本書は、海外で日本図書を収集・公開している施設を紹介するとともに、日本がいかに海外研究者からの要請に答えてきたか(あるいはこなかったか)について、国際日本文化研究センター資料課に勤める江上敏哲氏が書いた意欲的な著作であり、学ぶところが多い。

アメリカ合衆国、フランス、台湾の日本を専門とする図書館を個別に紹介するだけでなく、それぞれの国で形成されている図書館司書同士のネットワークの説明にも多くのページが割かれている。例えば北米日本研究資料調整協議会(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources、略称NCC)や、東アジア図書館協議会(Council on East Asian Libraries、略称CEAL)の活動が紹介されている。

NCCの活動内容としては、高額な全集ものなどを共同で購入する「資料共有」(resource sharing)や、研究者や学生が自分の論文に使用する画像について、日本の出版社から許諾を得る際の様々な問題を共有・解決することを目指した「画像資料使用特別委員会」(Image Use Protocol Task Force、略称IUP)の設立などが例として挙げられている。

その一方で、CEALではAACR2(英米目録規則)で記述しきれない日本の古典籍について目録規則を制定したり、各図書館・コレクションの概要や、コンタクト先のキーパーソンを一覧化した「ディレクトリ」を作成したりしているそうだ。

ヨーロッパにおけるネットワークとしては、日本資料専門家欧州協会(European Association of Japanese Resource Specialists、略称EAJRS)がある。北米では、早稲田大学や国立国会図書館などが協力している総合目録データベース「OCLC WorldCat(略称OCLC)」の書誌レコードが主に活用されているのに対し、ヨーロッパにおいてNII(国立情報学研究所)の「NACSIS-CAT」が使用されていたのは、このコミュニティの活動によるものだという。

アーカイブ施設にとって、目録(データベース)は全ての活動の要である。そして日本で作成された既存の書誌レコードは、海外施設が自館の資料をカタロギングする際に活用されるだけでなく、購入のための選書、あるいは図書館間相互貸借(ILL)など、様々な場面で使用される可能性がある。作成したデータが広く活用されるためには、やはり世界最大のオンライン共同目録システムであるOCLCとどのように協力するかが重要となるであろう。つまり、本書の言葉を借りれば、多くのユーザの手の届く範囲、“いつもの場所”、メインストリームがどこにあるのかを意識することが大切なのだ(そしてそのユーザとはいったい誰なのかについても考える必要がある)。

そのOCLC発祥の地であるオハイオ州立大学には、以前もご紹介したように、ビリー・アイルランド・カートゥーン・ライブラリー&ミュージアムが設置されている。江上氏は二度にわたって同図書館を訪れており、司書のモーリーン・ドノバン氏に行ったインタビューの報告も本書には収録されている。

ただ本書によれば、国会図書館がOCLCにデータを提供しだした現在でも、依然として早稲田大学のOPACである「WINE」の人気は高いようだ。その理由としては、早稲田大学図書館が海外からのILL依頼を積極的に受け付けてきた点が挙げられるという。つまり、本著者の述べるように、最終的な利用者にとっては、データベースで検索すること自体が目的なのではなく、その資料をいかに入手するかが問題なのであり、先を見据えたトータルでのサービスが意識されるべきなのだろう。

そのほかにも本書では、京都の国際日本文化研究センター、東京の国際文化会館、海外に設置された日本文化会館など、日本側から日本研究をサポートしている施設の紹介や、これから日本を世界へ情報発信するためのさまざまなヒントが述べられており、誰に向けてどのような影響を期待しながら情報提供するか、それを考えるためには、まさに必読の書と言えるだろう。

江上敏哲著『本棚の中のニッポン:海外の日本図書館と日本研究』(笠間書院、2012年)
http://kasamashoin.jp/2012/04/post_2268.html