概要

アニメの制作従事者に関する記録(クレジット)研究の第一人者である原口正宏の活動実態を調査し、「メディア芸術データベース」での利用を企図した上で、当該データベースに記録されたデータが、汎用的に活用が可能となるように準備作業を行う。特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)を主催とし、原口正宏(リスト制作委員会)、金子英俊(アニメーション美術監督)、勝井和子(アニメーション美術監督)への取材を予定。現段階では、原口による、アニメーション美術監督の金子英俊、勝井和子へのヒアリング、サンプルデータ(金子及びアトリエブーカのフィルモグラフィ)作成、データフォーマットの調査を行う。また、クレジットデータベース構築の手法、記録する際のルール、特徴、仕組み、データベース構築での苦労とその克服方法、クレジットデータベースの応用範囲や資料的価値について調査する。

中間報告

報告者:特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構事務局 事務局長 三好寛

金子へのヒアリング調査回数、時間が不足しており、フィルモグラフィなど全職歴を網羅させることが困難となっている。そのため、原口には現状の調査で得た情報の範囲内で可能なフィルモグラフィ作成を依頼した。その作業過程をモデルケースに、原口のクレジットデータベース構築に係る調査や、データ活用の為の準備作業も、基礎的な事項の把握に注力する。
最終成果物として、調査結果報告書、金子英俊及び美術スタジオ「アトリエブーカ」の作品履歴(フィルモグラフィ)リストを作成する。

三好寛

最終報告

報告者:特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構事務局 事務局長 三好寛

原口正宏の自宅兼仕事場に訪問し、データ入力作業やさまざまなフォーマットでの抽出の実施を視察した。また、クレジットデータベースの構築手法、応用範囲や資料的価値を立証するため、モデルケースとして、アニメ美術監督・金子英俊及び金子が代表を務めた美術スタジオ「アトリエブーカ」の作品履歴(フィルモグラフィ)を作成した。フィルモグラフィの精度を上げるため、金子及びブーカの中心スタッフであった美術監督・勝井和子にも適宜ヒアリングを行った。金子が制作に参加した全映像作品履歴「金子英俊 フィルモグラフィ」と、それらの作品クレジットに表示された美術・背景関連のスタッフ名、スタジオ名をすべて記載した「金子英俊 参加作品 クレジット詳細データ」は、報告書別紙に掲載した。

原口のデータベースの特徴は、以下の通りである。
1)日本で公表されたテレビ、劇場、ビデオ用アニメのすべてが対象
2)映像(録画やパッケージ)、制作資料、文献などクレジット情報が徹底的に収集され、網羅性が高い
3)クレジット表示された画面どおりに記録されており、精度が高い
4)スタッフ本人への確認、資料発掘などによる補完
5)さまざまなフォーマットでの抽出、検索、加工が可能(金子英俊 フィルモグラフィ、年間パーフェクトデータなど)
6)アニメ作品の総量、アニメスタジオや分野、役職ごとのスタッフの実人数や変遷(人と会社のネットワーク)などが、時系列に沿って把握可能
7)アニメ業界の実態、実像を定量的かつ継続的に把握することが可能で、利用価値が高い

原口のクレジットデータの重要性、有用性を認識し、アニメ研究やアーカイブなど幅広く有意義に活用可能できることがわかった。しかし、同時に課題もいくつか浮かび上がった。まず、作業場所の広さや電源等設備の不備不足がある。PC環境が著しく古く、脆弱であり、データ変換やアクセスの試行は断念した。さらには、4人のスタッフでデータベースの作成を行なっているため、増加する作品量に対して人員が足りておらずオーバーワークとなっており、定期収入やパッケージサンプル入手ルートの途絶といった経済的問題も抱えている。
クレジットデータは、学術研究面、商業運用面などさまざまな活用が期待されるが、原口のデータベースへは、データベースのシステム環境の改善、作業場所や資料保管場所の改善(施設斡旋など)、パッケージサンプル提供などの支援や経済援助、データの重要性の啓蒙や周知、原口への相応の権利、経済的対価の保証、作業者やシステムの後継の確保などの課題対策や支援が必要である。これらの課題を解決し、将来的に万人が利用可能なデータベースの確立を目指したい。

実施報告書(PDF 約4.0MB)

※敬称略