中央区立郷土天文館(タイムドーム明石)は、東京都中央区の歴史資料を収集・展示する施設。プラネタリウムや区民ギャラリーも併設されている。この中央区立郷土天文館では、マンガ家・永井保氏(1915-2004)の遺族から約4千点におよぶ遺品を寄贈されたことを受け、2013年10月19日から12月23にかけて、「こどもの絵本、おとなの漫画:永井保原画展」を開催している。
永井氏は魚河岸の仲買業者の末っ子として中央区日本橋で生まれた。マンガ家であり、画家、絵本挿絵画家としても活躍した永井氏は、「漫画集団」に関する貴重な資料を残してくれた点でも特筆されるべきだろう。
「漫画集団」とは、近藤日出造氏(1908-1979)や横山隆一氏(1909-2001)らが作っていたマンガ家のグループ。戦前の「新漫画派集団」を前身とし、かつてこのグループに加入を許されることはマンガ家としての将来と生活を約束されたようなものだったという。その勢いは、手塚治虫をして「戦後のスターだった」と言わしめたほどだ。
この「漫画集団」に戦後加入した永井氏は、持ち前の「記録魔」を発揮して、集団の活動や団員の動向を記した「漫画集団誌」や「漫画集団法」を残している。また、会計を担当していたこともあり、「集団会計簿」と題されたノートも存在する。残念ながら今回の展示でその内容を読むことはできないが、寄贈資料のなかには、その他にもパンフレットや写真類など「漫画集団」に関する資料が183点含まれており、今後のマンガ史研究にとってきわめて重要なものとなるだろう。
この「漫画集団」関連資料のほか、戦時中フィリピンに陸軍報道班宣伝班として派遣されていた時代の日記帳やスケッチ、保育雑誌「キンダーブック」のために描いた絵本の原画、1コマや4コマの大人向けマンガなどが展示されている。
なかでも、幼少期を過ごした日本橋を思い出しながら綴ったスケッチ・エッセイ『にほんばし思い出帳』は、関東大震災前後の様子を伝える郷土資料としての価値を持つだけでなく、その巧みなペンタッチがとても心地よい作品で、必見だろう。
会期終了まで残りわずかだが、貴重な機会なので足を運んでみてはいかがだろうか。なお、中央区立郷土天文館では、生前に永井氏と交流のあった方の証言を募集しているとのこと。
「こどもの絵本、おとなの漫画:永井保原画展」