ゲーム業界には常に楽観論と悲観論が混在している。技術進化に伴い、これからも「まったく新しい」体験を可能にするサービスやデバイスが次々に登場し、市場が拡大するという楽観論。他方、その終わりのない波の中で、自社のビジネスが常に時代遅れになり、変化に対応できなくなるのではないかという悲観論だ。
実際に市場規模を見ると、2013年度の国内家庭用ゲーム市場は4095億円(ハードウェア・ソフトウェア含む)で、ソーシャルゲーム全体の市場規模は5346億円と、すでに両者は逆転している。これは家庭用のパッケージゲームから、ソーシャルゲームのF2P(基本プレイ無料のアイテム課金モデル)という、ビジネスモデルの移行だとも言えるだろう。
こうした業界の変化をテーマとしたマンガが『ナナのリテラシー2』だ。主人公はITコンサルタント会社「プロテクト」でアルバイトする女子高生のナナ。1巻では電子書籍がテーマだったが、2巻では老舗ゲーム会社「BOMB」を舞台に、ゲーム業界の現状が描かれる。書籍版に続いてキンドル版も出版された。
家庭用ゲームの全盛期にはヒット作を連作した同社も、今はフィーチャーフォン向けゲーム開発でなんとか売り上げを維持しているのが現状だ。そんな同社では、かつて天才クリエイターとして活躍した社長の黒河内大五郎と、天才的だが協調性のないプログラマー、通称「殿下」の対立が続いており...というストーリー。
黒河内は「ゲームはユーザーにいかに楽しく努力させるかが重要」で、ソーシャルゲームを「課金すれば努力なく快楽が得られる、麻薬と同じようなもの」と一刀両断。その一方で殿下は「売れれば何をやってもいい、それを歓迎するユーザーに食べさせてもらっている」と反発。この対立構造は、ここ10年間におけるゲーム業界の縮図でもある。
もっとも、そのソーシャルゲームもフィーチャーフォンからスマートフォンに急速なシフトが進行中だ。その一方で「パズル&ドラゴンズ」のようなヒットアプリが一本出ると、すべてが変化するのは昔も今も変わらない。生き残れるのは変わり続けられる組織だけだが、人はそこまで器用になれず...身につまされる業界人も多いだろう。
著者は『おとなのしくみ』など、ゲーム業界の裏側を題材にヒットを連作した鈴木みそ。電子書籍出版にも意欲的で、2013年には「個人でもっとも電子書籍を売った作家」と言われたほどだ。出版もゲームもパッケージから配信に移行し、業界は激震が続いている。そんな著者だからこそ描けた一作だと言えるだろう。
蛇足ながら本書の特徴は「冷静なツッコミと業界に対する愛情、そして少々の毒」で、これは鈴木みその芸風だとも言える。昔に比べてこうした毒を持つ漫画家が少なくなった。それは業界に余裕がなくなってきたことの表れでもある。出版もゲームも変革期だからこそ、こうした型破りな才能が必要だと思うのだが...。
『ナナのリテラシー2』
著:鈴木みそ、出版社:KADOKAWAエンターブレイン
出版社サイト
http://www.enterbrain.co.jp/product/comic/beam_comic/14250401