「Synchronous Objects」は、ウィリアム・フォーサイス氏のダンス作品におけるダンサーの配置や動きのキュー(きっかけ)をデータ化し、さらにイラストやCGなどで視覚化する領域横断的なリサーチ・プロジェクトである。具体的には、フォーサイス氏の作品《THEMATIC VARIATIONS ON ONE FLAT THING, REPRODUCED》の時間的/空間的構造と動きを分析し、創造的に視覚化することによって、フォーサイス氏の「身体的思考」を明らかにしようとするものだ。

総監督のノラ・ズニガ・ショー氏によれば、本プロジェクトはフォーサイス氏の発言「肉体のことは別にして、いったい身体的な思考はどんなものなのか?」から始まったという。フォーサイス氏は、同様なプロジェクトとして、ドイツのZKM(Zentrum für Kunst und Medientechnologie Karlsruhe)と協働で「動きの貯蓄(motion bank)」をテーマにして自身のダンスの基本動作を記録したインタラクティブなCD-ROM『Improvisation Technologies
  A Tool for the Analytical Dance Eye』(1999年)を制作したことでも知られる。

ウェブサイト「Synchronous Objects for One Flat Thing, reproduced」では、さまざまな具体例を映像で見ることができる。また、ISEA2010 RUHRではリサーチから得たデータを元に、観客が振付やダンスに参加することができるインタラクティブなシステムも取り入れた複合的なインスタレーション《Synchronous Objects, reproduced》がプレミア発表された。

2011年11月13日には、東京ドイツ文化センターにおいてシンポジウムやワークショップをおこなうイベント「ウィリアム・フォーサイス×土方巽 身体のイラストレーション」が開催された。プログラムの一つである「メディア・ツールと身体×ダンス」と題したシンポジウム+スクリーニングでは、『Synchronous Objects』や『Hijikata Method 動きのアーカイヴ Extra Version』を上映したのち、パネリストにショー氏、藤幡正樹氏(メディアアーティスト、東京藝術大学大学院映像研究科教授)、松澤慶信氏(日本女子体育大学舞踊学専攻教授)らを迎えてシンポジウムをおこなうという構成であった。シンポジウムでは、「Synchronous Objects」と慶應義塾大学アート・センターが所蔵する土方巽アーカイブを取り上げて、異なる身体性をもつダンスを比較対照し、それらをイラストレーションすることの意義や展望についての議論が交わされた。

日本語版CD-ROM『Improvisation Technologies
  A Tool for the Analytical Dance Eye』(2000年)
を監修した松澤氏によれば、「ダンスはメディア・ツールを、単なる記録保持用としてだけではなく、また創作の補助ツールとしてでもなく、本格的な作品分析のツールとして使い始めた」という。

このような試みは、メディアアートのアーカイブやその活用を考えるうえでも有効であろう。

Synchronous Objects for One Flat Thing, reproduced

http://synchronousobjects.osu.edu/