「メディア芸術連携促進事業 連携共同事業」とは
マンガ、アニメーション、ゲームおよびメディアアートに渡るメディア芸術分野において必要とされる連携共同事業等(新領域創出、調査研究等)について、分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により実施することで、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用・展開を図ることを目的として、平成27年度から開始された事業です。
*平成28年11月8日、中間報告会が国立新美術館にて行われました。
*平成29年2月26日、最終報告会が京都国際マンガミュージアムにて行われました。
*平成28年度の実施報告書はページ末のリンクよりご覧いただけます。

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本事業では国内外のゲーム所蔵館の連携により、ゲームソフトとハードを体系的にアーカイブしていくための取り組みを行っています。ゲーム所蔵館連携のための概況調査と連絡協議会の準備会、各館の所蔵目録の紐づけなどを行った昨年度の連携共同事業を引き継ぎ、今年度は連携枠組みの設計を軸に昨年度の事業内容に加え、アーカイブ機関運営のための費用算出調査などのより具体的な活動を実施しました。また連絡協議会開催のため、昨年度に引き続き、国内外の所蔵館との協議を行いました。

●中間報告会レポート

報告者 立命館大学ゲーム研究センター 井上明人氏

登壇した立命館大学ゲーム研究センターの井上明人氏によると、本事業の目的は「日々、失われていく文化財としてのゲームを効率的・合理的にアーカイブしていくため、国内外のゲームアーカイブ所蔵館同士の連携を図り、ゲームに関する所蔵品の管理方法の確立や、所蔵館をまたいだうえでの横断的な検索、アーカイブのより持続可能な保存体制等を構築していくこと」であるとしている。

なお、本事業は昨年度に先行して実施した事業の成果である。前提状況の基礎調査を踏まえ、今年度は残された課題をもとにした連携枠組みの設計を軸とし、より具体的な論点を持ったうえで調査を行っていくことを目的として始められた。具体的な目標として掲げたのは、以下の2点である。

まず第一に、「ゲーム所蔵館連絡協議会」の開催準備のため、国内外のゲーム所蔵館の所蔵状況の調査を実施するとともに、「連絡協議会 準備会」を、下記の内容にて国内外で開催することである。

  • 国際ゲーム所蔵館連絡協議会 準備会合 1回開催
    (参加地域:アメリカ、イギリス、ドイツ、日本等)
  • 国内ゲーム所蔵館連絡協議会 準備会合 2回開催
    (参加所蔵館:明治大、立命館大、国会図書館等)
  • 海外のゲーム所蔵館調査活動:8箇所〜(ドイツ、アメリカ、オーストラリア)
  • 国内のゲーム所蔵館調査:5箇所

第二は、各ゲーム所蔵館連携に関わる調査事業として、下記の3種類の所蔵調査を実施することである。

  • 各所蔵館の所蔵ゲーム目録の「紐付け」(※5館分の所蔵目録データの相互紐付け)
  • アーカイブ重点対象マップの作成
  • アーカイブ機関の費用算出調査の実施

本年度の成果のひとつが、8月15日にドイツのライプツィヒ大学にて「国際連携連絡協議会 準備会」を開催したことである。同大学のほか、アメリカのロチェスター工科大学、スタンフォード大学およびストロング遊戯博物館、イギリスのナショナル・ビデオゲーム・アーケード/バススバ大学、ドイツのコンピュータ遊戯博物館も参加した。

上記準備会の実施によって、所蔵品などの調査や相互間での状況共有を行うとともに、国際協力の可能性や今後の協力体制についての議論も行い、海外との幅広い連携を実現することができた。また、今後はアメリカのワシントン大学とナショナル・ゲーム博物館との国際連携も予定されており、韓国コンテンツ振興院との国際連携も検討中とのことだ。

国内においては、アーケードゲームを多数所蔵している天野ゲーム博物館(愛知県)をはじめとする施設などの調査を実施した。今後は「国内連絡協議会準備会」の開催を計画しており、国内での所蔵品の調査を経てアーケードゲーム博物館建設計画について議論を行う予定である。

さらに立命館大学のほか、明治大学、国立国会図書館、ライプツィヒ大学、ストロング遊戯博物館の目録を入手したうえで、紐付けのための入力および精査作業を実施中であるとの報告もなされた。さらに、作業がある程度完了した段階で、優先してアーカイブすべき「重点対象マップ」も作成する予定とされている。本事業の進捗は想定通りに進んでおり、今後は来年1月を目処にゲーム博物館運営に係る予算規模の概算をまとめていくこととしている。

