シリアスゲームを1泊2日で開発する「シリアスゲームジャム」(主催:日本デジタルゲーム学会ゲーム教育研究部会)の第5回がビサイド(東京都立川市)で12月10日と11日に開催され、「みんなのバリアフリー」[http://www.mediadesignlabs.org/SGJ5/]をテーマに5作品が開発された。イベントにはゲーム開発を学ぶ学生を中心に、ITエンジニアやゲーム開発者もくわわり、全39名がエントリー。NPO法人PADM(遠位型ミオパチー患者会)[http://npopadm.com/]代表で、車椅子生活を送る織田友理子さんらのアドバイスなども受けながら、ゲーム開発にとりくんだ。

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第5回シリアスゲームジャム〜みんなのバリアフリー〜参加者・関係者一同

シリアスゲームは医療・教育といった社会の諸問題についてデジタルゲームを通して学び、解決するためにデザインされたゲーム群の総称で、ゲームジャムは1泊2日〜2泊3日で少人数の制作チームが同一テーマのもと、ゲームを開発する開発イベント。シリアスゲームジャムは2014年6月に「英語学習」をテーマに第1回が開催され、開発されたゲームのいくつかはイベント終了後も継続開発が行われ、公式サイトで公開されている。

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基調講演で車椅子生活者が感じるバリアについて解説する織田さん

シリアスゲームは一般のゲームと異なり、「ゲームとしてのおもしろさ」と共に「社会問題に対する正しい知識」が必要になる。そのため本イベントでは織田さんの講演ビデオ[https://youtu.be/0Ff2ZUKeTcg]を事前視聴したり、基調講演で実際に話を聞くなどしたりして、テーマについての理解が深められた。

織田さんはスマートフォンの位置情報とGoogle Mapを組み合わせた「みんなでつくるバリアフリーマップ」[http://b-free.org/]でGoogle インパクトチャレンジの最優秀賞を受賞し、現在実制作に取り組んでいる。織田さんは「わずか4.5センチの段差が車椅子生活者には乗り越えられず、移動の障害になる」と指摘した。

また島根大学で視線入力デバイスの医療活用について研究中で、織田さんと共にサービスを共同開発中の伊藤史人さんや、国立病院機構八雲病院に所属する作業療法士の田中英一さんら、バリアフリーの専門家から企画に関してアドバイスを受ける光景も見られた。

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ゲーム開発風景

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企画に対して専門家からアドバイスを受ける参加者たち

日本では「Wii Fit」をはじめ、商業ゲームとして開発されたゲームがシリアス用途でも転用される例がみられる。これに対して欧米では企業や行政からの発注で、最初からシリアス用途に開発される例が多い。中でもシリアスゲーム大国として知られるのがオランダで、本イベントでもオランダ駐日大使館が後援し、夜食の差し入れを行った。またインドのシリアスゲーム開発者たちと、実行委員長をつとめた古市昌一さんとの間で、Skypeを介したビデオ会議も行われた。

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オランダ大使館からの夜食を楽しむ参加者

その後、閉会式で開発チームによる成果発表が行われ、視線入力デバイスを用いたシューティングゲーム『ゴーゴンの館』が最優秀賞を受賞した。チームリーダーの加藤木健太さん(東京工科大学)は「ゲームジャム初参加者もいたなか、挑戦的なゲーム制作ができてよかった」とコメント。織田さんは「社会問題の多くは当事者にならなければ理解しづらいものです。ゲームは自分にとって別世界だったが、とても興味深い取り組みで驚きました。ここから本気で世界が変わると信じています」と講評した。

①最優秀グランプリ『ゴーゴンの館』

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視線入力デバイスの普及・啓蒙を通して、肢体障害者にフレンドリーな社会を築くことを目的に制作されたシューティングゲーム。視線入力デバイスには「Tobii」が使用されている。カーソルキーで館を移動しながら、敵キャラクターの瞳を注視して攻撃していく。シリアスゲームとしての着眼点とゲームとしての完成度の高さの双方が評価され、グランプリとなった。

②リサーチ賞・デザイン賞『BLIND MAZE』

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真っ暗闇の空間で、音を便りに出口を探して進んでいくVRゲーム。シリアスゲームジャム会場がそのまま舞台になっており、映像を表示した状態でプレイして差分を確認することもできる。企画提案者が視覚障害者に健常者が手を引かれて暗闇の建物を歩く「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験していたことと、総合的なデザイン力の高さで二冠に輝いた。

③オランダ大使館賞『Go! ペティル Go!』

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本シリアスゲームジャムのマスコットキャラクター「ペティル」をフィーチャーしたゲーム。車椅子に乗ったペティルを操作し、ステージ上の段差をスロープに適時変えながら、宇宙船のパーツを集めていく。「遊んだ人に対して現実世界の見方を変えさせる可能性を秘めている」として、オランダ大使館賞を受賞した。ペティルのCGモデルは共催のビサイドが提供している。

④VR賞『バリアからの脱出VR』

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バリアだらけの家を舞台としたVR脱出ゲームで、プレイヤーは車椅子生活者の女性となり、彼氏を驚かすために玄関に向かうという設定。現実の家でどのようなバリアフリーが必要か、疑似体験を通して理解してもらうことを目的としている。残念ながら時間不足で未完成となったが、室内がリアルに再現されており、VR賞を受賞した。

⑤『助けて!見え猿聞こえ猿』

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視聴覚に障害がある二匹の猿が街中で安全に移動できるように、信号機にメロディをつける、点字ブロックをつけるなど、街中の環境を変えていくゲーム。小学生を対象に基本的なバリアフリーの概念について理解してもらうことを目的としている。残念ながら時間不足でゲームプレイまでにいたらず、受賞には至らなかった。

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『BLIND MAZE』を試遊している様子

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『Go! ペティル Go!』を試遊する織田さん

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実行委員長の古市昌一さん(左端)と、最優秀賞に輝いた『ゴーゴンの館』制作チーム

シリアスゲームジャム実行委員の岸本好弘さん(東京工科大学)は閉会式で、「今回のゲームジャムで制作されたゲームはいずれもプロトタイプで、世界を本気で救うにはクオリティが少し足りない。今後も開発を続けて欲しい」とエールを送り、2017年3月に愛知県で開催される日本デジタルゲーム学会年次大会での出展意向を示した。実行委員長の古市昌一さん(日本大学)は「今回は留学生の参加も見られた。今後はオランダとの連携をはじめ、より国際的なイベントにしていきたい」と抱負を語った。

なお、今回の模様や資料はFacebookのグループページ[https://www.facebook.com/groups/1082422435145549/]で公開されている。