2013年11月29日、「アニメーション・アーティスト・イン・レジデンス東京」(以下「A-AIR」)の2013年度の招へい者3名が決定し、発表された。

「A-AIR」は、文化庁委託事業「海外メディア芸術クリエイター招へい事業」として一般社団法人「ジャパン・イメージ・カウンシル」(JAPIC)が実施・運営するものだ。海外の有望な若手アニメーション作家3名に対し、東京での70日間の滞在制作の機会を与えるこのプログラムは、2010年度のスタート以来、今年度で4年目を迎える。これまで、イギリス、フランス、中国、スイス、ポーランド、アメリカ、ベルギー、フィンランドと様々な国の若手作家9名(組)がこの制度を通じて日本に滞在し、メンターの指導やアニメーションに関係する場所の視察、日本の若手作家や学生などとの交流を行いつつ、制作に励んできた。

「A-AIR」をきっかけとして作られた作品は、これまで、マイキー・プリーズ氏(イギリス)の『Marilyn Myller』 (2013年)がエジンバラ国際映画祭の最優秀アニメーション賞を獲得したり、エッリ・ヴオリネン氏(フィンランド)の『Sock Skewer Street 8』 (2013年)がファントーシュ国際アニメーション映画祭で音楽賞を受賞するなどしている。ヨーロッパにおいて、たとえばオランダ・インスティトゥート・フォー・アニメーション・フィルム(NIAf)の消滅に伴いNIAf主宰のレジデンス制度も廃止になるなど、同種のプログラムの数が減るなか、着実に成果をあげつつある同プログラムの評判は世界的に高まっており、今年度は過去最多の274件の応募があった(それまでの最多は2012年度の112件なので、今年度は2倍以上の応募を集めたことになる)。

これまでの「A-AIR」では、卒業制作作品が世界中のアニメーション映画祭で高い評価を受けた作家が選ばれる傾向があり、卒業後のキャリアの第一歩を踏み出す手助けをしてきたが、今年度の「A-AIR」で選ばれた3名も、まさにそれに沿ったものとなっている。

一人目のミヒャエル・フライ氏はスイス出身の作家で、同国を代表するアニメーションの教育機関であるルツェルン応用科学大学のアニメーション専攻出身である。同校からは2012年度のイマニュエル・ワーグナー氏に続き、二人目の選出となる。フライ氏は、在学中の交換留学プログラムによって、こちらも短編作家の育成に定評のあるエストニア芸術アカデミーでも学んでいる。フライ氏の作品はシンプルな描線画と指のモチーフが特徴的で、卒業制作の『PLUG & PLAY』(2013年)はCinanima映画祭のグランプリを受賞するなど、今年の学生作品を代表する作品となっている。

二人目のオフラ・コブリネル氏はエルサレムのベツァルエル美術デザイン学院にてアニメーションを学んだ。同校もイスラエル国内で有数のアニメーションの教育機関であり、社会性を伴った多くの秀作を生み出している。コブリネル氏の卒業制作『In A Clear Mind』(2010年)は、繊細な描線と実写とを混ぜ合わせながら街のスケッチを描き出す作品で、2012年の広島国際アニメーションフェスティバルの国際コンペティションに入賞している。

三人目のトマーシュ・ポパクル氏は、ウッチ映画大学でアニメーションを学んだ。同校はアンジェイ・ワイダ氏、ロマン・ポランスキー氏、ズビグニュー・リプチンスキー氏など、ポーランドを代表する映画監督の出身校であり、実写映画の監督を輩出する場所として定評のある場所なのだが、ポパクル氏のアニメーションもまた、今回選ばれた他の二人の作品にクラフト性が強いのとは異なり、実写映画の影響が色濃いものとなっている。卒業制作の『ツィーゲノルト』(2013年)は、作家の生まれ故郷を舞台とした作品で、半魚人の少年が父親との関係、思春期の時期における異性への憧れなどに苛まれる物語を、CGとドローイングを混ぜ合わせた不穏なビジュアルで描き出す。この作品も、クラクフ国際映画祭の最優秀アニメーション監督賞やファントーシュ国際アニメーション映画祭の新人賞など多数の受賞歴があり、話題の作品となっていた。

以上の3名は、2014年1月7日から3月17日までの70日間、東京に滞在する予定である。

JAPIC公式HP内のプレスリリース

http://japic.jp/?p=1234