質疑応答では、「アーカイブの重点マップ作成にあたっては、どういう見込みで、重点対象としてどういうものが挙げられるか?」との質問があった。

井上氏は、「文化庁メディア芸術データベースにおいて、ゲーム分野において国内で発売したものについてはかなり網羅されている。PC用ゲームはまだ弱いが、アーケード、家庭用はほぼそろえることができた。今後はどこが足りていて、どこが足りないかを全部紐付けしていくことで、重点マップを作成していきたい。」「アーケードゲームは動態保存におけるサイズの問題がある。また、家庭用でも古いゲームはエミュレーターによって保存した場合は、その物自体の体感が変わってしまう」とのことだった。

また「海外の分野でも同じような需要があるのか?」との質問には、「10年ほど前にIGDA(国際ゲーム開発者協会)でゲームソフトの保存を呼びかけるSIG(研究部会)が立ち上がったが、今回のように所蔵館同士で具体的な議論をしたことは、我々が知る限りではなかったと思う」と回答した。

また、「現況に加え論点の洗い出し、費用算出においての主たる論点は何か?」との問いには、「人材育成やメンテナンスなどをどれだけ行うかによって、費用が大きく変わる問題がある。特にアーケードゲームは、ソフト・ハード両方の保存技術が必要であり、それをどれだけの範囲で行うかを決めるのが難しい。」と説明した。

●最終報告会レポート

報告者 立命館大学ゲーム研究センター 井上明人氏

本稿では、最終報告会での立命館大学ゲーム研究センターが実施した「平成28年度 ゲームアーカイブ所蔵館連携に関わる調査事業」の報告内容についてレポートする。

本事業では、ゲームはメディアの特性上、保存が容易ではなく、所蔵機関の連携が重要だという前提のもと、国内外において持続的に運用可能な所蔵館連携枠組みを創出すること、またそのための調査などの各種施策を実施するという目的のもと進められている事業である。昨年度の同名事業から引き続き実施されたものであるが、昨年度の段階では前提条件を整理するための「調査」フェイズであり、今年度事業から、そのような前提条件をもとに、所蔵館連携枠組みの「設計」フェイズにあると位置付けられるものだという説明がなされた。とりわけ、今年度の活動では、組織構想、共通課題の明確化、データ仕様の共有と議論、が主要な施策であるという。

具体的な活動について、まず国内の所蔵概況調査として、合計で6ヶ所14時間のインタビュー・現地調査がなされた旨、また海外の所蔵館を対象とする概況調査では、インタビュー・現地調査が合計10ヶ所19時間実施された旨、報告があった。対象となった海外の所蔵館は、アメリカ3ヶ所、ドイツ3ヶ所、オーストラリア2ヶ所、韓国2ヶ所であった。

これらインタビュー・現地調査を通じて明らかになった知見としては、それぞれにおいて、課題となるトピックに一定の共通性があるという指摘がなされた。そのような共通する論点としてあげられるものは、相互のデータ共有が限定的であること、国際的なメタデータ・データモデルの設計が急務であること、メンテナンスの専門性とその人材不足、動態保存におけるコスト、さらに組織形態に応じた多様な収益モデルが必要とされること、地域に応じた展示内容のオリジナリティが必要とされること、などである。

さらに、各国の所蔵機関のアーカイブ担当者が集まる会議として国際連絡協議会準備会合が、8月15日にライプツィヒ大学(ドイツ)にて行われたという。同会合の参加者は、スタンフォード大学のH. Lowood氏(議長)ならびにP. Chan氏、ロチェスター工科大学のS. Jacob氏、ストロング遊戯博物館のJ. P. Dyson氏、パススパ大学のJ. Newman氏、立命館大学の細井氏と中村氏と福田氏ならびに井上氏、ライプツィヒ大学のM. Roth氏とM. Picard氏ならびにJ. Lazarus氏、コンピュータ遊戯博物館のW. Bergmeyer氏といった面々であった。本会合の議題としては、各機関の所蔵・実践状況の共有、コンソーシアムのメリット、ゲームの引用の仕組み、国際協力について、というものであり、来年度以降の継続的実施も確認され、とりわけメタデータ設計などについて議論の必要性が言及されたという。

国内の連絡協議会準備会合は、2回目となる実施であるため、国際のそれより議題が具体的であり、組織の在り方や財源など、また各種の問い合わせについての窓口機能に関する期待や必要性、などといったことが論点となったという。参加機関として挙げられた施設・機関は、東京工芸大学、国立国会図書館、日本ゲーム博物館、ナツゲーミュージアム、文化庁、東京工科大学、明治大学、立命館大学であった。

