれるのか、今後も注目の絶えない研究分野である。
Augmented Human ’14