国立歴史民俗博物館(以下、歴博)が発行している歴史系総合誌「歴博」第188号で、「漫画・マンガ・MANGA」と題されたマンガ特集号が編まれている。歴博は、日本の歴史・民俗について研究・展示する博物館として、1983年千葉県佐倉市に設立された。国内に7つある人文系の大学共同利用機関のひとつだ。
その常設展示である「総合展示」は第1室から第6室までに分けられており、順番に「原始・古代」「中世」「近世」「民俗」「近代」「現代」と名づけられている。本特集の編集後記によれば、機関誌「歴博」においても、また第6室の「現代」においても、これまでマンガやアニメ、TVゲームといった領域はあまり注目されてこなかったそうだ。歴博の機関紙がマンガの特集を組むというのは、もはやマンガが歴史的事象となりつつあるという証左のひとつなのだろう。
歴博の収蔵品にはマンガも含まれているそうで、本特集に掲載された原山浩介氏の「歴博所蔵の漫画資料」によると、以前にメディア芸術カレントコンテンツでも紹介したこともある、ドイツのヴィルヘルム・ブッシュ美術館で開かれた「絵巻物と日本マンガ展」に諷刺雑誌「漫画」を貸し出したのは歴博だったそうだ(原山氏の記事は近藤日出造「東條首相」の図版とキャプションを除いた全文がネット上で読むことができる)。
博物館の機関紙らしく、マンガを専門に資料を収集・保存している「京都国際マンガミュージアム」「北九州市漫画ミュージアム」、あるいは「明治大学米沢嘉博図書館」が巻頭言などで参照されている。「京都国際マンガミュージアム」からは伊藤遊氏がミュージアムの現状を紹介しながら、ポピュラー文化ミュージアム一般の可能性に触れた記事を寄稿しており、「北九州市漫画ミュージアム」の表智之氏は、「地域」からのマンガ研究の可能性とその実践について一文を寄せている。
また、明治大学の宮本大人氏は、一般に手塚治虫の名と共に戦後の大阪で発展した文化として記憶されている「赤本」のより深い歴史について概説し、そこから広がる同時代的な社会研究や歴史研究への回路を指し示す。その他にも、伊藤剛氏がマンガの理論的研究の最近の動向を伝えつつ、自身のマンガ理論の最新版を提示し、小田切博氏は、国際的になったとされる日本マンガのアメリカでの現状報告と、その「国際性」を語る際の注意点について述べている。
以上に加え、文化人類学者でありマンガ家である都留秦作氏や、歴博研究員の川村清志氏によるコラムなどもあり、30ページほどの小パンフレット内の特集ながら、マンガ研究とアーカイブについての最新の報告書としてとても興味深い内容になっている。一般の書店では入手できないようだが、ホームページからの通販を行っているので、興味のある方は取り寄せてみてほしい。
「歴博 特集:漫画・マンガ・MANGA」
https://www.rekihaku.ac.jp/outline/publication/rekihaku/index.html