クリエイションギャラリーG8にて2014年2月21日から3月31日まで「光るグラフィック展」が開催されている。その関連イベントとして2014年2月22日に「CMYKとRGBをなめらかにつなぐ」が行われた。出演は勝井三雄氏、ラファエル・ローゼンダール氏、モデレータに田中良治氏(Semitransparent Design)、萩原俊矢氏、同時通訳はディヴィッド・ディヒーリ氏が務めた。
「光るグラフィック展」は、テクノロジーの発展により、紙とウェブ、アナログとデジタルといった区別が曖昧になりつつある近年の状況を踏まえ、グラフィックデザイナーとデジタルメディアのデザイナー(クリエイター)が同一サイズの液晶ディスプレイとライトボックスを用いて作品を発表するという展覧会で、田中氏が企画した。CMYK(グラフィック)側の作家として、勝井氏をはじめ、菊地敦己氏、佐藤可士和氏、新津保建秀氏、仲條正義氏、中村至男氏、服部一成氏、Vier5が参加、RGB(スクリーン)側の作家として、ローゼンダール氏、萩原氏をはじめ、qubibi氏、中村勇吾氏、二艘木洋行氏、渡邉朋也氏、Kim Asendorf氏が出展している。
田中氏から冒頭に企画のきっかけとなる体験が語られた。田中氏は、2008年にロンドンで、ある展覧会を訪れた。そこでは、クロード・モネ(1840−1926)の《睡蓮》とマーク・ロスコ(1903−1970)の作品が並べて展示されていた。氏はそこに編集とデザインの力を感じたという。今回の展覧会には、RGBとCYMKという異なる文脈を持ち、年齢も国籍も異なる作家が参加している。特に勝井氏とローゼンダール氏の作品が鍵になっている、と田中氏は語った。勝井氏は1931年生まれ、ローゼンダール氏は1980年生まれで、両者には半世紀近い世代の差があるものの、互いの作品には表面的な類似性にとどまらない共通性がある。本イベントではその点をめぐって議論が展開された。
ローゼンダール氏の作品はすべてインターネット上で発表されており、ドメインネームがそのまま作品名になっている。「いつでも誰もが作品を見られる」という作家のパブリック性が(唯一性を価値とする芸術絵画と比較して)自分にとっては大事であると強調した。また、ウェブではユーザの操作に応じてコンピュータが自動的に再描画を行うため、(絶対値で寸法や比率を指定するのではなく)単純なインタラクションの法則を定めることが「構成」であると述べた。
勝井氏は、2014年1月9日から1月31日にgggにて開催された個展「勝井三雄展 兆しのデザイン」を紹介した上で、学生時代の写真作品にまで遡ってそのルーツを振り返り、多数の作品を紹介した。勝井氏は、最初期から数値によってグラフィック(造形)を生成することに取り組んできた。1963年にはギョームパターンを用いた作品を発表しているが、そこではXYプロッタを使用している。メディアアートの文脈においては、XYプロッタを用いた作品としてCTG(Computer Technique Group)による《Running Cola is Africa !》(1968)が広く知られているが、このような勝井氏の取り組みもメディアアートの歴史に接続されるべきであろう。勝井氏はKarl Gerstner氏によるProgramme entwerfen(Niggli, Teufen, 1963)やKalte Kunst? : Zum Standort der heutigen Malerei (Niggli, 1957)からの影響を語り、近年のデジタルサイネージへの取り組みや、田中氏の協力を得て実現した空間への展開を紹介した。
勝井氏のプレゼンテーションを受け、モデレータの田中氏は「勝井氏の作品はロジカルであるが、同時にそこから跳躍する瞬間があり、ローゼンダール氏の作品と共通する部分があるのではないか」と発言した。それに対し、ローゼンダール氏は「自分にとっては退屈(boring)が大事で、考えない瞬間(無)から跳躍が生まれる」と応じた。また、ローゼンダール氏は、作品制作に際し、手描きからはじめていることに触れ、それをプログラミングする過程で予期しないものが出てくると述べ、自分でコントロールできる部分とできない部分の両方を残す曖昧さが重要であると語った。勝井氏は「形は理性的だが、色は感覚的である」と、色と形の違いについて語った。
プリントとデジタルの違いについて、ローゼンダール氏が「CMYKの世界にはテクスチャーやグロスがあり、光の具合によって変化するなど、デジタルにはない要素がある」と述べると、勝井氏は「人類が時間を表現に取り込むことができるようになったのは映画の発明以降であり、印刷の500年にわたる歴史からすれば、ごく最近の出来事である」と指摘し、「動きや時間をデザインすることができることがデジタル表現の特徴である」と議論を展開した。また、モデレータの萩原氏は、ローゼンダール氏のプログラマとのコラボレーションについて触れ、卓越したグラフィック作品の背後に優れた印刷職人の技があるのと似た部分があるのではないか、と述べた。
「日本のグラフィックデザインをどう思うか」と田中氏がローゼンダール氏に尋ねると、ローゼンダール氏は日本の版画がオランダからヨーロッパに紹介されたという歴史に触れ、「日本的な線はテクノロジーとの親和性が高いのに対し、西洋の絵画はアニメーションになりにくい」「日本のポップカルチャーの隆盛はそのような事情に関係があるのではないか」と応答した。その発言を受けて、勝井氏は、自らのルーツである江戸文化について語った。京都の王朝文化に対して、江戸の「粋」は大衆文化であると述べ、「新しいものが好きだが、おっちょこちょいで、それでいてこだわりを持つという粋の感性が、日本のデザインを下支えしている」と語った。それに対して、ローゼンダール氏は「お金がかからないインターネットはまさに大衆文化である」と応答した。
世代も国籍もバックグラウンドも異なる2人の作家が、互いをリスペクトしながら議論を交わす光景はたいへんに刺激的であった。著者も含め、会場に集まった若い世代の観客にとって、勝井氏の先駆性かつ継続的な取り組みには、学ぶところが多かったのではないかと思う。同時に、ローゼンダール氏の作品に対する理解もこれを機に深まることだろう。RGBとCMYKの2つの世界の融合について、これまでにも多くが語られてきたが、本イベントのように具体的で実りのある議論はたいへん貴重である。企画を立案した田中氏に敬意を表すると同時に、今後の展開に期待するものである。
左から萩原氏、ローゼンダール氏、ディヒーリ氏、勝井氏、田中氏
光るグラフィック展
http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/g8_exh_201402/g8_exh_201402.html
Rafaël Rozendaal – Official Website
勝井三雄氏ホームページ