また、昨年度に引き続き、上述の国際・国内連絡協議会に参加する機関などが所蔵する、所蔵品目録紐づけ・名寄せ作業について報告があった。10,000点弱の所蔵目録を紐づけと、12,000点弱のデータの精査・確認作業が実施された旨、また、これらについての総作業時間は1,700時間ほどであったという旨の報告があった。

また、前述の名寄せの結果、どのようなゲームのプラットフォームや分類において保存が進展しているか、もしくは危機的であるかといったことを明らかにするための重点対象マップについても調査報告がなされた。ここでは、アーカイブの進展が著しいものとそうでないものに大きな開きがあること、とりわけアーケードゲームのアーカイブが不十分であること、ファミコンなどのメジャーハードはかなり収集に進展があること、ファミコン以前のプラットフォームのアーカイブ化が進んでいないこと、近年発売されたものを所蔵する体制が不十分であること、などが知見として述べられた。

さらに、博物館を持続的に運営するための実現可能性の調査活動として、ケーススタディがなされ、大牟田市カルタ・歴史資料館、おもちゃのまちバンダイミュージアムなどに対して調査が実施された旨が報告された。ここでのとりわけ明確な成果として、中長期的な運営のためには、地域と連携し彼らをどう巻き込んでいくかが重要だということが明らかになったという。

本年度事業のまとめとして、連絡協議会準備会合として、ネットワークの合意形成、組織構想のための論点整理、などがあり、調査事業として、ゲーム所蔵状況の定性的な状況把握、アーカイブの必要な分野に関する定量的把握などがなされるなど、といった成果があり、次年度以降の事業において、これらの明確化された論点をもとに「実施」フェイズへの移行を図りたいという展望が論じられた。

質疑応答においては、企画委員から、連絡協議会の実施や博物館構築のための調査活動などといった、具体的な活動の軸がある点がよいという評価の後、2件の質問があった。第1が、各所蔵機関の所蔵リスト紐づけにおける昨年度活動と今年度活動の進展状況の差について、第2が、PCゲームが手つかずの状況であるが、これらはゲームデザインの起源が多く詰まっている分野であり、この問題に対処していく筋道はあるか、というものであった。

井上氏はこれらに対して、以下のように回答した。所蔵リストの紐づけに関して「修正のための具体的な中身としては、単純にヒューマンエラーがないかということに関する問題がある。またそれ以外に重要な点として、各機関のリストの形式面の差に基づく、同定の難しさに関する発見があった」。さらに「各機関の所蔵リストが多様な形式であり、例えばJANコードのリストだけを送られることなどがあった。また、別の所蔵館リストでは、日付の属性に入力されるデータが、所蔵開始日やコピーライト表記などであるなど、正確な発売日でない場合があった。そのような各館リストの特性が明らかでない場合、それら属性の詳細を確認し、修正を実施した。このような確認を通じて、精査作業が実施され、10数パーセントほどの不一致タイトルの修正がなされた」という説明であった。

また、PCゲームの保存については「PCゲームについては、その重要性を認識しており、これらを着手していきたいと考えている。但し、現状では、メディア芸術DBにもPCゲームの網羅的カタログが存在せず、それ以外にも信頼性ならびに網羅性の高いカタログがない。そのため、紐づけていくための、元の目録が存在しない状態である。これらの整備は、段階を経て進めていく必要がある」と回答した。

また、その後に、海外の大学は公的機関からの援助を受けるにあたっての背景がどうなっているか、という点について質問があった。これについて、井上氏は、「海外といっても、地域によって違う。とりわけ大規模な活動を展開している、ロチェスターのストロング遊戯博物館、ダラスのナショナルビデオゲーム博物館などがあるが、両者とも自治体との関係を有している。ただしストロング遊戯博物館は70年の運営の歴史があり、元々ストロング氏によるスポンサードがあったなど、それぞれ財源的な背景が違う」という回答がなされた。

【実施報告書PDF】

報告書表紙画像

本報告は、文化庁の委託業務として、メディア芸術コンソーシアムJVが実施した平成28年度「メディア芸術連携促進事業」の成果をとりまとめたものです。報告書の内容の全部又は一部については、私的使用又は引用等著作権法上認められた行為として、適宜の方法により出所を明示することにより、引用・転載複製を行うことが出来ます。