2013年9月11日から10月26日まで、ロンドンのAnnely Juda Fine Art Galleryにて、山口勝弘氏の個展「IMAGINARIUM」が開催されている。ロンドンで山口氏の個展が開かれるのは今回が初めてのこと。

 ドイツ出身ユダヤ人の故アネリ・ジュダ氏(1914-2006)によって1960年に設立された、Annely Juda Fine Art Galleryは、初期から日本人の現代アート作家の紹介に積極的であり、これまでも斎藤義重氏、白髪一雄氏、川俣正氏、船越桂氏などを紹介してきた。本展は、本ギャラリーが2009年に開催した実験工房展「Experimental Workshop: Japan 1951-1958」がきっかけとなって企画された。このような経緯と近年の戦後日本美術へ向けられた国際的関心が反映されたためか、本展は1950年代から1960年代までの初期作品に重点が置かれている構成となっている。実験工房結成以前の絵画、実験工房による《APN》作品集および関連資料、カタログ表紙を飾った光の彫刻《Flash》、金網、蛍光アクリル、布でつくられた彫刻、マグネティック・リリーフが中心となる展示風景は、例えば、2006年神奈川県立近代美術館他における山口氏の大規模回顧展「メディアアートの先駆者 山口勝弘展:実験工房からテアトリーヌまで」が、1970年代以降の実験的なビデオ・パフォーマンス、大型ビデオ・インスタレーション、公共空間デザイン・プロデュースなどの多様な活動の持つ重要性に意識的だったこととは対照的であった。この事実は、美術館とギャラリーの相違点だけでなく、広い意味での美術制度内におけるメディアアート作品の展示と売買について、改めて考えさせるところがあった。

批評家のヤシャ・ライハート氏は、本ギャラリーの実験工房展および神奈川県立近代美術館における回顧展に続き、本展にも寄稿した。美術作品と観客の双方向の関係性と美術館の新しいあり方に関する山口氏の思考が凝縮されている「イマジナリウム」概念と関連資料について解説し、本展に含まれている代表作《ヴィトリーヌ》シリーズと映像作品に言及している、このエッセイは、山口勝弘という作家を理解するにあたって、展示された作品に劣らない重要性を持っているといえよう。

ライハート氏のいうように、本展のなかでもっとも「感動的な」作品は、3・11以後、山口氏が描いてきた絵画連作が7分18秒の映像作品として展示された《三陸レクイエム》(2012)である。ただ、1969〜1994年までの作品と展示の記録映像《Art and Design Works 1969-1994》と映像作品《大井町附近》(1977)に続いて上映される本作を見るため、椅子のない空間で壁掛けのモニター1台を1時間以上見続けることは容易ではなかった。個人的には、《三陸レクイエム》のコマを成す絵画作品1枚、1枚に「時間」と「音」が内在しているように思えたので、次回には絵画としても見られる機会を期待したい。

 同時期、国内では、2013年10月15日から19日まで、1992年から1999年まで山口氏が教鞭を執っていた神戸芸術工科大学のギャラリーセレンディップで、弟子たちの企画による「回遊する思考:山口勝弘展」が開催された。

【訂正】

「回遊する思考:山口勝弘展」の名称に間違いがございました。お詫びして訂正いたします。(2013年11月20日)

Annely Juda Fine Artの山口勝弘「IMAGINARIUM」展

http://www.annelyjudafineart.co.uk/artists/yamaguchi/yamaguchi.htm

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