Critical Inquiryはシカゴ大学出版局から発行されている人文系の査読付き学術雑誌。1974年に創刊され、著名な学者が寄稿する媒体として知られる。このCritical Inquiry40巻3号(2014年春号)で、「Comics & Media」と題された特集が組まれている。本特集は、2012年5月18日から20日にかけてシカゴ大学で開かれたシンポジウム「Comics: Philosophy & Practice」の報告書を兼ねて編まれたもの。
現在の編集長は、言葉とイメージに関する研究者、あるいはヴィジュアル・カルチャー・スタディーズの先導者の一人として世界的に有名で、イメージと物語、あるいは時間や歴史についての論考を集めた重要な論集『物語について』(1987年、平凡社)の編著者でもあるW.J.T.ミッチェル氏が務めている。氏の著作としては、『イコノロジー:イメージ・テクスト・イデオロギー』(1992年、勁草書房)が既に日本語に翻訳されている。
「後書き」と呼ぶには学者としての業まで感じさせるあまりに美しい論文のなかで、ミッチェル氏は、かつて多くの人がなぜマンガについての論文を書かないのだと尋ねてきたが、私にとってマンガは批評家・理論家としてのインスピレーションの源泉のようなもので、その秘密の庭を明らかにしたくはなかったのだと述べていた。その言葉にはホストとしての幾分のリップ・サービスが含まれていたにせよ、言葉とイメージの問題を考える際に、とりわけアメリカにおいてマンガという分野が無視できない領域であることを示しているだろう。
本特集号にも豪華なメンバーが論考を寄せており、たとえば映画研究者のトム・ガニング氏やスコット・ブキャットマン氏は、映画やパノラマ、あるいは彫刻と対比させながら、ロドルフ・テプフェール氏(1799-1846)、ウィンザー・マッケイ氏(1871-1934)、『ヘル・ボーイ』のマイク・ミニョーラ氏などの作品を参照しつつ、あるいはマンガ研究者のデヴィッド・カンズル氏、スコット・マクラウド氏、ティエリ・グルンステン氏などを引用しながら、マンガにおける動きと不動性の問題について論じている。
また、シンポジウムには、ロバート・クラム氏、セス氏、クリス・ウェア氏、アート・スピーゲルマン氏、ゲーリー・パンター氏、ジョー・サッコー氏、ダニエル・クロウズ氏など、錚々たるマンガ家も参加していて、彼(女)らの登壇したパネルの模様も本特集には再録されている。
その他にもバレエとの関連について論じたものや、チャップリンという映画だけでなくマンガにおいても歴史的に重要な役割を果たしたイコンをとりあげた論文など、いくつもの興味深いものが含まれているので、興味がある方はリンク先の目次を参照してほしい。また、本特集号にはシンポジウムに参加した作家たちによるイラストレーションや作品も数多く含まれており(シンポジウムのポスターはクリス・ウェアの手によるものだった)、kindleなどの電子書籍版での購入も可能だが、特別に通常よりもサイズの大きい判型で出版された紙媒体のほうで入手しておくのもいいかもしれない。
Critical Inquiry: Comics & Media
http://criticalinquiry.uchicago.edu/past_issues/issue/spring_2014_v40_n3/