中京大学は、2013年1月22日に、第33回生命システム工学部コロキウム「パイク・アベ・ビデオ・シンセサイザーをめぐって」と題し、阿部修也氏(1932年−)と山本圭吾氏(1936年−)を講師に招いて講演会を開催した。同大学の教授でコンピューター・アートのパイオニアである幸村真佐男氏がモデレーターを務めた。

コロキウムの導入で、ナム・ジュン・パイク作品と禅・易経の東洋思想との関係やパイク作品におけるチンギスハーンのグローバリズムを研究する同大学博士課程のセハンボリガ氏(Jimba Saihana、内モンゴル)による簡単なプレゼンテーションが行われた。阿部氏より譲り受けたパイクのドローイング3点(実際には4点組で、残り1点はオランダのパイク研究者が所有)と他のドローイングを比較しながら、「馬」「魚」「ひまわり」「ゾウ」といったモチーフなど、パイクのドローイングにおけるイコノグラフィー(図像学)の研究の重要性について述べた。

講演会では、まず阿部修也氏が、1969年よりWGBH-TV(ボストンを拠点にする公共テレビ放送局)のコミッションを発端にパイクと共同制作を始めた「パイク・アベ・ビデオ・シンセサイザー」について想い出話を織り交ぜながら、2011/2012年にかけて再制作された同シンセサイザーの実演と解説を行った。1970年にWGBH-TVで同シンセサイザーを使った映像が放送されて以降、1971年ニューヨークのボニーノ画廊、1995年に開催された「第1回光州ビエンナーレ」などで発表された。阿部氏によれば、「パイク・アベ・ビデオ・シンセサイザー」の1号機は全5台制作し、当時の電子回路はトラブルが多かったため部品のスペアを保管していた。今回、実演を行った再制作バージョンの外見はほぼ同じだそうだが、パーツは当時米国で調達したものと、現行のものを併用する。「パイク・アベ・ビデオ・シンセサイザー」の再制作は阿部氏が自主的に行い、2台のうち1台をナム・ジュン・パイク・アート・センター(Nam June Paik Art Center、ソウル)に寄贈した。同じセンターで昨年開催された展覧会では同シンセサイザーの他、阿部氏がパイクへのオマージュとして作成した走査線を操作して月のように浮かび上がるテレビも展示された。

最後に、日本を代表するビデオ・アーティストの一人であり、パイクと親交があった山本圭吾氏によるプレゼンテーションが行われた。山本氏はパイクの代表作《TVガーデン》(1974–1978年/2002年)、「ロボット家族」シリーズ(1986年)の設営や、永平寺(福井市)で録音された音声を元に発表されたレコード「The Way of Eiheiji: Zen Buddhist Ceremony」にインスピレーションを受けて福井で映像撮影した作品《メイド・イン・永平寺》(1986年)の制作などにも携わった。2002年に山本氏がディレクションしたナム・ジュン・パイク・アート・センターに常設展示されている《TVガーデン》の制作秘話も述べられた。

「パイク・アベ・ビデオ・シンセサイザー」を基点に、パイクの友人たちの尽力と相互的な影響を知る貴重なエピソードが披露されたと同時にパイク研究の現在を知る、貴重な機会となった。

写真提供:中京大学

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