「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」とは
マンガ、アニメーション、ゲームおよびメディアアートに渡るメディア芸術分野において必要とされる連携共同事業等(新領域創出、調査研究等)について、分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により実施することで、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用・展開を図ることを目的として、平成27年度から開始された事業です。
*平成28年11月8日、中間報告会が国立新美術館にて行われました。
*平成29年2月26日、最終報告会が京都国際マンガミュージアムにて行われました。
*平成28年度の実施報告書はページ末のリンクよりご覧いただけます。
本事業は日本マンガを海外展開するための新人翻訳家の発掘・育成を目的として行う事業です。今回で5回目となるマンガ翻訳コンテストは、Webサイトなどを通して広く一般からの参加を呼びかけ、入賞者にプロ翻訳家への道を開くと共に、国内外で幅広くマンガ読者の裾野を拡大に取り組んでいきます。日本マンガのデジタルによる海外発信を支えるコンテストとして、市場開拓にもつなげていくことを試み、平成29年2月には、授賞式だけでなくマンガ翻訳の傾向や海外での出版動向が共有できるシンポジウムを開催しました。
●中間報告会レポート
報告者 デジタルコミック協議会 関谷 博氏
昨年度の「第4回マンガ翻訳コンテスト」に続くこの事業は、日本のマンガの海外への普及にあたって不可欠な、優れた翻訳家の発掘と育成とを目的としている。また海外で購読される可能性を持ちながら未だに翻訳出版されていない作品を、海外の出版社を通して有料配信することも目的である。実施主体であるデジタルコミック協議会は出版社33社と賛助会社4社からなる任意団体であり、運営協力はMANGAPOLO (電通)と株式会社ディー・エヌ・エーが運営するMyAnimeListである。
開催にあたって、9月までに課題作品の選定と募集サイトの構築が行われ、併せてデジタルコミック協議会加盟社への周知、対外的なプレスリリース配信、NewYork Comic-Conでのチラシ(約1500枚)配布等によって開催が告知された。さらに募集サイトを通して作品募集が呼び掛けられたが、プロのマンガ翻訳家への公式な登竜門として、今年度は応募資格はNonProfessionalに変更された。その結果(中間報告会時点で)264件(内・学生100件)の応募があったことが報告され、最多だった一昨年の164件、昨年の106件から大幅増となった。このうち課題作品の翻訳数は『ずっと独身でいるつもり?』(おかざき真理、原案・雨宮まみ)が168件(内・学生67件)、『春はあけぼの月もなう空もなお』(サメマチオ)が38件(内・学生14件)、『ジャンプの正しい作り方!』(サクライタケシ)が58件(内・学生19件)で、関谷氏は「『春はあけぼの月もなう空もなお』は『枕草子』を題材としており、かなり難しいと思われたが、38件の応募があって安心した。もちろん応募数が多ければよいというものではないが、この中から多くの方々が正規のプロの翻訳家になっていただければ」と説明した。
また課題として、「デジタルコミック協議会以外でのプロジェクト周知活動」や「プロモーション予算の獲得」「趣旨に賛同する会社・団体の協賛、協力」が挙げられた。これらはデジタルコミック協議会が任意団体であるため、協議会全体の事業として独自予算を使うことに限界があり、加盟各社が独自にプロモーションすることも難しいのだという。そのため協議会以外の団体との連携や、協賛、協力してくれる機関や企業を国内外問わず広げ、対象作品以外にも多くの作品を広めていくことが対策として重要になる。
今後は、12月にかけて応募作品の一次審査とスクリーニングが行われ、来年1月に最終審査とその結果発表、そして2月16日(木)に授賞式とシンポジウム(会場は東京・秋葉原UDXを予定)の開催が予定されている。審査を通して計3名の大賞・作品賞受賞者(プロの翻訳者候補)が選出され、今年度から新たに設けられた学生賞の受賞者・1名も併せて選ばれることになる。また授賞式と同時に開かれるシンポジウムは国内の大学・翻訳専門学校関係者にも参加を広く呼びかけ、マンガ翻訳の傾向、海外での出版動向などを共有したいとのことであった。
