「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」とは

マンガ、アニメーション、ゲームおよびメディアアートに渡るメディア芸術分野において必要とされる連携共同事業等(新領域創出、調査研究等)について、分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により実施することで、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用・展開を図ることを目的として、平成27年度から開始される事業です。

*平成27年12月1日中間報告会が国立新美術館にて行われました。
*平成28年3月13日最終報告会が京都国際マンガミュージアムにて行われました。
*平成27年度の実施報告書はページ末のリンクよりご覧いただけます。

●「iOS教育アプリ『アニメミライ・プラス』拡張版の開発・制作および同アプリを用いた教育の実践」
アニメミライ

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 本事業は若手アニメーターやアニメーター志望学生にアニメーションの良質な「レイアウト・原画・動画に接する機会を提供する手段として、スマートフォン(iPhone)やタブレット(iPad)用のアプリを開発・制作」すること、そしてそのアプリを使って、業界の人材育成のための教育実践を行うことの二つを目的としている。

●中間報告会レポート

 報告は一般社団法人・アニメミライの数井浩子氏(プロジェクト・マネージャー)が行い、まずアニメミライの制作したアニメーション教育アプリについて説明した。「アニメミライプラス」はiOS(iPhoneとiPadで使われているアップル社のOS)に対応した教育アプリで、その中で使われているアニメーションの手描き素材は、過去に「アニメミライ」事業に参加したアニメ制作会社のものであるという。先行版のiOSアプリ「アニメミライプラスVer1.0」は2015年10月上旬にリリースして無料配布中で、その改良点を盛り込んで開発中の拡張版「Ver2.0」は、2016年2月のリリースを目指しているとのこと。

 さらに「Ver1.0」を使った教育実践は、以下のように行われている。

1) アニメ、ゲーム等のエンタメ・イベント「マチ★アソビ」(徳島市)において、一般のファン向けのワークショップを開催(2015年10月11日)。「ufotable CINEMA」の入り口に講演スペースを設け、「アニメミライ」のシンポジウムなどを行った。

2) デジタルハリウッド大学大学院(東京・御茶ノ水)において一般人・一般大学生・アニメ学校の教員向けの公開講座を開催(2015年11月24日)。「アニメミライプラス」を通してアニメーションの「動き」をレクチャーすると共に、その学び方についても公演。

3) 京都精華大学(京都市)において、ゲストによる美術系大学生向けの講座「アニメ演出概論」を開催予定(2016年1月)。

 また、現時点でのアプリ制作の課題としては、以下のようなものがあるという。

1)Ver1.0のリリース後、アニメーターから寄せられた意見を反映するうえで、その技術的難易度が非情に高かった。

2) iOSのアップル社によるバージョンアップとiPadの新機種(iPad Pro)発売を受けて、それらに対する動作確認の必要が発生した。

 これらの課題に対して数井氏は「Ver1.0で発生したそれらの要件を具体的に記述した新たな設計書を作成し、Ver2.0の開発・制作を進めることで、ユーザーからの改善要望に関してはほぼカバーしている状態で、さらに開発に関しては、iOSアプリと商業アニメーション製作の両方を熟知した開発者にVer2.0のコーディングをお願いしている。」と述べた。

 次に、現時点での教育実践の課題としては、以下のようなものがあるという。

1) 商業アニメーション制作で用いられている素材などについての基礎的な知識が共通認識としてほとんど持たれておらず、受講者のレベルのばらつきが大きかった。

2) この講座において"何を学ぶか"という内容の絞り込みが不足している。また学んだことを継続的に実践していくための学習環境が、十分に準備されていない。

 これら課題への対応として、受講生のレベルに合わせたシラバス、及び教材作りや、教育アプリを用いた学習環境のデザインを行っていかなければならないとのこと。

 この報告の後、企画委員との間で、以下のような質疑応答が行われた。

1) アニメ制作会社が抱えている大量の原画などの資料をどう活用していくのかといったことも含めた、総合的な制度設計も視野に入れているのか?

 A:一次資料の保存や活用は難しい問題を抱えている。アニメミライで制作され、各社が権利を持つ資料については、著作権などがクリアされれば活用の余地はあるが、現時点ではそこまでカバーできていない。

2)「アニメミライプラス」は無料で、業界あるいは学生の方に使っていってもらうのか、それとも有料で別の形で配布していくのか、そのあたりの計画は?

A:「アニメミライプラス」はいろいろ動画などを入れていくと1テラバイト以上のデータ量になってしまうと思うので、それをプラットホームとして持ってやってくださるところがあれば連携してやっていきたい。人材についても、スキルを持つ方々がネットワークを通してアクセスすることで、ライブラリのようなものを共有できたらという期待も持っている。

3) このアプリによってどういう教育効果を期待し、測定して評価しようとしているのか?

