文化庁委託事業「平成28年度文化庁メディア芸術連携促進事業」連携共同事業の「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2017」が、2017年2月11日(土)に練馬区の光が丘区民ホールで開催された。
http://www.janica.jp/course/digital/actf2017.html
文化庁とJAniCA(一般社団法人日本アニメーター・演出協会)ACTF事務局が主催し、共催は株式会社ワコム、株式会社セルシスである。
ACTFは「アニメーション制作に係わる制作者が必要とするデジタル制作技術に関する情報獲得の機会を提供する」ことを目的として、2013年のJAniCAのデジタルツール勉強会から始まり、2015年からACTFとして毎年開催されている。
会場は光が丘区民ホールをメイン会場に3本のセッションとシンポジウムを開催し、同時に集会室にてセミナーと展示を行った。
またメイン・セッションは各地の教育機関のサテライト会場(北海道、福島、新潟、京都、福岡)へも同時中継された。最近は地方スタジオも増え、アニメーション制作は地方の人材、スタジオの活用が課題となっており、情報格差を無くすためとのことである。
●メイン・セッション(メインホール)
1.株式会社デイヴィッドプロダクション(http://davidproduction.jp/)
「デジタルツールによる絵コンテ制作の効果と課題」
TVシリーズ『ジョジョの奇妙な冒険』でデジタル絵コンテを導入している津田ディレクターは、3年前に見学した海外のスタジオでは誰も紙を使っていないことに衝撃を受け、デジタル絵コンテ作成ツールStorybord Pro(http://www.comtec.daikin.co.jp/DC/prd/toonboom/)をToonBoom社から直接購入して使い始めた。デジタル化のメリットは、指事文字がキー入力で読みやすくなること、一度描いた絵のリフレーム、拡大縮小、コピー&ペーストが容易など。更にタイムライン制御ができるので、時間軸にカットを乗せて見ることが可能で、スポッティングが無くても仮カッティングができ、結論が早く出せる。今後の絵コンテの有り様としては、簡易的なアニマティックス(プリビズ:プリビジュアライゼーション)を作りプレゼンに活用する。ソフト内で音を貼れるので、プレスコや音楽物(PV)がやりやすい。また制作質量予測でカット数算出ができる。現在、ハリウッド映画の9割はStorybord Proを使用しているし、新海誠監督や神山健治監督も使用している。デメリットは、業界スタンダードがまだ無いので人によってツールが違う。またPCやタブレットが必要で、ツール(機材、ソフト)が高額で個人では手を出しにくい。絵の精度が上がりトライ&エラーが容易になると、拘りすぎるとコンテが遅れてしまう。ジャパニーズフォーマットのテンプレート設定もできるが、横パンの指定で文字指定とフレームが重なってしまう問題がある。
2.株式会社クリエイターズインパック(https://www.creatorsinpack.com/)
「Creators in Pack大阪スタジオのフルデジタル作画元請け制作報告」
2014年に大阪スタジオを開設し、最小構成で運営している。当初は紙の作画メインであったが、既存の方法に囚われずに効率化のためにデジタル移行をテーマとした。
デジタル導入では機材とソフトの購入が障壁だが、グロス制作毎の利益で少しずつ購入していき、デジタルを実装した。作画スタッフがデジタルに慣れるまでには生産数が落ちるが、歩合制固定給のため想定内で解消できた。
社内でCLIP STUDIO PAINT EX(http://www.clip-studio.com/clip_site/clipstudiopaint/scenes/animation?net_top)を導入したが、社内イラスト部で既に使用していたことと、アニメーター個人がお絵描き用に使用していたこと、比較的購入しやすい価格であったためである。
デジタル化のメリットは制作レスな現場の実現(進捗表の入力、カット回しなど)や、パソコンを持つスタッフ皆に仕事を割り振れること。またキャラ似せや絵の調整精度があがり、気軽にムービーチェックができ、リテイク対応に踏み出しやすい。デメリットは紙での質感が出ないことで、デジタル機能の手法を研究する時間と予算が必要。専門学校で教えて貰う学生の方がデジタルに慣れている。他のスタジオとのソフトの違いや、デジタル未導入のスタジオが多いことが問題。
ショートアニメ『バーナード嬢曰く。』は全デジタルで制作した。カット袋がフォルダになり、データ管理のフォルダ名を工程完了毎に記号を追記する工夫をした。進捗表は社内で各自が記入して、コンテ撮や線撮は素材が社内サーバーに上がったデータから順次に撮影が行い、編集は演出が行う。背景指示書も背景自身がデータから作るなど制作の手間を省いている。拡大作画も制作を介さずできる。動画発注はデジタル対応可能だとデータをそのまま渡すが、デジタル未対応の場合は紙への出力で発注する。オールラッシュは社内で参加出来るスタッフ(原画、作画監督、演出、動画検査、指定検査、撮影など)皆が参加し、その他地方スタジオもスカイプ使用で画面を見て共有する。その場でリテイク表を作成し割り振りを決定してデータを共有し、制作を介さずに自ら動き、全員がデジタルで分担するようにしている。今後は東京スタジオも大阪の事例をモデルにデジタルを導入する予定。
