メディア芸術ライブラリーカフェでは2012年、「メディア芸術の孤児、特撮」と題したシンポジウムが開催された。あえて「孤児」とされた特撮作品はアニメに大きな影響を与えた。そして近年、CG技術の発展などで境界線が曖昧になりつつある。
では同様にボードゲームはテレビゲーム、そしてメディア芸術において、どのように位置づけられるのだろうか? 本書『ボードゲームカタログ201』は、不遜を承知でそうした設問を投げかけてみたくなる、文脈的価値を秘めた1冊だ。
テレビゲームの爆発的な進化はボードゲーム市場に大きな打撃を与えたが、1995年にドイツで発売された「カタンの開拓者たち」をはじめとしたボードゲーム・ルネサンスで状況が変わった。日本でも今やカードゲームの「人狼」をモチーフにしたテレビ番組が放送されるほどだ。そしてテレビゲームやクリエイターにも刺激を与えている。
本書を編纂した東京・高円寺のボードゲーム専門店「すごろくや」代表の丸田康司氏も、そうした一人だろう。「MOTHER2」「風来のシレン」などを手がけたゲームクリエイターだったが、趣味が高じて専門店を開店するまでになった。書籍の編纂やゲームイベントの開催、オリジナルゲームの制作販売も手がけている。
もともと本書は2011年に出版された『ボードゲームカタログ』の最新改訂版だ。3分の1以上にあたる70タイトルが入れ替わり、ゲームの特徴がタグで分類される、ドイツゲーム大賞の情報がアップデートされるなど、様々にリニューアルされた。カタログ本の改訂版というだけでも、本分野の活況ぶりと定着ぶりが感じられる。
本シリーズの特徴は、元ゲームクリエイターらしいツボを押えた紹介や解説文、発売年や制作者の氏名などが網羅されたデータ、そしてボード(盤)やコマなどを並べて撮り下ろした写真だ。1枚でゲームの魅力が伝わるように配慮されており、フルカラーの魅力たっぷり。関係者の苦労が忍ばれる。
データから読み取れることも多い。一つは国際化だ。全体の半分以上にあたる105作がボードゲーム大国のドイツ製。次いでアメリカと日本が27作ずつ。そしてフランス製が20作も紹介されている。以下カナダ、チェコ、イタリア、イスラエル、スイス、ポーランド、イギリスと続き、ニュージーランドやオーストリア、フィンランドのゲームもある。
国産のボードゲームはテレビゲームに押されて1990年代に壊滅状態になったが、ここまで新作が出ているとは嬉しい発見だった。またフランスの作品数にも驚かされる。ドイツゲームの周辺拡大で「ユーロゲーム」という言葉が生まれるゆえんだろう。
発売年代も興味深い。2001年以降のゲームが147作と全体の7割以上を占めており、2011年以降に限っても44作が紹介されている。逆に2000年以前は秀作揃いだ。特に商品取引所がテーマのカードゲーム「ピット」の発売年が1903年という点には唸らされた。100年以上も前からほとんどルールが変わっていないのだ。
また石川県の宇井津地区の伝統ゲームで、1900年ごろから遊ばれていたとされる「ごいた」も、復刻版が紹介されている。ペア対戦の4人専用ゲームという点がユニークだ。ともに古典的名作だろう。
ルールの改編や創造が容易なボードゲームは、プロからアマチュアまで様々な作品が毎年登場し、近年ではクラウドファウンディングとの結び付きで、さらなる広がりも見られる。それだけに初心者向けのカタログ本は重要で、本書も定期的な改訂が期待される。
『ボードゲームカタログ201』
編:すごろくや、出版社:スモール出版
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