平成29年度メディア芸術連携促進事業の報告会が、2017年12月8日(金)13:00〜16:15に国立新美術館3階講堂で開催された。メディア芸術連携促進事業は、メディア芸術分野における、各分野・領域を横断した産・学・館(官)の連携・協力により新領域の創出や調査研究等を実施する事業だ。本事業の目的は、恒常的にメディア芸術分野の文化資源の運用と展開を図ることにある。中間報告会では、本事業の一環として実施した「連携共同事業」に採択された9事業の取り組みの主旨や進捗状況が報告された。
【マンガ】
- マンガ原画アーカイブのタイプ別モデル開発
学校法人 京都精華大学 - 第6回マンガ翻訳コンテスト
デジタルコミック協議会 - 国内外の機関連携によるマンガ雑誌・単行本等資料の連携型アーカイブの構築と人材育成環境の整備に向けた準備事業
学校法人 明治大学
【アニメ】
- アニメ制作従事者に関する記録の調査及び活用の為の準備作業
特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構 - アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018
一般社団法人 日本アニメーター・演出協会 - アニメーションブートキャンプ2017
森ビル株式会社
【ゲーム】
【メディアアート】
- 1970年大阪万国博覧会参加企業・関係者・関係団体の資料の現状調査と資料目録の作成
国立大学法人東京芸術大学 東京藝術大学
マンガ原画アーカイブのタイプ別モデル開発
学校法人 京都精華大学
報告者:京都精華大学 国際マンガ研究センター 研究員 伊藤遊
伊藤遊
【概要】
メディア芸術分野の文化資源として重要な位置を占めるマンガに関する史資料の収集、整理・保存、利活用を実践し、その成果を検証することで、作業手法の進化や開発を図る。同時に、対象であるマンガ文化史資料に関する、価値付けの検討を行う。これにより、今後整備されるべきその他のポピュラーカルチャーのアーカイブ構築や、その史資料の価値付けの際に参考となる指標の提供を試みる。本事業では、マンガ文化史資料のうち、マンガの〈原画〉を取り扱う。現在、マンガ原画のアーカイブ――「収集」「保存・整理」「利活用」――のモデル構築のため、調査や実践を行っている。
機関連携先(代表者)は以下の6機関(カッコ内は代表者)である。
1)京都国際マンガミュージアム(伊藤遊)
2)明治大学 米沢嘉博記念図書館(ヤマダトモコ)
3)横手市増田まんが美術館(大石卓)
4)北九州市漫画ミュージアム(表智之)
5)東洋美術学校
6)新潟市/新潟市マンガ・アニメ情報館
【中間報告】
現段階では、マンガ原画の「保存・整理」について考えるため、ヤマダトモコ代表のもと「保存修復研究部会」を立ち上げ、各連携機関所蔵の原画の状態調査を実施している。また、マンガ原画の「保存・整理」および「利活用」について考えるため、倉持佳代子代表の「マンガ家インタビュー部会」では、マンガ原画の保存状況や活用のあり方について、マンガ家および出版社関係者にインタビューを実施した。
業界全体で取り組むべき問題点として、マンガ原画の保存作業や調査に関わっている人材に対し、将来的なメディア芸術事業の現場で活躍してもらうための「制度」整備の必要性を指摘した。
また、データベース登録の対象となるものの基準、用語表記のゆれ、扱いがデリケートな原画類の保管方法などについては、各連携機関と連携・協議を重ねながら模索する予定である。
※敬称略
第6回マンガ翻訳コンテスト
デジタルコミック協議会
報告者:株式会社集英社 ライツ事業部海外事業課 課長代理 関谷博
関谷博
【概要】
マンガ翻訳家志望者を育成し、活躍の場を増やすこと、世界のより広い層に日本の漫画文化を発信する事を目的としている。文化庁及びデジタルコミック協議会(デジコミ協)が主催となり、翻訳コンテスト運営事務局を電通、公式ホームページ制作・運営を株式会社ディー・エヌ・エーの100%子会社の米国法人・MyAnimeListが担当した。マンガ翻訳コンテストは、課題作の翻訳を応募し、ファイナリストの発表・受賞者決定ののち、トライ&エラーを経て、授賞式・シンポジウムが行われる。
