日本のメディアアートを支えてきたNTTインターコミュニケーション・センター [ICC]が20年を迎えた。その歴史をふりかえりつつ、これからの未来に向けて何を再創造するのかをテーマとした展覧会を観る。

evala+鈴木昭男《大きな耳をもったキツネ》2013年

インタラクティブ・アートの代表作から、進行中のプロジェクトまで

1997年に日本の電話事業100周年として新宿・東京オペラシティタワーに誕生したNTTインターコミュニケーション・センター(略称、ICC)。「オープン・スペース」とは、ここICCが2006年から毎年展示内容を変えながら、幅広い層に向けてメディアアートを通年で紹介する入場無料の展覧会だ。12回目となる今回は、ICCが20年という節目を迎え「未来の再創造」と題して開催している。これまでの20年を振り返り、この先の20年をどのように提示していくかを考える、総括のような企画である。

受付のあるエントランスフロアではインタラクティブな2つの作品が楽しめる。何も見えないモニターに「音めがね」をかざし目と耳で音を楽しむ緒方壽人(Takram)の《Oto-megane》(2013)。岩井俊雄の《マシュマロモニター》(2002)はモニターに映った動くものだけがリアルタイムで変形する、インタラクティブ・アートの代表作でもある。

メインフロアに上がると、岩井俊雄の《マシュマロスコープ》(2002)が来場者を迎える。その先には人工知能(AI)を用いた新作も。スグウェン・チャンの《ドローイング・オペレーションズ・ユニット:ジェネレーション2(メモリー)》(2017)はコンピューターに学習させた作家自身の描画方法をもとに、ロボットアームがひたすらドローイングを描いていた。人間と機械を対立させるのではなく、両者が共創する未来を目指す進行中のプロジェクトだ。徳井直生+堂園翔矢(Qosmo)の《The Latent Future——潜在する未来》(2017)は、大きなモニターに虚構のような現実のようなニュースが流れる。実はこれは膨大な過去の記事を学習したAIがTwitterのニュースフィードを受け入れながら、リアルタイムに生成した架空のニュースと現実のニュースが交互に表示されるのだ。

また、ドローンやケーブルカムによって上空から様々な風景を淡々と映したユェン・グァンミン《エネルギーの風景》(2014)、環境放射線を検知すると鈴がなる三原総一郎の《  鈴》(2013)は東日本大震災、福島第一原発事故に直接的に向き合った作品である。

「耳で視る」を体験する

こうしたなか今回特に印象深かったのは無響室で展示されていたevalaの「See by your ears」だ。無響室とは音の反響が全くない空間である。evalaは鈴木昭男とともに2013年に《大きな耳を持ったキツネ》という作品を同じ無響室で発表した。これは鈴木の自作楽器による演奏やevalaが録音した素材で制作した、8.1ch立体音響によるサウンド・インスタレーションだ。今回は同作に加え、同じ方法で制作されたevalaによる約7分間の新作《Our Muse》も体験できる。
体験は一人1曲ずつなので、筆者は予約をし今回は《Our Muse》を選んだ。係の人に案内されると、小さな部屋の真ん中に椅子が一つ。その椅子を囲むように8箇所にスピーカーが設置されていた。やがて扉が閉まると、全く音も光も感じない闇に取り残される。しばらくすると、すぐそばで環境音が聞こえる。カサカサと人の気配がしたり、波の音が聞こえたり、それらに音楽が重なったり。音が生き物のように変化し、近づいたり離れたり、鑑賞者の周りを縦横無尽、立体的に駆け巡る。何も見えないはずの真っ暗な空間の中で目を開けながらも、耳から聞こえる音や音楽に連れられ様々なイメージが浮かんでくるようだった。人間の知覚とは本当に不思議だ。耳から入る音だけでイメージを想像することもできるし、かたやVR(バーチャルリアリティー)のように、視覚からあらゆる体験を全身で感じることもできる。新しい技術が開発されるたびに、人間の知覚とは何かといった根源的な問いはより深まっていくのではないだろうか。
本展は近作が多いなか、唯一ICCの歴史とともにあるのがICCコレクションでもあるグレゴリー・バーサミアンの《ジャグラー》(1997)だ。19世紀に発明された映像装置の仕組みを応用し、人間と機械の間にある希望と葛藤を表現した。時間の流れやテクノロジーの進化の中にいても、本作が同じ場所にあることで、現在の立ち位置を再確認できる。
「未来の再創造」。それは人が技術をどう使っていくか、それによって未来に向けて何を創造できるのかを考えながら、現在地を確かめることのできる展覧会である。


三原聡一郎《  鈴》2013年

「リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC」展覧会オープンに先立って開催されたシンポジウム「これからのテクノロジー環境における新しいヴィジョンを求めて」(開催日:2017年5月14日)のアーカイヴ展示

慶應義塾大学 鳴川肇研究室の展示

開催情報

オープン・スペース 2017 未来の再創造
会期:2017年5月27日(土)〜2018年3月11日(日)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日.なお,2/12[月]は休館,2/13[火]は開館),保守点検日(2/11),年末年始(12/28-1/4)
入場無料
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]
参加作家:岩井俊雄、evala、鈴木昭男、緒方壽人、オーラ・サッツ、スグウェン・チャン、徳井直生、堂園翔矢、Qosmo、nor、グレゴリー・バーサミアン、カイル・マクドナルド、三原聡一郎、袁廣鳴(ユェン・グァンミン)、リサーチ・コンプレックス NTT R&D @ICC、慶應義塾大学 松川昌平研究室+SBC合同研究会+archiroid、慶應義塾大学 鳴川肇研究室、具志堅裕介、小林椋、和田夏実
http://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2017/open-space-2017-re-envisioning-the-future/