青少年を対象とした新書シリーズである「岩波ジュニア新書」に、『マンガミュージアムへ行こう』というタイトルが加えられた。著者は、「マンガを扱うミュージアム」について考える研究会「マンガミュージアム研究会」メンバーである、伊藤遊氏、谷川竜一氏、村田麻里子氏、山中千恵氏の4人だ。

これまでマンガとミュージアムの関係を扱った書籍としては、『マンガとミュージアムが出会うとき』(臨川書店、2009年)や、ポピュラー文化のひとつとしてマンガが大きく取り上げられていた『ポピュラー文化ミュージアム:文化の収集・共有・消費』(ミネルヴァ書房、2013年)などがあった。

今回の『マンガミュージアムへ行こう』がこれらの既刊書と大きく異なるのは、主に中高生を対象としていることもあって、徹底的に視点が利用者の側に寄り添っていることだろう。

『マンガとミュージアムが出会うとき』がマンガとミュージアムの関係について、運営・管理する側からの視点、つまり内側あるいは裏側から書かれたもの、『ポピュラー文化ミュージアム:文化の収集・共有・消費』が学術的に外から眺めたものだとすれば、『マンガミュージアムへ行こう』は、それを表側から見ることにこだわった本だと言える。

この基本的な姿勢は本書の構成によく表れている。国内にいくつもあるマンガミュージアムを紹介する際、その運営母体の組織形態(公的なものか私的なものか、あるいは学校法人によるものなのか委託企業によるものなのか)や、施設の役割(ミュージアムなのか図書館なのか、あるいは地域振興的なものなのかテーマパーク的なものなのか)などに従って分類されることが多い。こうした分類は裏側、あるいは外側からマンガミュージアムを分析、考察するためにはきわめて有効だが、実際に訪れる利用者にとってはあまり意味のない区分けだろう。そこで本書ではそのような分類を採用せず、▽マンガの仕組みを知る▽絵を楽しむ▽作者を知る▽読む▽グッズを買う▽マンガの世界に入る、という利用者にとっての6つの「楽しみ方」に沿った形で、それぞれ3館ずつ各地のマンガ/アニメミュージアムが紹介される。

本書を読めば、行ったことのあるミュージアムに新たな「楽しみ方」を見いだすことができ、行ったことのないミュージアムは訪れたくなる、まさに『マンガミュージアムへ行こう』というタイトルがふさわしい、そんな本だ。なお、7つ目の枠として「海外」も用意されており、フランス、韓国、台湾、イギリス、ベルギー、アメリカのマンガミュージアムも紹介されている。また、巻末には「マンガ関連文化施設一覧」も掲載されている。

もちろん執筆者たちはそれぞれがマンガミュージアムの運営に実際に深く関わっている人間や、博物館学、社会学などの専門家であり、本書はただのマンガミュージアムのガイドブックに終わるのではなく、それぞれの「楽しみ方」についての論考が章の始めに置かれ、そこから裏側や外側に至る経路がちゃんと用意されている。

利用者の視点に立つことは、近年の施設運営や研究において重要視されているテーマのひとつであることは間違いない。だからこそ、『マンガとミュージアムが出会うとき』や『ポピュラー文化ミュージアム:文化の収集・共有・消費』でもその視点は必ず含まれていた。だがその一方で、例えば日々の運営において、利用者の利点と管理・運営上の煩雑さが天秤にかけられ、「面倒なこと」が回避される案件は決して少なくない。

利用者の視点をもう一度しっかりと見直すためにも、本書は若者だけでなく、大人たちにも読まれてほしい本だ。なお、表紙カバーと各章の扉絵をマンガ家のしりあがり寿氏が担当している。

マンガミュージアムをさらに楽しみ、そしてマンガあるいはミュージアムという存在そのものについて考えるための恰好の良書と言えるだろう。

『マンガミュージアムへ行こう』

著:伊藤遊、谷川竜一、村田麻里子、山中千恵、出版社:岩波書店

出版社サイト

http://www.chuko.co.jp/laclef/2014/03/150489.html