「comiXology]は、デジタル・マンガを専門に配信する北米のプラットフォーム。マーヴェル、DCを含む75以上の出版社と契約し約3万冊のマンガを揃えており、2012年10月に100万ダウンロードを達成した。2012年度のダウンロードがそのうちの半数を占めており、近年急成長しているこの分野を代表する会社だ。iPhone、iPad、Android、Kindle Fire、Windows 8、そしてweb上での購入と閲覧が可能となっている。
マーヴェルとはデジタル・マンガのシングル・イシュー(各号)について独占契約を結んでおり、シングル・イシューをまとめたバージョンが購入可能なアマゾンKindleと、マンガ専門のプラットフォームとして差別化をはかっている。
最近では、『サイボーグ009』といった石ノ森章太郎作品の英語訳版を取り扱い始めたことが話題となった。
この「comiXology」がフランスのパリにヨーロッパ支社を開設し、ラインナップとプラットフォームの多言語化を目指す。
すでに、2013年1月末にフランスで開かれたアングレーム国際マンガ・フェスティバルでは、フランス・デルクール社との契約成立が発表されている。
デルクール社はフランス大手4大マンガ出版社のひとつで、フランスにおけるデジタル・マンガ・プラットフォーム「Izneo」からの離脱を1年前に発表しており、その後の展開が注目されていた。「Izneo」はフランス4大マンガ出版社のもうひとつの雄であるメディア・パーティシパシオン社が進めるデジタル・マンガ・プラットフォーム。2013年2月現在で約3,500冊とそれほどの冊数は用意されていないが、幅広い出版社の協力と『ラッキー・リューク』や『XIII』といったドル箱作品のラインナップで、フランスにおけるこの分野を代表する会社となっている。また、通常の購入・レンタルのほかに、月額9.90ユーロという定額制度も導入している。
デルクール社は出版点数でこそメディア・パーティシパシオン社に勝っているものの、売上においては後塵を拝しており、同社の選択はこれからのフランスにおけるデジタル・マンガの普及を考える上でも興味深い(ちなみに残りの2社はグレナ社とガリマール社で、傘下の出版社を含めるとこれら4大出版グループで2012年度全出版点数の約45%を占めている)。
「comiXology」「Izneo」は共に、当然のことながら日本マンガのデジタル配信に興味を持っており、すでにいくつかの作品がラインナップに加えられている。版面の大部分を流用することになるマンガの翻訳は、小説などの文字本の翻訳に比べ、こういったデジタル配信との親和性が高いといえるだろう。
海外における日本マンガの人気はしばしば喧伝されてきたが、アメリカ、フランスでのメインストリームはあくまで別のところに存在してきた。そして、日本マンガ売上の落ち込みとメインストリームへの吸収が目立つようになっている昨今では、日本マンガだけのデジタル・マンガ・プラットフォームはそれほど長く持ち堪えられないだろう。
だが「comiXology」「Izneo」も、より大きなメインストリームであるアマゾンに対しどれほどの独自性を打ち出せるのか、これからが興味深い。
「comiXology」ヨーロッパ支社開設のプレス・リリース
http://blog.comixology.com/2013/01/28/comixology-opens-comixology-europe/