こうして報告が終了した後、企画委員との間で以下のような質疑応答が交わされた。
まず「課題作品の選び方、基準はどうなっているのか?」との質問があり、「デジタルコミック協議会参加社に一斉メールで課題対象作品を募集した。海外で英語版が出ていない作品に限定し、今後海外で出版の可能性のある作品ということで」との回答があった。
また「日本のマンガで1930年代の作品でも、世界のマンガ史から見て非常にユニークな作品もある。そういう作品も将来的に検討してはどうか?」との問いには「期間、予算、時間などが限られている」と回答し、「(反対に)海外の作家の作品を日本語翻訳するなどの考えもある」と補足された。
次の「受賞者のキャリアパスにはどのようなものがあるのか?」との質問には、「フリーの翻訳家も多いが、受賞後は組織に所属し、継続して翻訳の仕事をしていただけるようフォローしている」とのこと。
最後に「応募の告知からの期間が短いのでは? 間口を広げるためにも8月には告知が出てほしい」との指摘があり、「締切りから逆算すると、どうしても告知からの期間が短くなってしまう。今回の課題作品はけっこう難しかったと思われるので、よくこれだけの応募が集まったと思う」と関谷氏は答えていた。
●最終報告会レポート
報告者 デジタルコミック協議会 関谷 博氏
事業の目的と概要
「マンガ翻訳コンテスト」は日本マンガを翻訳する優秀な翻訳者の発掘と、海外に於ける日本マンガの正規版流通促進を目的として実施するプロジェクトであり、過去多くのコンテスト受賞者をマンガ翻訳家として、デビューさせ、育成してきているとして、今年度の「第5回マンガ翻訳コンテスト」は、文化庁とデジタルコミック協議会主催の元、全体運営は公式サイトを設置した「MyAnimeList(DeNA米国小会社運営のマンガ・アニメファンと共に作る、ファンのための情報コミュニティ・サイト)」と、「MANGAPOLO(日本のマンガの魅力を国内外に向けてプロモーションするYouTubeのマンガチャンネル)」を展開する株式会社電通が共同で実施された。
開催にあたってはデジタルコミック協議会参加の33社の出版社をまたいで課題作品を3作品選出し、プロのマンガ翻訳者を目指す学生や社会人を対象に翻訳を募集し、それぞれ指定したページの英語翻訳の応募作を、プロのマンガ翻訳者として活躍する審査員による厳正なる審査により受賞者を決定し、プロとしてデビューすべくサポートしてゆくとのことである。また今年度から、より多くの若い翻訳者を育てようと学生の応募の中で最も優秀な作品を表彰する学生賞も創設しているとのことだ。
平成29年2月16日(木)に東京・秋葉原にて授賞式を開催し、続けてマンガ翻訳の重要性を啓蒙することを目的としたシンポジウムを併催する形で実施して、事業のコンテストは終了したとして、続けて事業の詳細が報告された。
実施体制は、主催は文化庁とデジタルコミック協議会があたり、コンテスト運営協力に株式会社電通とMyAnimeListの体制で実施し、翻訳専門学校の「フェロー・アカデミー」が学生へのプロモーションで協力したという。
審査員はDebora Aoki(マンガジャーナリスト)、Matt Alt(マンガ翻訳者/株式会社アルトジャパン)、William Flanagan(マンガ翻訳者/編集者)、木村智子(マンガ翻訳者/フェロー・アカデミー講師)の4名であり、続けて開催したシンポジウムのモデレーターに島野浩二(株式会社双葉社 取締役)が、パネラーに茨木政彦(株式会社集英社 取締役)、古川公平(株式会社講談社 取締役)、溝口敦(株式会社メディアドゥ 取締役)が登壇したと報告された。
実施スケジュールについては、平成28年5月〜8月にコンテストの詳細を検討し、課題3作品と審査員の選定を行い、実施スケジュールを決定し、平成28年8月29日にコンテストHPをプレオープンし、事前登録を募った。またコンテスト告知としては、「MyAnimeList」や各種SNSを使い、更にアメリカで開催の「NewYork Comic Convension」でチラシを配布したという。そして平成28年9月14日〜11月4日に翻訳の応募を開始し、平成28年11月5日〜12月13日に応募作品のスクリーニング、第一次審査及び審査員による選考で最終作品候補を選考したとのことである。
