2011年10月に56歳で急逝したアップル前CEO、スティーブ・ジョブズの評伝だが、その第4章はゲーム業界の研究者にとっても、欠かせない資料となっている。

1974年2月にリード大学を中退したジョブズは、業務用ビデオゲーム「ポン」で急成長していたアタリ社に時給5ドルの技術作業員として入社する。本書にはジョブズの仕事ぶりや、創業者ノーラン・ブッシュネル氏をはじめ、周囲の人間がジョブズをどのように捉えていたかが、関係者のコメントと共に生き生きと記されている。

本書によると、ジョブズはアタリでの経験を糧に、デザインやビジネスに対する自分なりの方法を確立していったという。アタリのゲームデザインの本質はシンプルさにあると高く評価し、ここでの経験が後のアップル製品に影響を与えた。またブッシュネル氏の起業家としての思考法や仕事ぶりから、さまざまなものを吸収した。

当時のアタリは社員数50名ほどの中小企業で、ブッシュネル氏はジョブズに目をかけており、よく哲学的な議論をおこなったという。当時ナンバー2だったアル・アルコーン氏は「ノーランはジョブズのメンター(助言者)だったと言えます」とコメントしている。

ブッシュネル氏とジョブズは年が一回り離れており、共に新産業を切り開く画期的な商品を開発し、自社を追われている(ジョブズ氏は後に復帰したが)。1985年にジョブズがアップルの会長職を解任された時、ブッシュネル氏はタイム誌に否定的なコメントを寄せた。個人的な関係性と共に、ゲーム産業とコンピュータ産業の類似性も感じられる。

『スティーブ・ジョブズ1・2』

著:ウォルター・アイザックソン、訳:井口耕二、出版:講談社

出版社サイト

http://www.bookclub.kodansha.co.jp/books/topics/jobs/