21_21 DESIGN SIGHTにて開催された「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」は、ディレクター中村勇吾による、気鋭の映像作家たちを巻き込んだ贅沢な挑戦である。小山田圭吾によって書き下ろされたテーマ曲を全体の下地に据え、構築された「音楽建築空間」とは。
巨大なプロジェクション空間。参加クリエイターたちの映像作品がかわるがわる上映される。床にも投影され、鑑賞者はその上に座って鑑賞することができる
一つのテーマ曲が流れ続ける空間
私たちが普段、何気なく聴いている音楽は音色や音域、音量、リズムなどさまざまな要素によって構築されている。「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」は、ディレクター中村勇吾による、そんな音楽の構築性を可視化した「音楽建築空間」をつくる試みだ。大きく3つの空間で構成された会場全体に、本展のために書き下ろされた小山田圭吾による新曲「AUDIO ARCHITECTURE」が終始ループ再生され、壁を隔てた空間を移動しても、途切れることなく同じ曲が流れる。さらに、会場を構成する映像作品は全てがその楽曲に同期しているのだ。
ギャラリー1は、本展におけるテーマ曲とも言うべき「AUDIO ARCHITECTURE」を堪能する空間だ。壁面にはスタジオライブ映像がプロジェクションされ、また楽曲の編集画面上に曲の構成要素(ボーカル、ベース、ドラムなど)が並ぶタイムラインをキャプチャした映像と、映画のエンドロールのように歌詞が流れる映像がそれぞれモニターに映し出されている。歌詞にはさまざまな形容詞(Loud / Quiet, Mellow / Sharp, Major / Minor, Clear / Strangeなど)が続き、空間に流れる曲のタイミングに合わせ、画面にはその単語を視覚化したようなエフェクトがかかる。
スタジオライブ映像は、Mr.Childrenをはじめさまざまなミュージシャンのライブ映像を手がける稲垣哲朗によるもの
編集画面と歌詞映像はディレクターの中村勇吾率いるデザイナー・プログラマーの集団 tha ltd.の奥田章智が制作
続くギャラリー2では、気鋭の映像作家らによって制作された、「AUDIO ARCHITECTURE」のミュージックビデオとも言える作品群を体感する。空間は中央に立つ壁面によって大きく2つに分かれ、鑑賞者が映像に入り込めるような巨大なプロジェクション空間と、個々の作品を繰り返しじっくりと鑑賞できるブース展示の空間となっている。
一つの楽曲に対する複数の映像表現
作家たちは、自らの制作テーマと本展のテーマをうまくミックスさせ、ユニークな作品に仕上げた。ここでは3組の作品について触れたい。
カノンの楽曲構造を可視化した3DCGアニメーション《パッヘルベルのカノン》(NHK「名曲アルバム+」にて発表)が記憶に新しい大西景太は、楽曲に含まれる一つひとつの音をさまざまな幾何形態と動きに置き換え、それらが一つの画面内で複雑に関係し合いながら変化し続ける作品を制作。彼はこれまでにも同様の手法を用いて制作しており、音楽の構築性は彼自身の制作テーマとも言える。しばらく見ていると、自分が無意識に特定の要素を注視し、耳にはその要素と同期する音が際立って聞こえることに気づく。カクテルパーティ効果(註1)を可視化する試みがなされた本作は、見るたびにその見え方や楽曲の聞こえ方が変化する。
大西景太《Cocktail Party in the AUDIO ARCHITECTURE》 2018年
第21回文化庁メディア芸術祭アート部門にて作品《水準原点》が優秀賞を受賞した折笠良は、作家・詩人・思想家などのテキストをモチーフに映像作品を制作している。本展でもアルファベットや記号を用い、それらが画面内を踊るように動くことで、記号が意味を紡いでは失う様を描く。本展のテーマを、自らのテーマである言語に重ね合わせている。
折笠良《エンドゲーム・スタディ》 2018年
映像を用いた空間演出も自ら行い、ダンス作品を制作する梅田宏明は、暗闇に走る無数の光の帯を「筋繊維」に見立てる。曲の流れや歌詞に呼応して光の帯が変化するその様は、音に瞬時に反応して動き出すダンサーの研ぎ澄まされた身体感覚を思わせる。
音楽による建築空間
空間と映像、そこにある要素のすべてが一つの音楽に溶け合う様はまさに音楽による建築空間を具現化している。細部から全体に至るまでテーマが行き渡った空間は、一見シンプルで、場合によっては物足りない印象を与えるかもしれない。しかしそれは、そこに不必要な要素が何一つないからではないだろうか。無駄のない構築物や建築そのものを提示されたとき、私たちは一見、見るものがないように思ってしまう。しかしそこには確かに、必然性を持って配置されたさまざまな要素が存在している。
また本展の作品をきっかけにして、参加作家たちのこれまでの作品をたどってみてほしい。今回の参加作家の多くがミュージックビデオなどを手掛けている。音を視覚化する彼らは、普段から「音楽の構築性」を必然的に意識していることに気づくだろう。作り手が見ている(聴いている)景色が垣間見え、また違った楽しみ方ができるはずだ。
会場図面
(脚注)
*1 大人数が話し合う雑音(ノイズ)の中でも、話し相手の声や、別の席で交わされる興味のある話題が聞こえる「音の選択的聴取」を指す言葉(展覧会リーフレットより)
(information)
「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」
会期:2018年6月29日(金)〜10月14日(日)
休館日:火曜日
料金:一般 1100円 / 大学生 800円 / 高校生 500円 / 中学生以下無料
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
展覧会ディレクター:中村勇吾
音楽:小山田圭吾(Cornelius)
会場構成:片山正通(Wonderwall)
参加作家:稲垣哲朗、梅田宏明、大西景太、折笠良、辻川幸一郎(GLASSLOFT)×バスキュール×北千住デザイン、勅使河原一雅、水尻自子、UCNV、ユーフラテス(石川将也)+阿部舜
http://www.2121designsight.jp/program/audio_architecture/