 A:例えば「アニメミライプラス」を使うと同時に、使う人自身も体で演技して、その動作を自分で描いてもらう。そういう立体的な学習への期待も教育実践の中に含まれている。さらにはアプリを使って自分でアニメを作り、世に問うところまで行ってもらうことが目標。ただ実践の測定と評価については、二、三年程度でそれを行うことは難しいと考えている。

●最終報告会レポート

報告者 一般社団法人アニメミライ 数井浩子氏

 概要として本事業で開発・制作された「アニメミライ+」「アニメミライプラス2」は、アニメ制作現場発の新規性のある学習支援アプリとして、多くの学生、教育関係者、プロから、学習に有用性があり復習に効果的という点で好意的な評価を得た。報告時の2016年3月でダウンロード数1938件、総アクセス数34592件と報告された。

 この2つのツールは学習環境支援ツールとしての有益性に加え、作画参照アーカイブとして「日本のアニメーションの文化知の蓄積と利活用」に資するポテンシャルがあると考察される。今後の課題としては、実施に係わる柔軟な体制の確立と、今後リリースされるfull版及び77カットを収録したアプリ他作品のリリースを継続的に行い、教育支援としての更なる検討が必要であると述べられた。

 本事業の目的は、若手アニメーター及びアニメーター志望の学生等に対する学習支援環境の提案と利活用の試みを目的とする。アプリの開発・制作では良質で系統立った学びが可能なレイアウトや線画に接する機会を提供するための手段として、スマートフォンやタブレット等で使用できるものとし、学習を支援する環境を提案する。そして開発・制作したアプリ及びアプリに収録されている作画資料(レイアウト、線画、タイムシート)を用いた講義・講座により、学生のフィードバックから更に今後の学習環境としてのアプリの可能性を検討・考察したとのこと。

 実施体制では運営は一般社団法人アニメミライが行い、若手アニメーター等人材育成事業「アニメミライ」に過去参加した制作会社とiOSアプリ開発者に協力して頂いた。またアプリを用いた教育実践における利活用では一般社団法人アニメミライの運営で、一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)、デジタルハリウッド大学大学院、京都精華大学の「アニメ演出概論」に協力頂いたとの報告であった。

 各ワークショップ全体のアンケートから多かった意見から、「原画集を見るよりも勉強になり、タイムシートが有るのがいい」「作画が一枚一枚確認できるので参考になる」「何度でも繰り返して見てしまう」「人が動くときの重心やバランスがよく判るし、参考になる」という学生の感想や、「追加機能として線画トレースができるとよい」という教員からの意見もあった。社会人からは「いろいろなパターンに新しい発見がある」と学び直しにもなることが伺えるという。

 課題として、運営・制作体制は初めてということもありこれからより効率化と柔軟性が必要であること、アプリの教育面において若手アニメーター学習支援のツールとしてカリキュラムが一定の質であったかという信頼性は今後の検討課題であった。

 今後の展望としては教育ツールとして新規性と将来性の発展を人材育成に資するのではないか。そして教育ツール、文化財として蓄積することでアーカイブの"可動域"としてブチ的文化財の継承に役立つのではないかと考えられると述べられた。

講評・質疑応答

企画委員より

  • 「短い期間でのアプリの開発と実証を効率的に行ったことで良かったと思う。商業アニメーションに係わる立場としては、アニメーションを学ぶ本はあるが、本の限界というものを感じていた。動く作品をどう学ぶかはというデジタルツールならではの教育ツールができたと感じている。」
  • 「効果については具体的にどういったスキルが身についたかなどの情報が欲しいと感じる。また作画には個性があると思うが、個性と一般論をどう仕分けているのか作家研究やアーカイブスにも関係するのではと感じた」
  • 「中間報告会にも述べたが、大量の原画、タイムシートの廃棄の危機に対して、保存のためのコストや方法の正当化のために、このアニメミライ+があると思う。現場では原画が全てデジタル化されているので、そのデータからこのアプリへ簡単に流し込むシステムを作ることが保存の力になると思われる。また教科書の標準的な動き以外の流行であるような動きの比較や学習、研究を簡単にできるようになるのではと思われる。」

【実施報告書PDF】

報告書表紙画像

報告書PDFダウンロード(2.8MB)

本報告は、文化庁の委託業務として、メディア芸術コンソーシアムJVが実施した平成27年度「メディア芸術連携促進事業」の成果をとりまとめたものです。報告書の内容の全部又は一部については、私的使用又は引用等著作権法上認められた行為として、適宜の方法により出所を明示することにより、引用・転載複製を行うことが出来ます。