ゲームは誰が作っているのか。ゲーム雑誌のインタビューなどでは、プロデューサーやディレクターといった、一握りのトップクリエイターが紹介されるだけで、開発現場に光が当たることは少ない。そうした中で本書『ゲームクリエイターが知るべき97のこと』は、そうした生の声をうかがい知ることのできる、貴重な1冊となっている。

本書の特徴は3つある。第1にゲーム開発の第一線で活躍するゲーム開発者が記した、97本のショートエッセイ集であること。第2にプログラマーだけでなく、ゲームデザイナー、アーティスト、サウンドなど、多彩な職種が含まれていること。そして第3に、有名クリエイターも含まれているが、ほとんどの書き手が(業界内では著名でも、一般的には)無名であることだ。

ゲームはかつてプログラマーが一人で作るものだった。それが次第に集団制作となり、今や大作ゲームでは100名以上のチームが数年間かけて作ることも珍しくない。一つのタイトルを海外企業と共同で開発することも普通になった。その結果、職務内容が細分化され、個々のクリエイターに求められるスキルが先鋭化した一方で、逆に作り手の顔が見えにくくなっている。これは作り手同士でも同じことがいえるだろう。

ゲーム開発は最先端のIT技術が用いられる一方で、極めて労働集約的な側面がある。ゲームは巨額のお金が動く商品である一方で、個々の開発者の創造性を必要とする芸術的な側面がある。有名クリエイターの天才的なひらめきも、それを形にする幾多の開発者の努力なしには、市場に出すことはかなわない。そうした現場の開発者が何を考え、何を大切に思いながらゲームを作っているか、その思いが本書にはぎっしりと詰まっている。

本書のベースは、日本最大のエンタテインメント開発者向け国際会議「CEDEC」(コンピューターエンターテイメントデベロッパーズカンファレンス)だ。編者の吉岡直人氏は2008年から20011年までCEDECの運営委員会委員長を務め、本書も吉岡氏の呼びかけに応える形で編纂された。企業の壁を越えて知見を集約するCEDECの取り組みの、いわば集大成と言えるだろう。ゲームだけでなく、広くモノづくりの現場に届けたい1冊だ。

『ゲームクリエイターが知るべき97のこと』

編:吉岡直人、出版:オライリージャパン

出版社サイト

http://www.oreilly.co.jp/books/9784873115702/