1930年代にヨーロッパ有数の映画生産国となったチェコは、第二次世界大戦後に巨匠、イジー・トルンカを輩出し、人形アニメーションの傑作を次々と世に送り出した。トルンカ以外にも『悪魔の発明』(1954年)などの特撮映画で知られるカレル・ゼマンや、最近でならシュールな作風の異色作を矢継ぎ早に送り出したヤン・シュヴァンクマイエルなど、綺羅星のごときアニメーション作家たちの存在が、今もチェコを孤高のアニメーション大国として際立たせている。日本でも1960年代以降、トルンカの『真夏の夜の夢』(1959年)など、チェコアニメーションの代表作に目を通しておくことは、アート・アニメーションの作家や愛好家にとって必須であった。『火宅』(1979年)などの人形アニメーションの名作で知られる川本喜八郎(2010年没)も、トルンカの作品に触発されて作家を目指した一人である。
しかし世界のアニメーション史に冠たるそのようなチェコの傑作群も、ディスク化された一部の作品のみが鑑賞可能という現状の中で、久々にまとめて見ることのできる機会がこの2月から到来する。東京・渋谷の上映スペース「アップリンク」で開催される「This is チェコアニメ! 2017」(http://www.uplink.co.jp/event/2016/46673)は、年内6回に渡って古典から近年までのチェコアニメを特集。今年で4回目(4年目)となる人気企画だが、今回も珠玉作の数々が揃えられている。
各回ごとに見ていくと2月18日(土)の「かわいくてたまらないアニメ特集」では、『R.U.R.』などの小説で知られるカレル・チャペック原作の『泣いていたお人形のお話』が(劇場)初公開される。4月15日(土)の「超ディープなシュヴァンクマイエルの短編特集」ではタイトルどおり、現代のシュルレアリストの代表作のオンパレード。6月17日(土)の「トルンカとポヤルの人形アニメの饗宴」では、トルンカに加えて人形アニメーションの名手、ブジェチスラフ・ポヤルの短編作品が上映される。また戦後から2000年までの短編作品を集めた8月19日(土)の「シュールシュールシュール」では、風刺と寓意に満ちたチェコアニメの世界を一望することができそうだ。そして10月14日(土)の「『チェコの古代伝説』を語ろう!」では、トルンカによる壮大なアニメーション叙事詩『チェコの古代伝説』(1952年)が2017年のスクリーンに甦る。まさしく今回の白眉といってもいい必見のプログラムだろう。最後に12月16日(土)の「クリスマス前は心温まるおとぎ話を」に、選りすぐりの童話作品が集められてチェコアニメの祝祭は幕を閉じるが、これらバラエティに富んだラインナップの中から、全部とはいわないまでもぜひ一回は足を運んでもらえればと思う。
どの回も各日午後6時30分開場・45分開演(料金は¥1800でドリンク付き)。また上映終了後に10分間の休憩を挟んで、作品配給などでチェコアニメに詳しい眞部学によるトークショーがそれぞれ行われる。
(霜月たかなか)