本書は、スイスのアニメーションをコンパクトなかたちで概観し、紹介しようと試みる本である。
スイスは決してアニメーション大国ではない。スイスのアニメーションは、作品の数や産業の規模を考えても、「これから」の領域である。そんな状況もあり、スイスはかなり意識的に自国のアニメーション・シーンを構築しようとしている。ファントーシュやアニマトウといった評価の高い映画祭の存在や、スイス・フィルムによる国内作家の国際的な紹介活動によって、スイスのアニメーションは国際的なシーンにおいて一定の存在感を持つことに成功している。製作面においても、テレビ局や政府系のファンドが比較的豊富に存在するなど、新たに生まれつつある伝統が手厚く保護されるための環境が整っている。本書は、同国のアニメーション作家たちがこれまで残してきた成果をまとめ、1冊の本にすることによって、スイス・アニメーションの全体像を広く周知するようなものとなっている。
この本は4部構成である。
第1部ではまず、スイスのアニメーションの歴史が振り返られる。産業の規模が大きくないがゆえに、それは主に個人作家たちのインディペンデントな活動の歴史となる。ジョルジュ・シュヴィッツゲーベルらのパイオニア世代、1990年代の個人用パソコンの普及以後に登場した世代、2002年のルツェルン芸術工科大学におけるアニメーション専攻設置以後の世代という3世代に分けられ、それぞれの世代の特徴や、作家としてのサバイバルの仕方などが語られる。第3部も第1部と関連しており、2000年代のスイス・アニメーションを考えるうえで非常に重要なルツェルン芸術工科大学アニメーション学科とそこで育った作家たちが紹介されている。
第2部と第4部は、豊富な画像資料とインタビューによって、作家たちの具体的な実践の紹介にフォーカスが当てられる。シュヴィッツゲーベル、イザベル・ファベといった日本でも著名な作家はもちろん、ルツェルン芸術工科大学アニメーション学科設置後の「ニューウェーブ」作家たち——ルドヴィガ・コワルスカやマリーナ・ロセット——の存在も取り上げられている。
ドイツ語と英語の両国語仕様となっている本書は、「コンパクトな」歴史をもったスイス・アニメーションを、あまり詳細に立ち入りすぎずに紹介する優れた本であり、アニメーション研究のためのひとつのガイドブックとして、必須文献となることは間違いないだろう。
『Animation.ch: Vision and Versatility in Swiss Animated Film』(Christian Gasser, Benteli Verlags Ag, 2012)
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