2017年3月に任天堂より発売された、Nintendo Switchのタイトル『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は、全世界のゲームメディアが選ぶ「The Game Awards」を始め、世界中で2017年最高のゲームの栄冠に輝いた。近年、海外製のゲームの隆盛が目立つなかで、伝統的なシリーズタイトルを冠した日本製のゲームが世界的な評価を得たことは、多くの注目を集めた。本作をそれほどの作品に高めた「オープンエアー」という開発コンセプトとは。
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』パッケージ
1986年に任天堂がファミリーコンピュータ ディスクシステムで『ゼルダの伝説』を発売して以来、『ゼルダの伝説』シリーズは任天堂の様々なハードで多くのタイトルが展開されてきた。その多くが、プレイヤーがキャラクターを動かしながらアイテムを取得したり、敵を攻撃したりすることで物語が進むアクションロールプレイングゲームであり、今回取り上げるNintendo Switch・Wii U『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』もゲームとしての基礎は同様だ。
貫かれているコンセプト「オープンエアー」
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』はこれまで「オープンワールド」と呼ばれてきたジャンルを踏襲している。オープンワールドとは、あらかじめ決められた行動やストーリーをこなしていく直線的な構造ではなく、広大なマップを自由に動き回りながら課題(クエスト)を解決していくという構造をもったゲームの呼称で、ここ10年ほど世界のゲームを牽引してきたジャンルの一つだ。
しかし任天堂は、本作をオープンワールドとは呼ばない。「スーパーマリオブラザーズ」の生みの親としても知られ、本作のエグゼクティブプロデューサーを務めた宮本茂は、本作のコンセプトを「オープンエアー」と呼ぶ。オープンエアーとは、宮本が語るところによれば「プレイヤーがやりたいことはなんでもできるが、それがエンターテイメントの一種であるようにしたかった」(註1)という志向であり、それは「ただ通りすぎるだけの世界ではありません。プレイヤーがその世界の一部になるような世界」(註2)でもあるという。
実際にゲームをプレイしてみると、宮本が目指していたところがよくわかる。本作の最大の特徴は、用意されたマップ上のどこにでも行くことができる、という点だ。旧来のオープンワールドは、自由度の高さを標榜しながらも、壁や崖を登ることができないことが多かった。広いマップを用意してあっても、地形によってキャラクターの移動範囲が制限されており、その制限によってプレイヤーはアイテムやイベントといったゲームの進行要素に誘導されていた。
しかし本作の場合は、マップ上の全ての壁や崖が登れるようになっている。壁に登っている間は体力の概念である「がんばりゲージ」が減り続けるので登り続けることはできないが、このゲージをゲームの進行につれて増やすことで、行動範囲が増えていく。
また、それらの地形もただ自由であるだけでなく、プレイヤーの次なる行動を推進するように考えられている。例えば、進行ルート上に山が現れた時には、プレイヤーの行動として登頂と迂回という分岐が発生する。本作のシニアリードアーティスト米津真によると、山を越えるにしても、回りこむにしても、途中で高い塔のような目標物を視認させるように設置し、次なる行動欲求を促すフィールド設計にしたという(註3)。製作者側の恣意性を感じさせずに、ゲームとしての次なる行動の欲求をストレスなく提供するようにしているのだ。
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』1st トレーラー
プレイヤーの自由を設計する
フィールド上での行動だけでなく、謎解きの要素でもプレイヤーに自由を感じさせる工夫が試されている。本作では主人公の能力を強化するために「祠」と呼ばれる謎解きのステージをクリアする必要が出てくる。例えば「金属の箱を磁力で動かす」、「ひび割れた壁を爆弾で破壊する」といった能力を組み合わせてパズルのように解いていくわけだが、この解法がどの祠でも複数用意されている(註4)。制作側が用意した一つの解法を見つけることがステージクリアなのではなく、プレイヤーが自ら考えた結果としてのステージクリアであることを感じさせる演出が行われている。
他にも、落雷がある時に敵の近くに金属の武器を投げればそこに雷が落ちて敵を攻撃できたり、リンゴの木に火をつければリンゴが回復効果の高いアイテムの焼きリンゴになるといったように、プレイヤーが自ら考えて行った行動が、ゲーム内の世界に作用するという体験がいつでもできる。プロデューサーの青沼英二はこれを「かけ算の遊び」と呼ぶが、それらをゲームに実装するためには膨大な数のパターンと組み合わせを考える必要が出てくるという。開発チームはこのために、手間のかかる3Dではなく、初期のゼルダシリーズのような2Dのプロトタイプで試作を繰り返した(註5)。広大なフィールドにおける構造物の配置も、スタッフが慣れ親しんだ京都の街に一度置き換えて場所の距離感を把握する助けにするなど(註6)、ユニークな開発手法が取られているのも特筆すべきだろう。
本作の開発途上でオープンエアーというコンセプトが発表されたとき、単なるオープンワールドの言い換えであると見て取る向きも多かった。しかしながら、このオープンエアーの思想は、見事にゲームジャンルの基準を塗り替えることに成功した。自分の行動が世界に対して作用するという、最初にビデオゲームに触れたときに覚えたような感動を、再び引き出すことが、このゲームの根幹を形づくっている。ゲーム史に残る作品であることは間違いない。
(脚注)
*1~2「宮本茂氏がゼルダ最新作をオープンワールドゲームと呼びたくなかった理由」 IGN JAPAN http://jp.ign.com/the-legend-of-zelda-hd/3220/news/
*3 「[CEDEC 2017]「ゼルダの伝説BotW」の完璧なゲーム世界は,任天堂の開発スタイルが変わったからこそ生まれた」4Gamers.net
http://www.4gamer.net/games/341/G034168/20170901120/
*4
「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』祠の解法は3つ以上!? DLC&新作も聞く、アタリマエを超えた驚異の作品作りに迫る開発者インタビュー【後編】」ファミ通.com
https://www.famitsu.com/news/201704/21130695.html
*5
「【ギャラリー付き】ファミコン風の2D「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」プロトタイプの存在が明らかに」IGN JAPAN
http://jp.ign.com/the-legend-of-zelda-hd/11881/news/2d
*6
「【CEDEC2017】「ゼルダ」のマップは京都から始まった!?」GAME WATCH
https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1078569.html
(作品情報)
ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド
対応ハード:Nintendo Switch、Wii U
メーカー:任天堂
© 2017 Nintendo