本プロジェクトのプロモーション活動として、デジコミ協加盟社への周知や国内のマンガ/翻訳関連施設や学校への告知、SNSでの告知などを行った。また、課題作品にちなんだ日本文化紹介の動画を制作し、応募者以外も楽しむことができ、日本文化に触れてもらうためのコンテンツを用意するなど、特にホームページ上のコンテンツなどを工夫している。
【中間報告】
今回の対象作品は『ハチ参る』『であいもん』『ニューヨーク・ニューヨーク』の3作品で、応募件数は249件と、今回も過去最高を記録した昨年並みの多さとなった。
問題点としては、「デジタルコミック協議会」は任意団体のため、協議会全体の事業として独自予算を使うことに限界があり、加盟各社が独自にプロモーションすることも難しいことが挙げられた。デジコミ協以外の団体との連携、協賛、協力してくれる機関や企業を国内外問わず広げて、対象作品以外にも多くの作品を広めていくことが重要となってくる。
※敬称略
国内外の機関連携によるマンガ雑誌・単行本等資料の連携型アーカイブの構築と人材育成環境の整備に向けた準備事業
学校法人 明治大学
報告者:日本アスペクトコア株式会社 文教支援ソリューション営業部 小林真理
小林真理
【概要】
本事業では、平成27年・28年度に京都精華大学主体で実施された「施設連携によるマンガ雑誌・単行本の共同保管と人材育成環境の整備」で得られた知見を引き継ぎ、下記の3つの目的を軸に、国内外の連携機関による、マンガ単行本等資料の連携型アーカイブの構築及び人材育成環境の整備に向けた準備事業を行う。
1)マンガ単行本等資料の連携型アーカイブの構築
2)マンガ単行本等資料の国内連携型アーカイブ普及に向けた取り組み
3)マンガ雑誌・単行本等の取り扱いに習熟した国内外のおける人材の育成
具体的には、明治大学が所蔵する20,000冊の未整理マンガ資料を熊本共同倉庫(熊本マンガミュージアムプロジェクト主管)に移送し、正本・複本の分別を行う。正本は明治大学米沢嘉博記念図書館所蔵資料として目録を整備し、複本は海外(中国、ブラジル)の連携先へ移送する。また、正複分別・目録整備作業で得た知識をマニュアル化する。
【中間報告】
現在、熊本共同倉庫での正・複分別作業は81%、海外への移送作業は中国分が13%、ブラジル分が3%発送準備を完了している。正本・複本選別作業は順調に推移しているが、正本データ作成が遅延しており、それに伴い、正本返送作業も進捗していない。
また、海外連携先への移送に適さない青年マンガ(過度な性表現や暴力描写を含んだもの)が多数、複本に含まれていることが判明した。その対応策として、海外の連携先に「移送候補タイトルリスト」を提出し、移送に適した資料かどうかの判断を依頼した。
※敬称略
アニメ制作従事者に関する記録の調査及び活用の為の準備作業
特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構
報告者:特定非営利活動法人 アニメ特撮アーカイブ機構事務局 事務局長 三好寛
三好寛
【概要】
アニメの制作従事者に関する記録(クレジット)研究の第一人者である原口正宏の活動実態を調査し、メディア芸術データベースでの利用を企図した上で、当該データベースに記録されたデータが、汎用的に活用が可能となるように準備作業を行う。特定非営利活動法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC)を主催とし、原口正宏(リスト制作委員会)、金子英俊(アニメーション美術監督)、勝井和子(アニメーション美術監督)への取材を予定。現段階では、原口による、アニメーション美術監督の金子英俊、勝井和子へのヒアリング、サンプルデータ(金子及びアトリエブーカのフィルモグラフィ)作成、データフォーマットの調査を行っている。また、クレジットデータベース構築の手法、記録する際のルール、特徴、仕組み、データベース構築での苦労とその克服方法、クレジットデータベースの応用範囲や資料的価値について調査している。
【中間報告】
金子へのヒアリング調査回数、時間が不足しており、フィルモグラフィなど全職歴を網羅させることが困難となっている。そのため、原口には現状の調査で得た情報の範囲内で可能なフィルモグラフィ作成を依頼した。その作業過程をモデルケースに、原口のクレジットデータベース構築に係る調査や、データ活用の為の準備作業も、基礎的な事項の把握に注力する。