3.東映アニメーション株式会社(http://www.toei-anim.co.jp/)
「『正解するカド』におけるデジタル作画実践編」
社内制作部では動画・仕上げ工程は主にStylos(RETAS STUDIO http://www.retasstudio.net/)を使用している。シナリオ・絵コンテ・原画はアナログ作業であるが、デジタル映像部のTVシリーズ『正解するカド』ではシナリオから全工程のデジタル化の運用を実施中。デジタル作画はWindows機と22インチ液晶タブレットを使用。当初は13インチだったが演出チェックで全体を把握、設定、絵、タイミングを同時チェックするのに22インチとモニタ同時使用となった。原画作業は持ち運びやすい13インチが主流で、22インチは机を占有してしまうのが欠点で、16インチが望ましい。
2D&3DCGハイブリッドの本編カットの制作実例を示しながら、演出が3Dチームと共にカメラワーク、モブなど人物配置を決定し流れを確認する。3DCG・背景・作画と分担する前に光源演出指示を決める。作画のCLIP STUDIO PAINTではパース定規を使い背景パースを指示し、線撮せず作画段階で動きをチェックする。演出作業はデジタルでも基本は同じだが、撮影に渡す紙のタイムシートを別個に書くのが不便。まだカメラワーク・タイミング、パンなどタイムシートに頼らざるを得ないためだ。データのレイヤは色分けして整理し名称ルールもある。紙の場合は指示書がカット袋に有れば判るが、デジタルではモニタ画面上の視認が頼りで、レイヤーを非表示にしていると見落とす危険がある。
デジタルのメリットは拡大・縮小がPC上で完結できる、コピペで素材の量産が可能、背景パース作業も変形で対応、参考素材を画面に重ねて作業できるのでクオリティアップしやすいこと。
自社開発ツールのDrawDataManager(東映ドロー・データ・マネージャー)は作画、演出、制作と作品を繋ぐツールとして、サーバー上のデータフォルダをカット袋に見立てて、ツール上で各作業工程に順々にやり取りでき、工程間の申し送りなども可能である。集計表として個人の進捗状況、日報の管理なども行える。
親となるデータベースはCG業界でよく使われているSHOTGUN(http://area.autodesk.jp/product/shotgun)の作画管理ページにカットリスト相当が管理されCG、撮影チーム全てがアクセスできる。DrawDataManagerでデータ転送指示するとSHOTGUNを介して社外スタッフへ自動で送られる。
更に自社開発中ツールでDigitalTimeSheet(デジタルタイムシート)を紹介する。
原画から撮影までの指示書(タイムシート)をデジタル化すべく開発中。現在はデジタル化しても、工程毎に使用するアプリケーションが異なるため、欲しい情報が引き継げないことが多く不便である。そのため共通フォーマットを独自に開発して各ソフト間を行き来できるようアプリケーションを試作中。
4.シンポジウム
轟木保弘(ACTF事務局)司会で、アニメーション制作の人的リソースの不足やスケジュールの悪化に、デジタル作画は福音となり得るかを、各セクションの有識者を交えて議論された。以下はパネラー毎に発言をまとめた。
入江泰浩(アニメーション監督)
「自分の見ている範囲では、手描きとデジタルが混在して進んでいる。利点と同時に問題点は依然としてある。関わった作品での経験では、CLIP STUDIO PAINT上でロトスコープした素材を絵コンテのパースに併せてそのままClipStudio上で拡大縮小して原画のラフを組むことができたのはデジタルの利点。従来のように連番画像をプリントアウトして作画するのに比べてはるかに簡単にできた。ただ、ロトスコープや3DCGをプリントアウトしてガイドに使うやり方は、次の工程に渡すときにタップ貼りの作業が発生する問題がある。制作がやることが多いが、過重労働だと思う。直接動画用紙にプリントアウトするなどの方法で労力を減らす必要がある。混在の現場でむしろ双方の利点を生かした使い方をしている若い世代の技術者はいるが、方法の確立と周知はこれからだと思う。」
白石直子(ミルパンセ社長、制作プロデューサー http://millepensee.com/)
「弊社は2013年設立で、新人を育てる事から始め、出来る尺の作品を選んで参加することを原則にしている。『ベルセルク』ではCGとのハイブリッド作画のみで始めたが、モデルがない部分の作画対応が必要になり、全員がデジタル作画に切り替えた。作画机も全て売却した。デジタル化で一番悩ましいのは修正が容易なので決定線を出すのに作業効率が落ちること。メリットは個人クリエイトが可能で、一人を発信源に周りのスタッフがサポート要員として動く事が出来ること。作監を発信源にしたワークフローに変更することでやりやすくなった。デジタル化の予算は社内で線撮することで捻出した。
