ヴェネツィア・ビエンナーレ(イタリア)やドクメンタ(ドイツ)と並んで歴史ある大規模な国際美術展の一つである「第30回 サンパウロ・ビエンナーレ」(ブラジル)が2012年9月7日から始まり、同年12月9日まで開催される。

本フェスティバルで筆者が注目するアーティストは、クヌート・オーフェルマン氏(Knut Aufermann、1972年−、ドイツ)とサラ・ワシントン氏(Sarah Washington、1965年—、英国)らによるアーティスト集団「モバイル・ラジオ(Mobile Radio)」だ。彼らはサンパウロ市に滞在し、ラジオ・アートのための放送局を期間限定で展示会場内のFM 87.5 MHzとオンラインで展開する。《Mobile Radio BSP(Bienal São Paulo)》と題されたプロジェクトでは、国際的なラジオ・アートのネットワークである「Radia」(フランス)と恊働で、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラレーシアなどのアーティストらによる作品を紹介していく。9月7日には、フリオ・デ・パウロ氏(Julio de Paulo)によるパフォーマンス《Edgard – and the radio was made》が行われ、9月14日と21日には、アンドレ・ダミアオ氏(André Damião)による広く一般の人々が参加できるプロジェクト《FxRxB! (Feed the Radio Back!)》が行われる。現在(2012年9月11日午後11時 日本時間)はジョン・ケージの《Roaratorio: an Irish circus on Finnegans wake》(*1979年にドイツのWDRラジオで初演)が放送されている。今後も会期を通してゲスト・アーティストの作品発表の他、レトロスペクティブやディスカッションなどを通して、ラジオ・アートの過去と現在を共有しながら、ラジオ・アートという芸術表現の様式について考察するプラットフォームを形成していくようだ。ウェブサイトやTwitter(@Mobile_Radio)で最新のプログラムを知ることができる。

モバイル・ラジオは、日本のラジオ・アーティストである粉川哲夫氏(1941年−)とも親交があり、インターネットを介して粉川氏が教鞭をとっていた大学でライブやワークショップを行ったことがある。粉川氏は身体と電子テクノロジーの関係をテーマにしたパフォーマンスやワークショップを国際的に行ってきた。ラジオやテレビの電波をメディウムとして扱い、自らの身体を取り込んで電波を操るパフォーマンスがYouTubeで公開されている。一方、批評活動や1980年代に「自由ラジオ」を提唱したことでも知られる。粉川氏のウェブサイトを訪れると、ラジオ・アートに関する資料論考などを閲覧できる。2012年6月に出版された『メディアと活性—What’s media activism?』(細谷修平・編/メディアアクティビスト懇談会・企画、インパクト出版会)では、セルフ・メディア(独自のメディア)としてのラジオやビデオについて言及する。

《Mobile Radio BSP》は、粉川氏の「自由ラジオ」のように、オルタナティブなコミュニケーション装置としてのラジオ放送局を持つこと自体が広義のラジオ・アートだと考えることもできる。サンパウロのFM 87.5 MHzと、場に拘束されにくいインターネット・ラジオが創出する状況がどのような経験をもたらすのか、注目していきたい。

《Mobile Radio BSP》モバイル・ラジオのウェブサイト

http://mobile-radio.net/?page_id=1447

《Mobile Radio BSP》第30回 サンパウロ・ビエンナーレのウェブサイト

http://www.bienal.org.br/30bienal/pt/Paginas/radio.html