町田市立国際版画美術館は、版画がその端緒をひらき、現代においては主流となりつつある「複数制作を前提とするアート」に着目し、1990年から映像作品やメディアアートの展示にも取り組んできた。代表的な展覧会として、「映像ファンタジー/コンピュータ・グラフィックスの世界」展(1990−2002年)、「ビデオ・オン・エイズ/ビデオ・アゲンスト・エイズ」展(1992−1995年)、「デジタル・インターコネクション」展(2003年−)などがある。2003年より継続して「学生メディア・アート」展(前身の「学生CG」展は1993年から)を開催したり、近年は『「初音ミク」現象に見るソーシャル・メディアの未来』展を開催するなど多彩な活動を展開する。そして、先駆的な活動として、オンライン上で展開される作品の紹介や公募展で構成される「アート・オン・ザ・ネット」展(2004年から「netarts.org」に改称)をインターネット黎明期である1995年から開催した。
「netarts.org」のウェブサイトには、前身の「アート・オン・ザ・ネット」も含めて1995年から2009年までの活動がアーカイブされている。残念ながらリンクが無効の作品もあるが、1990年代後半、同時代的にブームであった「インターネット・ミュージアム構想」を想起させる作品などがある。静止画や自己完結的なアプリーケションが中心で、今日のネットアート作品とはやや性格が異なるものの、従来の美術の枠組みから逸脱しようとするネットアーティストの理念は共通するであろう。
「netarts.org」始動と同時期に展開された国内のネットアートに関連する展示活動としてNTT Inter Communication Center[ICC]の「on the Web:ネットワークの中のミュージアム」(1995年)やふくい国際ビデオ・ビエンナーレ(1985–1999年)の関連イベントとして展開された「Tel-Image」展や「ネットワーク芸術」などがある。
ネットアートをめぐる歴史的検証の動向について、以前『NET PIONEERS 1.0 Contextualizing Early Web-Based Art』(*本書p.102に「netarts.org」の事例が紹介されている)の記事で取り上げた。ネットアートが研究対象になりつつある現在、衛星やラジオなどの放送技術、電話回線などを利用したインターネット前史におけるネットワークを利用した活動を含めた学際的な研究が求められる。
町田市立国際版画美術館「netarts.org」