今後の新人はデジタル作画で1本全てを経験したクリエイターが増えるだろう。そうなると今の原画マンはコンピューターがあるのに原画しかできない訳にはいかない。アナログの特技はデジタルで絶対に生かせるので、10年後を見据えて皆がプラスアルファで色々と出来るようになろうという指針です。」
鴨田航(ミルパンセ・アニメーター)
「自分は紙作画から始めて、キャリア中にデジタルに係わった。デジタル作画だと新人は実作業にコミットしやすくなると思う。仕上げ後も作画に戻ってのリテイクが可能な分、リテイク対応が紙より効率的。」
山下清悟(クリークアンドリバー・クリエイテイブディレクター http://www.cri.co.jp/)
「弊社はPVやOPのような短尺物を小人数でハイ・クオリティに作成するデジタル作画を用いている。他社との連携でデジタル対応できていない処があり、長尺にまだ対応できないと感じている。原画マンでも教えれば簡単な3DCGで場面とカメラワークを構築して作画当たりにして、難しい背景動画カットでもスーパーアニメーターのような事ができる。今後はビジネスモデルの変化が重要で、TVアニメがジリ貧になる代わりに短尺物と劇場作品に2分化するのではないか。例えば京アニ(京都アニメーション)がクオリティ高くやったように、デジタルで若い勢力の新興スタジオが効率を追求して業界を引っ張ることになるのではないか。」
中西康祐(旭プロダクション 撮影監督)
「撮影ではデジタル作画でも、上がってくる素材は同じで作業も同じ。カット袋が少なくタイムシートだけになると感じる。最近、エンディングコンテ演出を行ったが、デジタル作画のベクターデータだと幾らアップにしても主線の太さが変わらずにジャーニー・スルー・アイの技法ができる。今後は撮影ではシート打ちが自動化できるとスタッフがエフェクトに集中できるようになる。撮影で使える色々なスキルを覚えないと置いて行かれる。覚えるのに体を酷使しているので効率化したい。」
●セミナー(集会室1)
セミナーは以下の4つが開催された。
1)株式会社トリガー(http://uspi.jp/associated/trigger)
「スキャナーとデジタル作画ツール活用による制作工程効率化」
2)株式会社セルシス(http://www.clip-studio.com/clip_site/clipstudiopaint/scenes/animation?net_top)
神風動画(http://www.kamikazedouga.co.jp/)
「セルシス×神風動画 CLIP STUDIO PAINTセミナー 〜クリスタの今とこれから〜」
3)Toon Boom(http://www.comtec.daikin.co.jp/DC/prd/toonboom/)
「Toon Boom最新ワークフローの紹介」
4)TVPaint(https://www.tvpaint.com/)
「日本のアニメーション業界の独特な制作方法に対してTVPaintAnimationはどのように対応できるか」
5)株式会社ドワンゴ(https://opentoonz.github.io/)
「OpenToonzのご紹介」
●展示(集会室2)
展示室では製品デモなど以下の11が展示された。
(1)株式会社サードウェーブデジノス「ドスパラ」(http://www.diginnos.co.jp/raytrek/)
(2)株式会社セルシス「CLIP STUDIO PAINT」(http://www.clip-studio.com/clip_site/clipstudiopaint/scenes/animation?net_top)
(3)株式会社ドワンゴ「OpenToonz」(https://opentoonz.github.io/)
(4)CACANi「CACANi」(https://cacani.sg/)
(5)ダイキン工業株式会社
「Toon Boom」(http://www.comtec.daikin.co.jp/DC/prd/toonboom/)
(6)株式会社横浜アニメーションラボ/ねこまたや(http://www.nekomataya.info/)
(7)進藤恒「iPad Pro向け絵コンテ、作画アプリ」
(8)薄山館株式会社「正法坊」(アニメ制作進行業務支援特化型アプリ)
(9)資料展示 一般社団法人日本動画協会、DCAJ(一般社団法人デジタルコンテンツ協会)、CG-ARTS(公益社団法人画像情報教育振興協会)、CGWORLD
(10)TVPaint Developpement
(11)コダックアラリス ジャパン株式会社(https://www.kodakalaris.co.jp/)
「ドキュメントスキャナーi3200」
(12)株式会社クリーク・アンド・リバー(http://www.cri.co.jp/)