最終成果物として、調査結果報告書、金子英俊及び美術スタジオ「アトリエブーカ」の作品履歴(フィルモグラフィ)リストを作成する。
※敬称略
アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム(ACTF)2018
一般社団法人 日本アニメーター・演出協会
報告者:一般社団法人 日本アニメーター・演出協会事務局 事務局長 大坪英之
大坪英之
【概要】
「アニメーション制作に係わる現場事業者が必要とするデジタル制作技術に関する情報提供の機会を創出する」ことを目的とし「ACTF2018」を2018年2月10日に開催する。ココネリホール(東京)をメイン会場とし、サテライト会場として、札幌放送芸術専門学校、日本アニメ・マンガ専門学校(新潟)、大阪アニメーションカレッジ、京都精華大学、九州ビジュアルアーツ(福岡)等を予定している。中継拠点数は昨年の5拠点から増加予定である。開催に先駆け、定例会議、勉強会、ワークショップ等を開催し、アニメーション監督の入江泰浩によるライブドローイング(USTREAM中継)なども行った。
【中間報告】
一昨年開催した利便性の良い会場ではあるものの、施設予約の理由からメインセッション会場は3ホールから2ホール体制に縮小となり、展示はホワイエで行う予定である。
近年、業界内のデジタル化に関する他事業も盛んに開催されているが、あくまでも制作者に注目して、多彩な表現ができるような技術・情報提供の場として活動し、制作現場の実作業者が実感を得られる発表・出展内容に心がけたい。
※敬称略
アニメーションブートキャンプ2017
森ビル株式会社
報告者:東京藝術大学大学院 映像研究科アニメーション専攻 教授 布山タルト
布山タルト
【概要】
アニメーションブートキャンプは、アニメーション産業界と教育界とが連携して、これからの時代に即した人材の育成における様々な課題を明らかにし、ワークショップの実践を通じて解決する、人材育成プログラムの開発を目的とした事業である。岡本美津子(東京藝術大学大学院教授)をプロデューサー、竹内孝次(アニメーションプロデューサー)と布山タルトをディレクター、面高さやか(アニメーション制作・プロデューサー)をマネージャーに据え、現役アニメーターやアニメーション監督らに講師として協力頂いている。また、ワークショップへは教育機関などの見学者を募り、現場で意見交換をおこなうなど各方面と連携を図りながら事業を推進している。ワークショップ時には13台のカメラを使用し、各グループの講師とのやりとり、学生の手元の様子などを撮影し、本事業で得られる成果の可視化・アーカイブ化を試みている。具体的には将来の教育研究、教材化等の検討に使用可能な素材の記録を進めている。
【中間報告】
本事業は2012年度から実施しているが、今回は昨年度試験的に実施した3DCGを使ったワークショップのカリキュラムを発展させ、これまで開催されていた手描きアニメーションの合宿型ワークショップに3DCGアニメーションのワークショップを混在させる形で同時に行った。
また、本年度はワークショップ開催の告知にはtwitter広告を活用し、参加対象のターゲットに対して静止画と動画広告合わせて約58万回表示した。結果、募集期間中の公式ホームページへのアクセスが昨年度比の4.8倍となり、最終的な応募者も昨年度比2.3倍の49人となった。
※敬称略
ゲーム産業生成におけるイノベーションの分野横断的なオーラル・ヒストリー事業
国立大学法人 一橋大学
報告者:立命館大学 衣笠総合研究機構 専門研究員 福田一史
福田一史
【概要】
1970年代以降のゲームコンテンツをおよびゲームビジネスに携わった人々を念頭に置き、分野横断的に調査対象を設定し、聞き取り調査を行ってその記録を整備し、後世のゲーム制作、文化的財とビジネスの橋渡し、研究に資する根本資料を提供することを目指す。その手段として、オーラル・ヒストリーの収集と蓄積を行う。
オーラル・ヒストリーやインタビューはいくつか行われているものの、取り組みが散発的で、その対象が偏っている点、さらに厚みが不十分である。本事業ではより多くの作品に関わった人物、さらにはゲームコンテンツを販売し、開発・制作に必要な人材や資金を調達した人々にも焦点を当て、体系的に聞き取りを行い、聞き取り記録を整理する。
