近代・現代美術やデザインに特化したオークション会社PHILIPSとメディアミックスブログサービスTumblrが、デジタルアートのオークション「Paddles On!」を開催している。2013年10月5日から作品のプレビューを兼ねた展示が行われ、10月10日にライブオークションが開催される。また、オンラインオークションハウスであるPaddle8の協力のもとオンラインオークションも実施されており、そこで作品につけられた最高値はライブオークションで入札されることになっている。参加作家はラファエル・ローゼンダール氏、ペトラ・コートライト氏などインターネットを中心に活動している17名である。

Paddles On!は、PHILIPSという現代美術が中心のオークションハウスがはじめてネットアートやデジタルアートを扱うということで注目を集めている。これまでもRhizomeなどのデジタルアートを扱う組織が、現代美術のマーケットでUSBメモリにGIFアニメなどの作品を入れて販売しようとしたことはあったが、現代美術の側からデジタルアートに触手を伸ばしてきたことはなかった。アートとテクノロジーの関係を扱うメディアであるThe Creators Projectは、サイト上で2012年5月に「デジタルアートマーケット」の特集を組んだ。そのときの全体の風潮は「デジタルアートは稼げない」もしくは「デジタルアートは従来のアート市場を必要としない」ということであった。

アーティストのパーカー・イトー氏は「アートワールド2.0はどのようなものになるのか?」で、ネットアートが売れるようになるには、長年価値を保ってきた「唯一」の作品を購入する傾向にあるこれまでのアートコレクターが代替わりしていく必要がある、と指摘する。またイトー氏の分析とともに、今回のオークションにも出品しているローゼンダール氏のウェブサイトの作品のように、購入後も作品を一人占めできずにインターネットに公開し続けることを要請するネットアートは、アートマーケットにとって「変わり者」だと言えるだろう。誰もが自由に無料で見ることができる作品に誰が高額を支払うだろうか。ちなみにローゼンダール氏はウェブサイトの作品《ifnoyes.com》と、見る角度によって絵柄が変化するレンチキュラーを用いたエディションなしの「唯一」の作品《Into Time 13 08 13》の2作品をPaddles On!に出品しているが、前者の評価額が6,000ドルなのに対し、後者がその倍の12,000ドルである。《ifnoyes.com》が示すウェブサイトを売買するという形態の方が新しい価値を提示していると考えられるが、その経済的価値はウェブサイトというデータをモノに置き換えた《Into Time 13 08 13》の方が高いと評価されている。この価格差にもイトー氏がコレクターの代替わりが必要と書くような価値観が反映されているのであろう。

ライターのディラン・シュヘンカー氏が「デジタルアートが伝統的なアートマーケットを必要としない10の理由」の中で挙げた興味深い理由のひとつが「Tumblrization」である。「Tumblrization」という語でシュヘンカー氏が考えるのは、Tumblrの登場によって作品をひとつひとつ個別に見ていくということから、延々とダッシュボードをスクロールすると現れる複数の画像やテキストなどの流れを作品として捉えるような風潮がでてきたということである。シュヘンカー氏の分析から考えると、「Tumblrization」の中にあるデジタルアートは個別の作品を売買の対象とするアートフェアやオークションでは扱い難いものとして見なされるだろう。

The Creators Projectの特集から1年しか経過していない今、伝統的なオークション・ハウスのPHILIPSと大量の画像を流し続けるTumblrとが共同でオークションを開催しようとしている。わずか1年のあいだにコレクターの代替わりが進んだわけではないだろうし、Tumblrでの画像などのコンテンツの流れがストップしたわけではない。だとすると、PHILIPSとTumblrとがそれぞれ単独でデジタルアートのオークションを開催するわけでなく、タッグを組んでいるというところが重要なのだろう。

オークション会社は「デジタルアート」という新しい売買の対象を手に入れたい。しかし、「オークション」という伝統的な形式ゆえに「デジタルアート」は扱いにくい。だとすれば、「Tumblr」という画像の新しい見方を提示して、ネットアートのひとつの中心となっているブランドと手を組み、コンテンツの流れの中に「オークション」を組み込むというのがPHILIPSの狙いかもしれない。Tumblrにしても自らの強みである「アート」をより強固なものにするためにオークション・ハウスとパートナーシップを結ぶことは得策である。そして、今回のオークションPaddles On!によってネットアートに市場価値がつけば、PHILIPSとTumblrはアート及びアートマーケットのあり方にインターネットを意識した新しい形式を提示した存在となるだろう。インターネットを強く意識した作品群が資本の流れの中にあるアートワールドとどのような関係と結ぶことになるのか、PHILIPSとTumblrによる試みに注目したい。

Paddles On!

http://paddleson.tumblr.com/