日本最大のコンピュータエンターテインメントに関する国際会議「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス」(CEDEC)が、2012年も8月20日から22日まで、パシフィコ横浜の会議センターで開催された。2011年度の参加者数は4,633名(業界研究フェア1,105名を含む)で、今年も約5千名が参加したとされる。

CEDECは毎年3月に米サンフランシスコで開催される、世界最大のテレビゲーム国際会議「ゲーム・ディベロッパーズ・カンファレンス」(GDC)の影響を受け、1999年にスタート。今年で14回目を迎える。現在さまざまな開発者会議が世界中で開催されているが、その中でもGDCの約2万名につぐ、「ぶっちぎりの2位」という規模感だ。他にも現在、さまざまなゲーム開発者向け会議が世界中で開催されており、GDCを主催するUBM TechWebが開催するものだけでも、GDC Europe、GDC Online、GDC Chinaなどがあるが、いずれも参加者が数百人〜千名程度で、ドングリの背並べの観がぬぐえない。

ゲームではなく「コンピュータエンターテインメント」

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基調講演をつとめた有限会社ソラ代表の桜井政博氏は、「あなたはなぜゲームを作るのか」と聴衆に訴えた。

CEDECの特徴は、業界団体の一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が主催するにもかかわらず、業界色をおさえて、内容に多様性を持たせようとしている点にあるだろう。2011年には、それまでの「CESAデベロッパーズカンファレンス」という名称から変更し、あらためてゲームも含む「コンピュータエンターテインメント業界」向けの国際会議という位置づけを鮮明にした。今年のテーマもズバリ、「エンターテインメント・ダイバーシティ」だ。

この象徴が基調講演で、毎年ゲーム業界の「内側」「外側」「中間」から、1名ずつ登壇している。今年は「内側」から「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズなど、世界的なゲームソフトの生みの親として有名なソラの桜井政博氏。「外側」は独立行政法人・日本学術振興会理事長の安西祐一郎氏。「中間」はアメリカの特殊効果及び視覚効果のスタジオ、インダストリアル・ライト&マジックでマットペインターとして活躍する上杉裕世氏が務めた。


ウェブ業界からの知見が流入

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ゲーム開発者が優れたゲーム開発技術を表彰し、今年で5回目を迎えた「CEDEC AWARDS」受賞者の面々。

また今年は、ウェブ業界で近年注目を集めるようになった、「ユーザー・エクスペリエンス(UX)」に関する講演が増加した点が特徴的だった。ユーザーに印象的な体験をもたらす製品やサービスのことだ。

背景にあるのが、ソーシャルゲーム関連の講演の増加だ。ソーシャルゲーム系企業はIT系やウェブ系のビジネスを母体とするものが多く、ウェブの開発手法や文化に精通している。UXも主にウェブ業界で議論されてきた開発メソッドで、昨年はKPI(重要評価指数)に関する講演が多かったが、今年はこれがユーザーインターフェイスや、ユーザー体験の分野にまで広がった。ゲームの領域が拡大する中で、新規参入企業が新たな知見をもたらしている点が興味深い。

ソーシャルゲームの潮流は、ゲーム開発者の投票をベースに選出される「CEDEC AWARDS」でも感じられた。PS VITA向けに発売され、会場でも複数の講演が行われたアクションゲーム「GRAVITY DAZE/重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動」をおさえて、スマートフォン向けソーシャルゲーム「パズル&ドラゴンズ」が、ゲームデザイン部門の最優秀賞を受賞したのだ。CEDECの参加者は約半数がテレビゲーム(パッケージゲーム)の開発者であり、彼らが本タイトルを支持した意味は大きい。

「次世代」に向けて加速する専用機

一方、家庭用ゲーム機でも、いよいよ「次世代」ゲーム開発の議論が本格的に始まった。キーワードはゲームエンジン「アンリアルエンジン」の最新版「4」だ。GDCで先行公開され、6月に米ロサンゼルスで開催されたゲーム見本市「エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ」(E3)に前後して一般販売開始。そして8月のCEDECでは、開発を主導したエピック・ゲームズのティム・スウィーニー氏が来日し、開発思想を語った。

アンリアルエンジン4の推奨スペックは現在の家庭用ゲーム機を凌駕しており、「次世代ゲーム機」の技術的な指標とされる。すでに大手ゲームメーカーではアンリアルエンジン4上でのテスト開発が進んでおり、来年度に向けた取り組みが期待される。


今後の成長に求められること

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大学・企業の人材育成に関する取り組みの紹介。CEDECは産学連携の場としても機能しつつある。

一方で課題も少なくない。中でも開催日程の延長について、真剣に考慮する時期に来ている。議論の多様性を担保するには規模拡大が不可欠だ。しかし、都内近郊には本会場をしのぐ講演会場が存在しない。そのため規模拡大には開催日程を延長するしかないが、コストも跳ね上がる。CEDEC以外の学術会議や、コミュニティとの連携、動画配信などの活用をどのように進めていくか、知恵の出しどころだろう。

また例年要望に挙がるのが、9月後半に開催される東京ゲームショウとの日程調整だ。CEDECは技術中心、東京ゲームショウで開催されるTGSフォーラムはビジネス中心で、両者は補完関係にある。TGSフォーラムではビジネスマッチング機能も強化中だ。世界的にも国際会議とビジネスマッチングイベントの組み合わせが増えており、いつまでも開発者だけを対象としていては、世界の潮流に乗り遅れる。

「国際会議」としての存在感を高めるには?

これに関連して国際会議といいつつも、国際的な存在感がほとんどない点が、CEDECのアキレス腱だ。CEDECでは基調講演の同時通訳や、海外からの招待講演もあり、国際会議を名乗る資格はある。しかし、日本のゲーム開発技術に対する関心が薄れているため、海外から開発者が参加するメリットに乏しい。そのため「ぶっちぎりの2位」にもかかわらず、ローカルイベントに留まっているのが実情だ。

いずれにせよCEDECが、日本のコンピュータエンターテインメント業界における情報共有とコミュニティ育成で、非常に大きな地位を占めるまでに成長したことは、間違いない事実だ。そのCEDECを支えるのは、一人ひとりの講演者であり、参加者である。その参加価値をより一層高めるためにも、(筆者も含めて)関係者のさらなる奮迅を期待したい。