2018年1月から3月まで放送されたテレビアニメーション『ポプテピピック』はポプ子とピピ美という2人の女子中学生のキャラクターを主人公とした、大川ぶくぶによる4コママンガが原作となっている。論理が破綻した読者を突き放すような会話や、衝動的な感情の起伏、古今東西のサブカルチャーや時事のパロディなど、その複雑怪奇な作風が話題となった。本作はそれら原作の持つ表現をさらに増幅させるような印象的な映像表現に挑戦しているが、そこには多くの個人制作のアニメーション作家たちが採用されていた。

『ポプテピピック』キービジュアル

『ポプテピピック』に込めたAC部の想い

『ポプテピピック』の特異性が語られる時に、最も多く引き合いに出されるのが映像制作ユニットAC部の登用だろう。彼らが担当した作中のコーナー「ボブネミミッミ」は、顔のパーツがさまざまに変形していたり、劇画調の絵柄が突然混ぜ込まれたり、さらには作家2人が自らスケッチブックをめくって紙芝居アニメーションを実演するといった表現が強烈な印象を与える。AC部はその20年近くになる映像制作キャリアで独特の作風を磨き上げてきたが、彼らの評価の礎となったのが、若手個人映像作家の作品を紹介する場となっていたNHKの映像作品コンテスト番組『デジタル・スタジアム』(2000〜2010年)で第1回のグランプリを受賞したことだった。
『ポプテピピック』でシリーズ構成とシリーズディレクターを務めた青木純もまた、処女作「走れ」(2003)で『デジタル・スタジアム』にノミネートされ、「コタツネコ」(2005)では年間のアウォードのファイナリストに選出されている。 映像作家として活躍する青木が、本作『ポプテピピック』ではシリーズ構成とシリーズディレクターを務めた。さまざまなスタジオや作家の作品の集合である『ポプテピピック』において、青木は若手作家を積極的に採用し、活躍の場を用意することを心掛けたという(註1)。この青木の方針の通り、かつて青木やAC部を輩出した『デジタル・スタジアム』のように、若手作家の飛躍のきっかけになる場所として『ポプテピピック』は機能していた。

「短いほう」のポプ子(右)と「長いほう」のピピ美(左)

登場した若手個人作家たち

『ポプテピピック』の制作陣として登場した80〜90年代生まれの個人作家たちを紹介していきたい。
第2, 4, 12話の「POP TEAM DANCE」を担当したUchuPeopleは、東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻出身の当真一茂、小野ハナ2人による合同会社。洋楽のミュージックビデオのパロディを取り入れつつ、フェルトでつくったポプ子とピピ美の人形を、手や髪の毛の統制による重力表現によって、跳ねたり飛んだりといった動きを躍動感たっぷりに表現した。
山下諒は本作の放映当時は東京造形大学の4年生だった。第1〜5話、第7〜10話の「POP TEAM 8bit」のドットアニメーションを担当。山下のレトロゲームへの深い造詣を下地にしたパロディを多用しながら、原作のポプ子とピピ美の顔をドットによって表現するために幾度のものリテイクを繰り返したという(註2)。
第11話の「POP TEAM EPIC」でクレヨンによるサメの夢をみるポプ子の手描きアニメーションを担当したのは池亜佐美だ。2014年に横浜市民ギャラリーあざみ野にて「いけあさみの あざみの ビックアニメーションパーティ!!」を実施した際は、施設の壁面や内部ホールに巨大な動物たちがうねりながら動くアニメーションを投影したが、本作でも短いコーナーながらダイナミックかつ立体感のある作画で、アニメーションならではの繰り返しの面白さを強調した作風に仕上げている。
東京藝術大学大学院の映像研究科アニメーション専攻に在学中の関口和希は第5〜7話、第10〜11話の「ポプテピクッキング」を担当した。関口は『ミヨの半生』(2016)で第22回学生CGコンテストの優秀賞を受賞しており、その際に評価された柔らかな印象は(註3)、本作でも体の線の動きや厚い塗りの質感によって表現され、ポプ子とピピ美というキャラクターに新たな解釈を与えている。
第8, 11話の「ポプテピピック昔ばなし」の佐藤美代は、多彩な技法を使いこなすアニメーション作家だ。近作では立川譲監督『モブサイコ100』(2016)のガラスの上に油絵を描き、その画を連続させるペイント・オン・グラスによるエンディングアニメーションが記憶に残る。「ポプテピピック昔ばなし」ではペイント・オン・グラスに加え、ガラスの上に砂絵を描き撮影するサンドアートも使用しており、ポプ子とピピ美に通常のアニメとは異なる新鮮な質感を与えた。
第8話の「ベーコンムシャムシャくん」を担当した中国出身の胡ゆぇんゆぇんは、水彩画の質感を活かした美麗な背景が印象的なNHKみんなのうたの『夢待列車』(2013)などで知られるが、本作でも水彩の透過によってベーコンの肉の質感を表現し(註4)、1分に満たないコーナーながらも強いインパクトを持つキャラクターをつくり出した。

作中にはパロディが随所に散りばめられている

個人作家をポップに生かすという功績

アニメーション作家の作品はテレビコマーシャルやウェブ広告などで話題になることも多いが、作家名が大きく前に出ることは少ない。また、短編作品が多いという性格上、公開もミニシアターや美術館、芸術祭などを中心に限定的になりがちである。しかし『ポプテピピック』は、各担当コーナーの前には必ず制作者名がクレジットされ、ネットの動画配信サービスでも数多く放映、さらにSNSでも大きな盛り上がりを見せた。ポプ子とピピ美という強烈な個性を持つキャラクターの解釈を作家たちに自由に委ねたことで、作家それぞれの作風がより強く印象づけられている。現代の消費文化を利用しながらこれからを期待されるアニメーション作家たちを広く一般に認知させるという、日本のアニメーション史に前例のない画期的な試みであったことは間違いない。


(脚注)
*1
 『月刊MdN』8月号(エムディエヌコーポレーション) ポプテピピックの表現学2「演出論」:青木純インタビュー

*2
電ファミニコゲーマー:山下諒インタビュー http://news.denfaminicogamer.jp/interview/180313

*3
http://campusgenius.jp/2016/

*4
青木純Twitterより(https://twitter.com/aokijun/status/967693689001623553

(作品情報)
『ポプテピピック』
テレビアニメーション
2018年1月6日より順次放送・配信
全12話
原作:大川ぶくぶ(竹書房『まんがライフWIN』)
企画・プロデュース:須藤孝太郎
アニメーション制作:神風動画
http://hoshiiro.jp
©大川ぶくぶ/竹書房・キングレコード