Akbank Sanat(イスタンブール、トルコ)にて展覧会「Histories of the Post-Digital: 1960s and 1970s Media Art Snapshots」が開催中だ。会期は2015年2月21日まで。

キュラトリアル・ステートメントによると、デジタル・テクノロジーの革新性が注目され2000年前後に席巻した後、日常に浸透してその存在が非デジタルと曖昧になっている(判別する必要に迫られない)現在において、1960-70年代にデジタル・テクノロジーとアナログ・テクノロジーを意識的に融合させようとした作品群を再評価しようとする展覧会である。

主な展示は1960-70年代に開催された二つの実験的なイベント「九つの夕べ──演劇とエンジニアリング(9 Evenings: Theater and Engineering)」と「ニュー・テンデンシーズ(New Tendencies)」がテーマである。いずれも、アーティスト、エンジニア、科学者、批評家らを巻き込んだ学際的かつ国際的なネットワークを持ったプロジェクトで、日本からは、前者に中谷芙二子氏、後者に川野洋氏らが参加した。そして、メディアアート史における「サイエンス、テクノロジー&アート」の源流の一つとしてしばしば言及されるイベントである。

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展覧会風景1

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展覧会風景2

前者は、1966年にニューヨークの69thレジメント・アーモリーにおいて、ベル電話研究所の科学技術者とロバート・ラウシェンバーグ氏、ジョン・ケージ氏、デヴィッド・チュードア氏らアーティストのコラボレーションによって開催されたパフォーマンスで、後にグループ「E.A.T. (Experiments in Art and Technology)」が結成される契機ともなった。後者は、1961年から1973年にかけてザグレブ(クロアチア、旧ユーゴスラビア)をベースに、コンピュータ・アートやコンピュータ・ベースドのアーティスティック・リサーチを実践し、展覧会やシンポジウム、出版などの活動が展開されたムーブメントである。同展覧会では、New Tendenciesがザグレブで開催した全6回のイベント・シリーズのうち第4回(1968-1969年)と第5回(1973年)を扱う。

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「九つの夕べ──演劇とエンジニアリング(9 Evenings: Theater and Engineering)」記録映像10本上映

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左:「第4回(1969年)/第5回(1973年)ニュー・テンデンシーズ」ポスター/右(モニター):学会「コンピューター・アンド・ビジュアルリサーチ」記録資料、ザグレブ、1968-73年

さらに関連展示として、数理言語学者でアーティストでもあるRemko Scha氏が反ベトナム戦争運動の真っただ中であった1969年に着想したという、ALGOL言語を使って「Nixon Murderer」というスローガンをプリントアウトし続けるという作品が初めて発表された。また、作曲家のMichael Fahres氏が1979年にNBZミュージック・ビエンナーレにおいてザグレブの路上で、改造車に音響機器を搭載して環境音をリアルタイムで取り込み、アナログ・シンセサイザーで演奏したサウンド・パフォーマンス作品《Mobilodrom》の資料が展示されている。

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Remko Scha《Nixon Murderer》1969年−

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Remko Scha《Nixon Murderer》1969年−

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Michael Fahres《Mobilodrom》1979−1980年

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http://youtu.be/wCqXjW4ZLRc
Michael Fahres《Mobilodrom》1979年
first performed at the MBZ Music Biennale Zagreb, 1979, Urbofest (artistic director Nikša Gligo)
excerpt from the TV broadcast MBZ Urbofest, editor Sedeta Midžić, HRT Croatian Radio Television, 1979

関連イベントとして、展覧会場内に併設された「オフライン・メディア・コーナー(Off-Line Media Corner)」では、メディアアートに関連する資料群が用意されており、リサーチや対話を促すラボとして機能させながら、多角的にメディアアート史を補完しようとする試みである。また、「Saturday Seminars 」と題したレクチャー・シリーズでは、同展覧会のキュレーターをつとめたEkmel Ertan氏とDarko Fritz氏の他、Christian Paul氏、Jussi Parikka氏, Oliver Grau氏らが登壇する。

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オフライン・メディア・コーナー (左:キュレーターのDarko Fritz氏)

同展覧会は具体的な作品を提示しつつも、二つの「出来事」というモチーフを並列させ、近年学問分野として定着しつつあるエギジビション・スタディーズの視座に立っている点が興味深い。「メディアアート」や「デジタルアート」という用語自体がそうであるように、特定の美術ムーブメントや主義といったものではなく、多くの用語が作品で使われているテクノロジーに因る場合が多いため、作品形態を示す用語をめぐる問題はメディアアート史を考察するにあたってしばしば混乱をもたらす。そのような意味で、展覧会、パフォーマンス、シンポジウムなどの「出来事」を出発点にしてメディアアート史を読み解く手法は有効なのではないかと考える。同展覧会のカタログは2015年3月ごろに出版される予定。

Histories of the Post-Digital: 1960s and 1970s Media Art Snapshots
http://www.akbanksanat.com/en/akbank-sanat-beyoglu/sergi/

同展覧会特設サイト
http://postdigital.amberplatform.org/?lang=en
*全掲載写真はDarko Fritz氏より提供。

【カレントコンテンツ内関連記事】
ドイツZKMで川野洋の回顧展開催
http://mediag.bunka.go.jp/article/zkm_1-60/

【参考リンク】

Collection of Documents Published by E.A.T.(ダニエル・ラングロワ財団)
http://www.fondation-langlois.org/html/e/page.php?NumPage=237
ICC展覧会「E.A.T.─芸術と技術の実験」
http://www.ntticc.or.jp/Archive/2003/EAT/preface_j.html
ZKM展覧会「bit International」
http://www02.zkm.de/bit/
ザグレブ現代美術館
http://www.msu.hr/#/en/search/new+tendencies/