オックスフォード大学のアメリカ出版局は「2012年の言葉」に動詞としての「GIF」を選んだ。GIFはファイルフォーマットを示す「名詞」としては既に英語辞典に掲載されているが、「動画や写真からアニメーションをつくる」という「動詞」の意味はまだない。
日本のネットジャーナリズムではあまり見かけないが、アメリカではオリンピックや大統領選挙の際にGIFが「短い動画」として利用された。アメリカのニュースサイト The Atlantic Wireはオリンピックの解説記事にGIFを活用し、自動的にループ再生されるGIFアニメがスポーツの解説記事に相性がいい画像であることを示した。また、ネット上でのGIFの流通の大きなプラットフォームとなっているミニブログサービスTumblrは、イギリスの新聞 The Guardianとともにアメリカ大統領選挙で行われたオバマ氏とロムニー氏のディベートを「Live-Gif=生GIF中継」した。こちらは解説というよりも、ディベートが白熱した際の両候補のしぐさを誇張するような面白さを狙ったものになっている。
「2012年の言葉」として選ばれたGIFであるが、以前からこの画像形式をひとつの表現手段として用いてきたポスト・インターネット界隈はこのニュースにさほど反応していない。例えば、数多くのGIFアニメを作り、批評活動もしているトム・ムーディー(Tom Moody)氏や、GIFの展覧会をキュレーションしたことがあるパディ・ジョンソン(Paddy Johnson)氏は、このニュースについてのコメントを自らのブログニュースサイトで書いていない。ムーディー氏はかつて、GIFアニメは「打ち捨てられた広場やプールのようだ」と「animated GIF Q and A」と題されたインタビューで語っている。スケーターが打ち捨てられたプールでスケボーをするように、アーティストにとって格好の遊び場であったGIFが、突然スポットライトを浴びることなり、ムーディー氏らには違和感があるのかもしれない。
さきほど「突然」と書いたが、2012年にGIFが注目を集めるようになったのには、TumblrがGIFの流通のプラットフォームとして機能してきたことが影響している。2012年12月2日の時点でTumblrへのポスト数は37億回を超えているのだが、そのなかで人気のあるタグのひとつがGIFなのである。そして、そのTumblrがネットでアートをコレクター向けに紹介するサイトPaddle8と組んで、「Moving the Still」という展覧会を2013年12月のマイアミアートウィークに合わせて開催する。GIFがコンテンポラリーアートのメインストリームで展示されることは興味深い。
GIFは「打ち捨てられた広場やプール」ではなくなりつつあり、多くの人の注目を集めはじめている。しかし、どのような変化があったとしても、GIFはファイル形式の制限から低解像度の表現であり続ける。低解像度であるがゆえに、世界をちょっとした遊び心で切り取っていけるGIFにこれからも期待したい。

Oxford Dictionaries USA Word of the Year 2012
http://blog.oxforddictionaries.com/press-releases/us-word-of-the-year-2012/

Moving the Still
http://movingthestill.tumblr.com/