今年度の課題作品と応募状況については、課題作品ごとでは『ずっと独身でいるつもり?』(おかざき真理作画、雨宮まみ原案、祥伝社)が167件、『ジャンプの正しい作り方!』(サクライタケシ作、集英社)が58件、『春はあけぼの月もなう空もなお』(サメマチオ作、宙出版)が38件であり、応募総数は263件(重複を除いた有効254件、学生100件)であったとのことである。
授賞式については、平成29年2月16日(木)に東京・秋葉原UDXシアターにて開催し、受賞者の発表では優秀賞・学生賞・大賞各受賞者を発表し、大賞受賞者のEleanor Summersさんを英国から招いて賞状と賞品を授与したという。
そして各審査員による講評として目立った翻訳の落とし穴やアドバイスなどを発表し、例として『ずっと独身でいるつもり?』の英訳アドバイスから、「年上」を「older woman」と訳すべきなのを「senior」と訳した間違い、セリフの分け方として日本語と英語で音節が違う場合、セリフ「コンクリくささがたまらない」を肯定的に訳すべきなのを否定的に英訳してしまった間違い、擬音語は説明的な直訳でなく味わいを表現するように、などの事例を紹介し、これらの審査員からのトライ・アンド・エラーはHPにもアップしてあると報告した。
そして、シンポジウムは「マンガの未来〜海外でもっと“マンガ”を読んでもらうために〜」をテーマに、先に紹介したマンガ編集長を経験した各社の役員らが白熱したトークを繰り広げたと報告した。
成果として、審査結果では大賞グランプリは対象作品『春はあけぼの月もなう空もなお』のEleanor Summers(UK)さん、作品優秀賞と学生賞のW受賞の対象作品『ずっと独身でいるつもり?』のEmma Schumacker(US)さん、作品優秀賞の対象作品『ジャンプの正しい作り方!』のEmily Taylor(US)さんの3名が受賞者として決定し、これからプロの翻訳家としてデビューするべく各出版社が海外の出版社へのサポートをするとのことである。
なお、授賞式・シンポジウムの来場者数は97人(関係者63人、事前申し込み7人、当日受付27人、取材6社)とのことである。
総括として、報告者からは「第5回を迎えて運営も安定してきたが課題点もまだある。「MyAnimeList」を活用して応募数も増えたが、ノンプロ(非プロフェッショナル)をメインに募集をかけたために即戦力に満たない応募が多く少し質が落ちたので、次回以降の応募の方法を考えないといけない」とし、「今後は受賞者が対象作品の版元とともに、対象作品の翻訳を成し、海外に於ける翻訳版の配信を行うべく、また受賞者がマンガ翻訳家として成長、成功するよう、デジタルコミック協議会内で引き続き可能なサポートを行ってゆく」とのことである。さらに「デジタルコミック協議会は参加33社の中でも海外で翻訳出版しているのは10数社程度であり、マンガ翻訳コンテストに加えて、今回のシンポジウムでの国内外のプラットフォーム拡充の取組を参考にノウハウの無い会社へ向けての情報を発信していきたいと考える」と報告を締めくくった。
質疑応答では、企画委員から「「マンガ翻訳コンテスト」は非常に重要で注目しているが、対象作品はコンテンポラリー(現在)のものである。日本マンガの古いマンガにも優れた作品があり、それらの作品を紹介している翻訳家もいる。海外の人にとっては日本の古いマンガも新鮮である。アメリカのマンガでも1930年代〜40年代に非常に前衛的な作品があるのに日本には紹介されていない。」との意見に対して、「正規の翻訳本はここ10数年分ぐらいが対象で、手塚治虫作品以前にも優れた作品があることは海外にも知られてはいる。現状だけでなく過去の作品にも翻訳を広げるように努力したい。」と回答があった。また別の委員からの「昨年に引き続きトライ・アンド・エラーは大変面白く有意義と思うが、この結果は英語で発表されているのか?」の質問に対しては、「HPに全て英語で掲載している。」と回答があり、「イベントを海外出版へ繋げるためには応募者のアフターフォローや、翻訳レベルに合わせた作品の選定などもあるのでは?」との意見に対して、「毎回作品選定に苦労しているが、いつも大手出版社の作品になりがちではある。今後は提案のようなジャンル毎の作品選定などの方法も検討していきたい。」と回答があった。