もはや年末恒例となった、マンガの年間ランキングが各所で発表されている。たとえば、「フリースタイル」17号の「特集:THE BEST MANGA 2012 このマンガを読め!」(フリースタイル)や『このマンガがすごい!2012』(宝島社)、あるいは「ダヴィンチ」2012年1月号(メディアファクトリー)などが有名なところだろう。

すべてのマンガに目を通すことなどもはや不可能な現在、読みのがしてしまった名作と出会う機会のひとつとして、こういったランキングは今や欠かせない存在になっている。

ところで読みのがしている名作は今年のものだけとはかぎらない。まだ読んでいない古典的名作もたくさんあることだろう。

年末ランキングにあわせるかのようについ先日発売された『マンガの遺伝子』(斎藤宣彦著、講談社、2011年)は、そんな古典的名作と巡り会うために格好の新書である。

名作はもちろんひとつひとつ読んでも面白い。だがそれらのつながりが見えてくれば、もっと面白くなってくる。しかもそのつながりは、ときに思いもがけない作品をつれてくることがある。

たとえば、著者の斎藤氏によれば、近年注目をあつめている「料理マンガ」は、その源を「野球マンガ」にもとめることができるという。『巨人の星』や『アストロ球団』といった野球マンガではさまざまな「魔球」が考案され、選手たちは超人的な技をぶつけあいながらエスカレートしていった。そんな「魔球的ハッタリズム」を受け継いでいるのが、奇想天外な技を駆使して料理をつくる「料理マンガ」だというのだ。スパゲティのゆで時間を半分にするために包丁で乾麺をすべて縦に二分割する技や、300人前を一気に作る「絶壁の豚刺し300人前!!」という技など、「料理マンガ」は「魔球的ハッタリズム」に満ち満ちている。そのほかにも、「料理マンガ」あるいは最近注目されている「食マンガ」(料理を作ることよりも食べることがメインのマンガ)には、「アクション」「ミュージカル」「職人」といった既存マンガジャンルの「遺伝子」が脈々と受け継がれており、そのつながりは、意外な古典作品へいざなうよき道しるべとなることだろう(「第七章 料理マンガは『魔球』がいっぱい」)。

著者の斎藤宣彦氏といえば、マンガブックガイドの金字塔である『日本一のマンガを探せ!』(宝島社、1997年)の共・編著者であり、その知識と面白さを伝えるセンスには定評がある。しかも、斎藤氏はマンガ表現論の金字塔『マンガの読み方』の共著者でもあり、本書でも少女マンガで登場人物たちが背負う「花」と「コマ」の類縁性の指摘など、マンガ理論的にも刺激的な指摘がいくつもなされている。

本書やランキングガイドを手がかりに、お正月にゆっくりと読むマンガを探してみてはいかがだろうか。

斎藤宣彦著『マンガの遺伝子』出版社サイト

http://www.bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2881373