2012年10月19日と20日の2日間、東京芸術大学、台東区、墨田区の共催による「GTS観光アートプロジェクト(GEIDAI TAITO SUMIDA Sightseeing Art Project 2012)」のイベント「記憶の森 映像祭」にて、松本祐一氏による「アンケート・アート(enquete-art)」の新作が発表された。「アンケート・アート」とは、作者が用意したアンケートに寄せられた回答文を品詞分解し、品詞の種類によって音程を決め、単語の長さを音符の長さとしてメロディを作り出すという、ルールに基づいた作曲技法を用いた作品である。2002年にプロトタイプが発表され、2008年には武満徹作曲賞(審査員:スティーブ・ライヒ氏)の第1位を獲得したことで注目を浴びた。

1日目は「地球環境」「女性」「結婚制度」のアンケートに対する回答が上演された。松本氏がコンピューター上で任意に数人の回答文を選択すると、プログラムによって品詞分解された文章は音楽に変換され、同時に、回答文自体が映像として投影された。後半はピアニストの岡野勇仁氏が参加し、前衛音楽家ジョン・ケージ氏(1912—1992)が書いた「Composition in Retrospect」をアンケート・アート同様の手法によって品詞分解し、岡野氏がトイ・ピアノでライブ演奏する「Composition in Retrospect for Toy Piano」という作品が上演された。松本氏にとって、英文の品詞分解による作品は初の試みだという。

2日目は、「芸術は誰のものだと思いますか?」「ユダヤ教、キリスト教、イスラム教が同じ神を信仰していることについて、どう思いますか?」「広島・長崎の原爆投下についてどう思いますか?」といったアンケートの回答に基づいた演奏が披露された。全体は3パートからなり、1日目に引き続きピアニストの岡野氏が参加した。2パート目以降は、通常のシンセサイザーによる自動演奏だけでなく、合成音声による朗読と、さらに岡野氏のピアノによるライブ演奏が加わり、アンケート・アートの発展形が提示された。

「アンケート・アート」は、通常の楽曲のように、作曲家がすべての音をはじめから選択・決定するのではなく、作曲家がコントロールすることのできないアンケートの回答文が素材となっている。そのため、音を構成するルールが同じでも、質問や回答者が変われば、音楽は変化する。アンケートは、作者とアンケートの回答者、演奏された場の関係性を反映している。今回の場合、アンケートは既存のものが用いられたが、生楽器の演奏者が加わったという点で、進行形のプロジェクトらしい拡張が加えられたと言えるだろう。

アンケート・アート
http://www.enquete-art.org/blog/