中村政人を中心に活動している、アーティスト・イニシアティブ、コマンドNの20周年企画展に関連したトークイベント。中村に加え、キュレーターの四方幸子、編集者の伊藤ガビン、ジャーナリストの千葉英寿を迎え、「メディア」をキーワードに議論を展開した。
トークイベントの様子
伝説の展覧会「秋葉原TV」を振り返る
美術界の構造に対し、アーティスト自身が新たなフレームを探るべく、常にオルタナティブなシーンやそのあり方を提案してきたコマンドN。マッキントッシュ(現Mac)で新規ページを作成するショートカットキー「command」+「N」を由来としたその名のごとく、「アーティスト」の枠を超え、プロジェクトやスペースの企画、運営など数多くの「新しいページ」を開いてきた。その代表的な活動の一つに、1999年に第一回を開催し、以後第三回まで開催されたプロジェクト「国際シティビデオインスタレーション秋葉原TV」(以下、「秋葉原TV」)がある。秋葉原の電気街に並ぶテレビやパソコンのモニター数百台に、30組前後の作家による映像作品を同時に流し、秋葉原がビデオインスタレーションのまちに変わった。
中村政人はこの「秋葉原TV」を開催したきっかけについて、学生時代にソウルに留学した経験が影響している、と話した。「1990年前後のソウルのまちはカオスな状況でした。東京と大きく異なる、その欲望がむき出しになったようなまちに感化され、いかに新たなフレームをつくっていけるか、と考えたのです」。
かつてウェブマガジン「ASCII24」の編集者として、「秋葉原TV」を取材した千葉英寿は「『秋葉原TV』を見て思ったのは、機器に対するコンテンツの可能性です。テレビにテレビ放送が流れていない。いまはその状況は当たり前になったけれど、予言している感じがありました」と当時を振り返った。
サキサトム「Own Space1」「Own Space2」[2000]第2 回国際シティビデオインスタレーション「秋葉原TV2」店舗での展示の様子、オノデン新館、東京(2017)
エルケ・ボーン「TV kid」[2002]コマンドN 20周年企画展 「新しいページを開け!」3331 Arts Chiyoda(2017)
メディアを受け取る人・発信する人の変化
コマンドNや登壇者の最近の活動について触れながら、「秋葉原TV」以降のデジタルメディアの状況について話は進んだ。InstagramやYouTubeなど誰でも映像を投稿でき、閲覧できる現代。映像系情報サイト「NEWREEL」の編集に携わる伊藤ガビンは「コミュニケーションツールとしての映像の使われ方が面白い」と話した。「例えば、YouTuberのなかには大学の講義のような映像コンテンツを作って配信している人もいて、eラーニングとは別のシステムでマネタイズが起こっています。編集技術も以前に比べあがり、映像の技術者ではないのに小気味いい編集をするYouTuberもたくさん出ているんです」。
四方幸子はデジタルメディアの普及により、アートが消費される側面を孕むことについて懸念した。「メディアアートに関しても、アートやテクノロジーについて深く掘り下げた展示がある一方、いまやプロジェクションマッピングはどこでも見られます。メディアアート的なものが非常に増え、まち自体が『スクリーン化』しています」。
それに対し伊藤は「たくさんみると、いずれ人は飽きてしまう。飽きることが重要で、そのあとに何が残るか。そこで初めて細部を見ることができればいいと思います」と話した。
続けて伊藤は「例えばTwitterだと、どんなふうにつぶやけば拡散するか、といったスキルは使っているうちに磨かれていきます。ですが、そのスキルがある人、つまり直感というものをコントロールする人が勝ってしまう状況は貧しいと思っています」とSNS活用の難しさを語った。
「メディアアート」とは?
これまで、それぞれの立場から「メディア」と「アート」に関わってきた4人の登壇者。中村は、美術の成り立ちから「この二つの言葉をつなげなくてもいいと思っているのですが」と前提を置いたうえで、四方に「メディアアート」の定義について投げかけた。「あえていうならば、やはり複製技術が登場した以降の時代のこと、つまり19世紀末以降のことをメディアとアートの重要な側面として捉えています。それぞれの時代の『メディア』の意味や特異性も違いますが、それらをつなげて考えることが重要です。私の考えるメディアアートは狭いかもしれませんが、技術に対する鋭いまなざしや批評性があるもの。コマンドNにもそのマインドを感じています」と四方は話した。
それぞれの立場や時代によって言葉の意味や定義は変わるが、めまぐるしい技術革新とともに歩んできた「メディア」と「アート」の分野は、特にその揺れ幅が大きいだろう。新しいページが開かれるたびに、言葉やその定義も更新していくことが必要だ。
(information)
-コマンドN 20周年企画展「新しいページを開け!」関連トークイベント- Powwow/46 [メディア×アート×アキバ=混ぜると危険!?]
登壇者:四方幸子(キュレーター)、伊藤ガビン(編集者)、千葉英寿(ジャーナリスト)、中村政人(コマンドN)
日程: 2017年11月11日(土)
時間:14:00-16:00
料金:無料 ※要展覧会チケット
会場:3331 Arts Chiyoda 1Fメインギャラリー内
http://www.commandn.net/20th_anniversary/powwow46/