東京都写真美術館の総合開館20周年を記念して、「山崎博 計画と偶然」が2017年3月7日(火)から5月10日(水)まで開催される。山崎博(1946年〜)は「PROVOKE」や「私写真」が登場する1960年代末から70年代という同時期に、写真家としての活動を本格的に開始する。とりわけ、1974年に発表した〈OBSERVATION 観測概念〉は「PROVOKE」や「私写真」にかかわる写真家たち(中平卓馬、森山大道、荒木経惟など)の表現とは一線を画し、調布市にあった自宅の窓からの眺めという徹底的に受動的な「与えられた風景」を撮ることで、一定の制約やシンプルな方法論を自らに課して撮影を行うという独自のスタイルを構築するきっかけとなった。展覧会タイトルにある「計画」とはまさにこうした一定の制約やシンプルな方法論を指しているが、山崎の作品の特徴はその計画の周到さだけではなく、その計画から思いがけず生じる「偶然」の美しさや迫力にもある。
今回の展覧会では山崎の代表作である、長時間露光という方法論を用いて「文字通り」太陽の光が空に線を描いた様を捉えた〈HELIOGRAPHY〉(heliosはギリシャ語で太陽を指す)や、カメラを水平に構えるという制約を自らに課して海と空の境=水平線を撮った〈水平線採集〉などのほかに、1975年に発表した作品の現代版として撮り下ろしの新作〈水のフォトグラム〉も展示されるが、これらの作品では事前の「計画」のもとに遂行されつつも、太陽の光線や光量、海や水の流れや反射といった不測の「偶然」が画面のなかに必然的に生じている。「計画がなければ偶然もない」という山崎の言葉は、彼が45年以上のキャリアを通じて、計画と偶然、その相互作用を一貫して追い求めてきたことを示している。本展は初期作品から代表作、70年代から写真作品と並行して制作していた映像作品、そして撮り下ろしの新作まで約200点に及ぶ作品が一堂に会するまたとない機会である。
最後に、この展覧会が公立の美術館では初個展であり、東京都写真美術館の総合開館20周年にあわせて開かれる意義にも触れておきたい。従来の日本写真史において1960年代末から70年代の写真表現で注目されてきたのは、主に「PROVOKE」と「私写真」であった。今回の展覧会は山崎博というひとりの写真家に焦点を当てて、同時代にそれらとは異なる写真表現の胎動があったことをひろく表明するものであり、総合開館20周年にあわせてリニューアル・オープンした東京都写真美術館の新たな船出とともに、日本写真史の新たな構築にもつながる端緒となるのではないだろうか。
本展の関連イベントとして担当学芸員とゲストによる山崎博をめぐる対談と、担当学芸員によるギャラリートークが予定されている。
関連イベント
対談「山崎博をめぐって」
日時:2017年3月25日(土) 北野謙(写真家)×石田哲朗(東京都写真美術館学芸員)
日時:2017年4月16日(日) 金子隆一(写真史家)×石田哲朗(同上)
各回:14:00-15:30
定員:各回50名
会場:東京路写真美術館1階スタジオ
詳細は東京都写真美術館のサイトを参照のこと。
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-2574.html
3月7日(火)から同時開催する「夜明けまえ 知られざる日本写真開拓史 総集編」もあわせてご覧いただきたい。