●「関連施設の連携によるマンガ原画管理のための方法の確立と人材の育成」
京都精華大学
本事業ではマンガの原画保存活用を目的として総合的なマンガ資料館の性格を持つ「京都国際マンガミュージアム(以下京都MM)」、「横手市増田まんが美術館(以下増田)」、「明治大学 米沢嘉博記念図書館(以下米ト)」の三つの施設が連携し、近年価値の見直しが進むマンガ原画の管理方法の共通化、及び管理方法を習得した人材育成や、交流を目的とした取り組みを行う。また取り組みを通して原画の保管と活用に関するスキルとデータの集積と還元を行いながら、原画という価値の定まっていない歴史資料の活用方法を発見することも目指している。
●中間報告会レポート
京都精華大学国際マンガ研究センター研究員の伊藤遊氏が報告を行い、まず具体的な事業内容が、以下の四つの要素を含むものであることが説明された。
1) 各施設の原画所蔵情報の共有。
2) 原画保存先の拡充のための実証実験。
3) 個別に分断された原画管理方法の共有と参照。
4) 原画の収蔵と活用に関する人材不足の解消に向けた取り組み。
以上を通して「原画が掲載された単行本の巻数ごとに収蔵するなど、(物理的に)わかりやすい原画の管理と整理」と「原画がどこに連載されていたのかなどの、データの蓄積」を目指す事業であることが語られ、(2016年)1月末日までにデータ採録などを済ませ、管理可能な状態となる原画が 三館合わせて14,600点(京都MM10,200点、増田2,400点、米ト2,000点)となる見積もりであるという。
それらは保管され、データが取られるばかりでなく、データの一部の項目は「文化庁メディア芸術データベース」で一般公開される予定である。これによって原画の諸情報が広く共有され、例えば美術館や博物館での原画貸借の際に活用するなど、昨今のニーズに応じた具体的な成果が期待される。
一方で「原画整理のためのインフラ整備だとか、ルールづくりなどに時間がかかったことは否定できません」とも報告された。さらに「一つの作品で1万点あるといった圧倒的な分量は、ポピュラー文化を扱うが故の苦労である。」ということが、各館の共通課題として浮かび上がったと言う。しかし、「逆に言えばこうした事例を蓄積して、課題の洗い出し、その情報を共有できるように整備しておくこと自体が、今後広がっていくであろう、マンガ原画のアーカイブ、あるいはポピュラーカルチャーのアーカイブを作る際に重要な意義を与えるのではないか」と言葉が継がれ、報告が締めくくられた。
●最終報告会レポート
報告者 京都精華大学国際マンガ研究センター 伊藤遊氏
事業を担った「京都国際マンガミュージアム」、「横手市増田まんが美術館」、「明治大学 米沢嘉博記念図書館」の3館は、原画の保存や活用の先行事例を有し、なおかつ総合的なマンガ資料館の性格を持つ施設であり、この3館連携により、近年価値の見直しが急速に進んでいる「マンガ原画」を管理するための方法の共通化、およびそれを修得した人材の育成や交流を目的とした取り組みを実施した。
対象としたマンガ原画は、それぞれ、80年代から20年間メジャー系青年誌で連載されていた作品から、70年代の人気少年マンガ作品や少女マンガ作品、戦前戦後を通して活躍した諷刺マンガ家の一コママンガまで、発表された時代や掲載誌の性格、読者層などが全く異なる様々な作品となった。多種多用な原画について、特性に応じた整理と管理を行い、以下3つの成果が得られたという。
1つ目は、マンガ原画の管理の方法論を確立するために必要な実証実験を行うことができたこと。複数の施設で作業が行われたことで、環境やインフラによって作業コストが異なることが判明した。寄贈・寄託元が出版社なのか個人なのか、そこでどのように管理されていたかといったこと、あるいは、作品のジャンル・作られた年代までもが、作業効率に大きく関係することも判明した。重要な点は、各館で得られた情報や現場での具体的なスキルなどが、本事業の交流によって各館に共有されたことだという。報告書に掲載された各館の作業マニュアルは、マンガ原画の管理に関心のある個人や施設の参考になると述べられた。
2つ目は、マンガ原画管理のための人材育成。整理・管理を目的に、これほどマンガ原画に触れる作業が集中して行われたことは、これまでほとんどなかったとのことだ。その意味で、その作業に携わったスタッフは、いま最もマンガ原画の整理・管理に関する実践的な知識を持った人たちであるとのことだ。
3つ目は、モノとしての原画が、傷んだり紛失したりしない保管状況に置かれたというだけでなく、これら原画に関するデータが入力され、一部の項目は「文化庁メディア芸術データベース」で公開されることで、原画情報が共有され、場合によっては貸し借りされるなど、これまで誰がどのように持っていたのかもわからなかったマンガ原画が、活用可能な状態になったことだ。
一方、以下のような課題も報告された。
作品の内容や作られた時代、保管されていた場所の状態などによって、整理・管理の仕方も、その都度変えざるを得ないこと、さらに、圧倒的な分量という、ポピュラー文化を扱うがゆえの苦労は、各施設の共通課題となっていること。また、作業に関わったスタッフにスキルが蓄積され、そうしたスキルを持つ人材を求めている場所があることもわかっているが、この両者をつなぐシステムが存在しないこと。専門的な技能資格講座の設置や人材バンクの構築など、人材育成の仕組みも並行して考えていくこと。
こうした課題からも、「コンテンツホルダーが所蔵していた原画を利用して、保管と活用に関するスキルとデータ、そして人材の集約と還元を行いながら、価値の定まっていない原画という史資料の活用方法の発見していく」という、マンガ原画のアーカイブのモデルを構築の重要性が再確認されたと述べられた。
講評・質疑応答
企画委員からの「マンガ出版社としてベテランのマンガ家と接していると原画の保管について切実な問題を伺っている。使用する材料による原画保管のテクニックを極めて頂きたい。そして何を資料として残すかを見極めることのできる人材を育成して頂きたい。また出版社から手伝えることとして、原稿と共に記録すべきデータなど業界全体への具体的な施策があれば指導して頂ければと思います」に対し「画材の研究(カラーインクの退色など)は美術学と同じく保存に関しては優先順位をどうすえるか難しいが関係者に聞いている。
出版社に対して、原稿に記載すべき項目はすぐに出てくると思うので今後は共有できるようにしたい」との応答があった。
企画委員より「原画の収集・保存は最も重要である。そして海外のマンガ家が一生に描くような分量を日本のマンガは数年で描いてしまうように、世界のストーリーマンガの中で新しいパラダイムを示している。圧倒的な量と単行本になっていないようなストーリーマンガの初出の特定など期待している。」と述べられた。