2013年1月12日より3月24日まで、神奈川県立近代美術館鎌倉および鎌倉別館において、「現代への扉 実験工房展 戦後芸術を切り拓く」が開催中である。「実験工房」は、造形作家の大辻清司氏、北代省三氏、駒井哲郎氏、福島秀子氏、山口勝弘氏、作曲家の佐藤慶次郎氏、鈴木博義氏、武満徹氏、福島和夫氏、湯浅譲二氏、ピアニストの園田高弘氏、詩人・評論家の秋山邦晴氏、照明家の今井直次氏、エンジニアの山崎英夫氏による、1950年代の総合芸術集団。結成当時まだ20代前半から30代前半だった先鋭の才能が共有していた実験の精神を高く評価し、命名したのは詩人・批評家の瀧口修造氏だった。
 

近年、日本戦後美術が世界的に注目されている中、2009年にロンドンのAnnely Juda Fine Artギャラリー 、そして昨年の2012年にはパリのベネトンサロンにて「実験工房」展が開かれた。1991年、オマージュ瀧口修造シリーズ第11回「実験工房と瀧口修造」展が佐谷画廊で開催され、2010年に書籍『ドキュメント 実験工房 2010』(西澤晴美編、東京パブリシングハウス)が刊行されるなど、国内でも活発な再評価作業が行われてきたが、グループとしての「実験工房」を網羅的に紹介した公立美術館による展覧会は、本展が最初である。「グループ結成の前夜」「1951年から1957年まで実験工房として活動した時代」「1960年代の活動」からなる3部構成で、絵画、立体、映像、写真、楽譜、公演プログラムなど約450点の関連資料を紹介している本展は、4月から、いわき市立美術館、富山県立近代美術館、北九州市立美術館分館、世田谷美術館を巡回する予定である。

神奈川県立近代美術館は、茨城県近代美術館とともに、2006年山口勝弘氏の回顧展が開かれた会場でもある。回顧展のタイトル「メディアアートの先駆者 山口勝弘展 <実験工房>からテアトリーヌまで」からうかがえるように、「実験工房」は日本のメディアアートの源流を探る上で、非常に重要な存在である。その一例として取り上げられるのが、戦後日本におけるアートとテクノロジーの軌跡を振り返った、2005年のICC企画展「Possible Futures: Japanese Postwar Art and Technology」展。この展示の最初に取り上げられたのは、1953年第5回実験工房発表会で公開された、福島秀子氏と福島和夫氏の「水泡は創られる」、山口勝弘氏と鈴木博義氏の「試験飛行師W.S.氏の眼の冒険」、北代省三氏、武満徹氏、湯浅譲二氏、鈴木博義氏の「見知らぬ世界の話」。これらの作品は、ソニー株式会社の前身である東京通信工業の協力を得て、まだ市販前だった、テープレコーダーの音源とスライドの映像を同期できる装置、オートスライドを利用して制作された。もう一つのオートスライド作品、駒井哲郎氏と湯浅譲二氏の「レスピューグ—R.ガンゾの詩による」は、フィルムとテープの消失のため2005年には展示できなかったが、今回の展示のために再現されたのでお見逃しなく。

神奈川県立近代美術館の「現代への扉 実験工房展 戦後芸術を切り拓く」展

http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition_kamakura/jikken/jikken/index.html

http://jikkenkoboinkamakura2013.blogspot.jp/