NPO法人国際ゲーム開発者協会日本は2015年12月3日に、Donuts(東京都渋谷区)でセミナー「人工知能のための哲学塾 第弐夜」を開催した。セミナーはSIG-AI(人工知能専門部会)によって企画運営され、正世話人の三宅陽一郎氏による講演に続き、参加者同士でのグループディスカッションが行われた。交流サイトのFacebook上では、セミナー後も参加者によって活発な議論が続けられており、講演資料や講演動画も開示されている。
講演内容を題材に熱心な議論が行われた
■人工知能を哲学的側面から捉え直す
さまざまな分野で活用が続く人工知能だが、ゲームでは「仮想世界の中をキャラクターが動き回る」という、現実世界のシミュレートという側面がある。その一方でゲームAIは「人間の良き対戦相手」となることが求められ、「人間的な思考や振る舞い」といった側面は二の次だった。本セミナーは人工知能を哲学的な側面から捉え直すことで、新たなブレイクスルーをもたらすことを目的に、全6回(概論+各論5回)の構想で行われている。
第壱夜ではデカルトからフッサールへと続く、機械論的世界観から現象学への変化を解説すると共に、ゲームAIの意思決定の拡張について論じられた。第弐夜では無意識や運動といった、動物と外界との関係性について議論が行われ、「ユクスキュルの環世界」「ギブソンのアフォーダンス」「ベルクソンの動作構築モデル」「ベルンシュタインの動作構築モデル」「ベルクソンの内的時間」の概論が紹介された。
■ゲームAIを切り口に多彩な参加者が議論
後半のグループディスカッションでは最大10人程度のグループにわかれて、各々の哲学的トピックと、ロボットや人工知能などとの関係性について議論が行われた。動作構築モデルについて議論したグループでは、ゲームAI・ロボット・動物における違いについて考察。「楽しい時間はすぐに過ぎ去るように感じられる」ように、人工知能における記憶や感情と内的時間の関係について議論したグループもあった。
三宅氏は講演のまとめとして、人工知能はこれまで多くの学問領域の知見を取り入れることで進化してきたが、哲学・心理学・生物学といった分野の知見は顧みられてこなかったと振り返った。その上で現状の人工知能は「内面」が十分に作られておらず、こうした知見を取り入れることで新たな潮流が作れると指摘。参加者もゲーム業界内外からの研究者やクリエイターが多く、業界をまたいだ「知の交流」を楽しんでいた。