実施体制としては、一橋大学イノベーション研究センターを研究推進責任者として、立命館大学ゲーム研究センター、筑波大学大学院システム情報工学研究科の研究者と共同して進め、ゲーム開発企業やメディア・流通などのゲーム周辺産業などにインタビュー調査を行う。
【中間報告】
現段階では、一般社団法人日本オンラインゲーム協会・事務局長兼株式会社コラボ・代表取締役川口洋司、株式会社アドバンスクリエート・代表取締役、元株式会社セガ・代表取締役社長の佐藤秀樹、東京工芸大学・芸術学部・教授の岩谷徹への計4回のインタビューを実施した。
11月頭から本事業を開始し事業期間中の公開を前提としたため、短期間でのインタビューの準備や日程調整、それに対応してくれる対象者・協力者の選定に苦労した。
※敬称略
平成29年度ゲームアーカイブ所蔵館連携に関わる調査
学校法人立命館 立命館大学ゲーム研究センター
報告者:井上明人事務所 代表 井上明人
井上明人
【概要】
本事業は、国内外のゲームアーカイブ所蔵館同士の連携をはかり、ゲームに関する所蔵品の管理方法の確立や、所蔵館をまたぐ横断的検索、アーカイブのより持続可能な保存体制等を構築していくことを目的とする。昨年度までは、連携枠組みの構築を前提とするゲーム保存についての基礎的調査と設計を行い、本年度では、昨年度までの課題をもとに連携枠組みを強固なものとしていくため、より具体的な論点について調査を行うとともに試験的事業を実施する。
具体的には、第一に、ゲーム所蔵館連絡協議会の開催準備のため、国内外のゲーム所蔵館の所蔵状況の調査を実施するとともに、国内および国際の連絡協議会準備会を開催する。第二に、ゲーム所蔵館連携に関わる調査事業として、各所蔵館の所蔵ゲーム目録の紐付け、アーカイブ重点対象マップの作成、実現可能性調査を実施する。第三に、連携枠組み活用のためのプロジェクトとして、ゲーム展覧会の試験的開催を通じた利活用方法論の検討、産業界との協業についての調査を実施する。
【中間報告】
9月に国際ゲーム所蔵館連絡協議会準備会合をドイツにて実施した。また、デンマークのコペンハーゲンIT大学、デンマーク王立図書館、また昨年に引き続きドイツのライプツィヒ大学、コンピュータ遊戯博物館など2カ国、4カ所の調査を実施した。
最終成果物として、報告書、メディア芸術データベース開発版のGPIrと紐付いた各館所蔵目録、展覧会実施の際に作成するカタログの3点を作成する。
※敬称略
1970年大阪万国博覧会参加企業・関係者・関係団体の資料の現状調査と資料目録の作成
国立大学法人東京芸術大学 東京藝術大学
報告者:国立大学法人東京芸術大学 東京藝術大学 教育研究助手 和田信太郎
和田信太郎
【概要】
戦後のメディアアートの大きなエポックと考えられる1970年大阪万国博覧会の実態調査を行うとともに関連する資料の目録化を行いメディア芸術データベースに登録することを目的としている。主にメディア芸術の創造性と先進性という観点からの資料集成を実現するために、企業と個人に焦点を当て、約半世紀前に行われた来場者6,400万人を超える大イベントの概要と資料の調査を進め、所在調査とそのメタデータ化(目録化)を行う。
10〜12月にかけて、「所蔵目録データ入力」を行うために対象の所在調査とその管理者に協力依頼、ヒアリングを実施。資料の状態と管理状況を調査する。1〜2月には、既存目録のデータチェック及び整形を行いデータベースのための目録データを入力する。データベースのサンプル入力を試みその検討をする。
【中間報告】
調査対象がおよそ50年前に開催された事業であるため、資料の所蔵管理者がその内容について把握していないことが少なくない。また資料の一部では劣化(紙の酸化など)が始まり、資料の把握とデジタルデータ化が早急に望まれる。当時、大阪万博に関わった参加企業や個人、その関係者へのヒアリングは資料を理解する証言が多く調査の進展には欠かせない。
調査を進めることで、万博の中でもお祭り広場のデバイスに関わるコンピュータ制御機構、その前章となるインターメディア関連展示は、日本におけるメディアアートの草分けとして位置づけられる知見が得られた。パビリオン関連の調査に先立ってインターメディア関連展示資料の調査・研究を行うことで、より重要な資料の所在調査とデータベース化につなげたい。
※敬称略